一一話 鉄壁の剣聖!②
「来てくださる、ドルェッジ」
一年の生徒たちは驚き、ざわめきを広げていく。
ナツが行ったのは招喚魔法で、トゥルト家に保管されている剣の一つを、場所を超えて呼び出していたのだ。この手の魔法スキルは所持者が少なく、発現も稀とスキル至上主義に於いては、権威の一つとなり得る。
「…本当に木剣で挑むつもりなんですか?」
「流石に招剣とはいえ刃は潰してあるでしょ」
「「…。」」
不安そうな視線を向ける三人には目もくれず、チマは準備運動を行っていく。
「代理人を立てるという選択肢もありますが」
「リン、これは決闘じゃなくてただの勝負よ。それに自分で勝たなくちゃ、いえ闘わなくちゃ意味がないの。負けて失うものなんてないんだから、トゥルト・ナツの靴に砂を引っ掛けて戻るわ」
「ちょっと…、その学校から貸し出された木剣で私に挑む
「武器スキルなんて持ってない凡人だから、得物は選ばないの。片手で振るえればなんでも同じよ」
「はぁ…見栄えが悪くってよ。お出でなさいな、スーパチェラ」
呼び出されたのは鞘に収まったサーベルで、ナツが一度抜き取り縦に一振りすることで刃が潰れ殺傷能力が低下した。
「これ親切にどうも。ところで、刃を潰して良かったの?」
「一時的な処置ですわ。元に戻せるので気兼ねなく使ってくださいまし」
「少し、慣らしを行うけれどいいかしら?」
「ご自由に」
傍から見ると一触即発そうに見える二人であるが、案外にも理性は働いているし壊滅的な相性というわけではないようだ。
「良いサーベルね、気に入ったわ。名前はなんて言ったかしら?」
「スーパチェラですわ」
「スーパチェラ、宜しくね。それじゃあ始めましょうか」
「ええ。実技の教師さん、駄目そうな状況になったら止めてくださいまし。熱が入っては止まれなくなってしまいますので」
(今直ぐに止めたいのですが…)
双方が納得した勝負なうえ、
「それでは両者向き合って。これは命を奪い合う戦争ではなく授業の一環、互いを尊重し無為な血を流すことのないよう心掛けて挑むように。――開始!」
教師の言葉と同時にチマが屈み、両脚を
(速いっ!スキルなしでこれとは、本当に!目障りですわ!)
勢いのまま振りかぶられたサーベルを弾く為にナツが剣を振るってみると、チマの一撃は思った以上に軽く本命の一撃ではないことを理解し、次の手を見定める。
握る力を緩めては親指を軸に背負うような、サーベルを背中に密着させるような角度へ変えてから小指で固定、ナツの脇をすり抜けていく。
ドゥルッチェの騎士剣術を修めているナツに対して、正面からの打ち合いで勝つことは、難しいどころか不可能。そそくさと尻尾を巻くが如く勢いで、一撃離脱の戦法を展開した。
(岩を殴っているかのような手応えのなさ。隙を突こうにも、騎士剣術は守りに寄った剣術だから、牙城を崩そうにも一苦労ね)
足で地面を抉るように勢いの方向を無理やりに変えては、身体を捻って繰り出す水平斬りをお見舞いし、受け止められた瞬間に足を浮かせて踵蹴りを捩じ込んでいく。
「意味のわからない身体
騎士剣術は両手で剣を用いて、剣のみで戦うことを美学とする剣術である。チマの足を躱すことが出来ず、剣での対処が不可能な状態では。
「ぐっ。軽い、軽くってよ!!」
態と攻撃を受け止めてから、反撃を繰り出した。
「!」
鼻先を過ぎ去っていく一撃に息を呑みながら、次いで繰り出される斬り上げに対処すべく、好転を繰り返し距離を取っていく。
(一撃離脱以外は攻撃を貰う可能性が高いわね、やっぱ。見たところ剣術は高位で、身体能力強化も十分だから、直に貰えば次がないわ)
「すぅー…はぁー…」
「私の強さに呼吸でも止まってしまいましたか?」
「はぁ…、そうね、ちょっと息苦しいかしら」
自身の踵を踏んだチマは、靴を半分脱いでは勢いよく蹴り飛ばし、更にもう一発繰り返してから素足で駆け出す。
「全く品が無い!」
「っ褒め言葉よ!」
靴という枷のなくなった彼女は、大地を足で掴むように
(トゥルト・ナツ。鉄壁の乙女とでも言うべきかしら、…ここまで、ここまで防ぎきってくれたからには、最高の一撃をあげるわよ)
ざわり、ざわり、チマを起点に空気が熱せられるかのような錯覚を観客たちは覚えていく。
(何か、きますわ。夜眼族の本気といったところでしょうか)
息の一つも切らすことなく、攻撃を防ぎ切り反撃を返していたナツは、ただならないその空気を掴んで、剣を構え直しジッと相手を見据えていく。
(スキルがなくとも厄介な事には変わらぬ相手、受けて立ちますわ!)
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