一〇話 修練と恋心と!③
時を少し巻き戻し、生徒会室へ。
「一人で残るのなんて珍しいね」
「リンとビャスが修練に行きたいみたいでね。先に屋敷へ置いてってもらってもよかったのだけど、デュロの顔でも拝んで
「ははっ、学校へ通ってくれるだけでなくて、雑談相手もしてくれるなんてよく出来た従妹だ」
「隙があれば政務官にしようとしてくるのに今更なにを言ってるやら」
「今でも気は進まないかい?」
「…まぁ無しではなくなったわ」
「ほう、どういう心境の変化で?」
「リンよ。あの子、優秀じゃない?政務官になってくれれば、伯父様とお父様の行っている政策の旗頭になると思って、その手伝いをしようと考えているの」
「成る程、リン嬢か。いい考えだよ、是非とも二人を政務官として起用したいね」
華やぐデュロの表情にチマは笑い、和やかな雰囲気が一体を包んでいく。その様子を見た護衛たちは、邪魔にならないよう距離を居て警護を行う。
「正式に加わるのには、デュロが身の回りを固めて、私とリンが近づいても揺らがないような土台を作ってからだけどね」
「「……」」
顔を背けたラチェは「あちゃ~」と表情を作っては頬を掻いた。
「未だ決まってないのでしょ、伴侶」
「あ、ああ。どうしても心を決めかねていて」
「他人の事言えた立場でもないけど、拗れる前に決めちゃわないと大変でしょうに」
「大変だよ、既にね…。私の心は迷い迷って常に迷路の中にいる。昔に、自分で決めたいと父上と母上に言ってしまった手前、頼るわけにもいけなくてさ」
(あぁ、嘘ばかり…、嫌になるな)
寂しげな表情で眉をしかめたデュロは、眼の前に一緒に考えてくれているチマから視線を外せずにいる。
彼にとっての初恋は、気兼ねなく一緒に過ごすことが出来、何でも打ち明けることの出来たチマ。そして恋という病は今尚もデュロを
立場、種族、政治、そのどれを考えてもチマとビャスの関係を夫婦にすることは叶わず、最も近くにいてくれる最も遠い相手となってしまっており、彼は自身の阿呆さ加減を自虐的に笑うことしか出来ない。
(王后選びの話となると何時もこの表情よね。デュロもデュロなりに考え、迷っているみたいだから余計なことは言わないで、本当に困った時に助けられるよう心の準備をしておこうかしら)
「デュロ、困ったら従妹として力を貸すから遠慮なく言ってね。私じゃ頼りなかったら、伯父様たちから意見を集めてきたりも出来るし」
「ありがとうチマ。困った時は頼りにするよ」
(従兄妹、か)
異性として意識されてないことを毎度突きつけられても、覚めることのない恋の湧泉にデュロは「中々に重症だ」と笑う他なかった。
(聞きたくない気持ちもあるけど…)
「チマの方はどうなんだい。最近学校に来ているし、お眼鏡に叶う相手はいたり?」
「あいも変わらず
「学校以外には?」
「もっと難しくない?」
(シェオは諦めているのか手を拱いているのか、…立場的に踏み込めずにいるのだろうな。チマは鈍いところがあるから、思いを伝えなければ永遠に気が付かないと思うのだが)
どこぞの知らない相手よりも、チマの事を想い幸せを願えるシェオの方が、というのがデュロの思うところ。
…だが、
「?。どうかした?」
「はぁ…お互いに大変だな」
「そうね」
「…。」
「ところで何をしてたの?」
「勉強さ。私はチマみたいに賢くないから、毎日勉強をしないと置いていかれてしまうんだ」
「してみないに言わないでくれるかしら、してるのよ勉強。人並みには頑張っている
「ちなみに、だけど。今は何処を勉強しているのだい?」
「先生曰く、三年生のところ。
「はぁあ、嫉妬してしまいそうだよ、凡庸な私では」
「デュロが嫉妬?ふふっあははは、政務官にするのが怖くなったらいつでも言ってくれていいわよ。大手を振ってのんびり暮らしを満喫してあげるんだから」
「っ!そ、そんな気はさらさら起きないさ。その頭脳は宰相として使ってもらいたいところだ」
ずいっと近寄ってきたチマから漂う
「なになに、
「ああ、序でに予習もとな」
「それじゃ私も一緒に復習しようかしら―――」
そういって更に近づいてきたチマに、昔から変わらない姿を重ねて、デュロはなんとも言えない表情を浮かべて勉強へと戻る。
「
他の役員が来ることのない生徒会室で、
(殿下もチマ姫様も違う立場であればきっと…)
(…。)
ラチェの心内を悟って麗人の護衛も小さく肯いた。
「お嬢様、お迎えに参りました」
「もうそんな時間。それじゃ私は帰るけど、デュロも途中まで一緒に行く?」
「そうさせてもらおう」
広げられた勉強道具を片付けては鞄に蔵い、麗人の護衛に手渡しては生徒会室に施錠をする。
「今日は他の方々が来なかったんですね。バァナ会長はよく見かけるので、いると思ったのですが」
「バァナは三年だから色々と忙しいのだろう」
其の実、バァナやプファはやってきていたのだが、生徒会室で仲良く勉強している
デュロとチマ御一行が校舎内を歩いていき、鍵を返却するために職員室へと寄れば、見慣れない大人が一人、チマを見つけては歩み寄ってきて護衛たちは警戒の色を露わにした。
「いやすまな、すみません!自分は李月から教師として雇われるバレン伯爵家のバレン・シュネと申しまして、布陣札で有数の実力者であるアゲセンベ・チマ様にご挨拶をと馳せ参じた次第です」
糸目に片眼鏡、着崩された白衣と胡散臭い風貌の男。
「そう、バレン・シュネね、名前は覚えたわ」
「光栄に御座います」
「だけど、先ず挨拶をするのは、こっちのデュロの方だと思うのだけど」
「ガレト・デュロ殿下もご一緒でしたか!これは失礼いたしました!」
「気にしなくていいさ。だが…チマが布陣札に強いと知っているとは、随分とそっちに造詣が深いようだが」
「下手の横好きと自他ともに認めるくらいには入れ込んでいまして、仲間内で一番強い卓越者は誰かという話題で上がりました、アゲセンベ・チマ様を知った次第です!」
(バレン・シュネ。この人も攻略対象のキャラ、布陣札の対戦相手では最強で、ちょっとおちゃらけた風が人気を博していた。布陣札に入れ込んだあまり、本業の家庭教師を疎かにして、実家から学校の教師として押し込まれたんだよね〜)
片眼鏡を持ち上げては、糸目を開きチマを視界に納めていく。
「その話し合いでは、誰が一番強いと結論付いたの?」
「ロォワ陛下ですね。アゲセンベ・チマ様は公式戦及び国際公式戦での戦歴がありませんから」
「あら、残念ね」
「いきなりで不躾だとは思いますが、
「いいわよ、挑戦者は拒まない主義なの」
「ありがとうございます!」
「それでは私たちは帰宅するので。また会いましょう、シュネ先生」
「はい、お気をつけて」
(デュロ殿下、シェオさん、バァナさん、シュネ先生、そしてビャスさん。攻略キャラは全員揃っちゃったな〜。ゲーム内のシュネとチマには一切の接点がなかったけれど、布陣札という明確な接点が生まれてしまった。…どうなっちゃうんだろうなぁ)
リンはゆらゆらと揺れるチマの尻尾を見ながら、一行と共に下校していく。
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