一〇話 修練と恋心と!①

 六尺鉄棍りくしゃくてっこんを手にしたリンは、正面に構えているビャスを見据えて、自身の動きを組み立てていく。レベル自体はリンのほうが高いのだが、チマからスキルポイントを与えられていることを考慮すると、『怠惰たいだ仕徒しと』での力の不制御考慮しても格上。油断は出来ない。

(あたしも格好いいところみせないとねっ!)

(リンさんに不甲斐ないところは、見られたくないのでっ!)

 最初にリンが動き出し鉄棍を振るう。


 チマに取って退屈な授業が終わり、生徒会室で面々と駄弁るかそのまま帰るかと考えていれば、ビャスが控えめにやって来て何か言おうと口を動かす。

「……っお嬢様、今日は生徒会がないということでしたので、ぼ僕は第六騎士団で修練を積みたいのですが。っよろしいでしょうか」

「そんなに時間を用意できるわけじゃないけど、それでもっていうなら良いわよ」

「っありがとうございます!」

「それ、私も同行していいでしょうか?」

「リンも?まあいいと思うわよ、一筆書いてあげるからちょっと待ってて。シェオは車の準備を、…私が行くと大騒ぎになっちゃうし、修練が終わるまでは生徒会室で駄弁っているから、送迎をしてあげなさいな」

「先にお嬢様をお送りしてしまう手もありますが」

「どうせ、リンを寮に送りに戻るのだから待ってるわよ」

「承知しました。それでは準備をしてまいりますので、お二人とは駐車場で落ち合いましょう」

「はい」「っ」

 チマが第六への紹介状をしたためてリンへ渡し、生徒会室へとチマを送り届けては寮へ六尺鉄棍を回収しにいき、駐車場へと向かっていく。

 公爵家に恥じることのない高級車に揺られて側門へ。半ばシェオやビャスの顔を見せれば、細々した手続きも必要ないので第六騎士団詰所へ向かっていく。

「どうも初めまして〜。ブルード男爵家の養女、ブルード・リンと申します。チマ様リキュさんとは学友でして、実力を付けるべく修練の場に加わりたく参じました」

「おおう、リキュの学友か」

「はい。同じ生徒会役員で学年も一緒なので、お話をしたり生徒会で企画を詰めたりしています」

 第六騎士団団長のキュルは息子の友人とみては気を良くし、鷹揚おうように頷きながら騎士の修練へ加わる許可を出した。

「ところリン嬢、レベルはいくつなんで?」

「三〇後半とだけ」

「そいつはすげぇ。ブルードってと西方貴族だが、実家もそっちか?」

「ええ、ルドロ村という場所でして。遠くない場所に穢遺地があり、小遣い稼ぎに通っていたんです」

「なるほどねぇ。卒業後は騎士団に?男爵家とはいえ地方だし、第六うちに配属になっちまう可能性は大いにあるが…」

「今のところは未定ですね」

「なんかあったら声かけてくれ、チマお嬢ん学友ってことなら大歓迎だ」

(当然だけどレィエ宰相の力が及ぶ圏内だと、チマ様の求心力ってかなり強いよね。為人ひととなりもあるけど)

「聞いた通りチマお嬢のご友人だ、失礼のないようにな。時間もそんなに残っていないが、先ずは簡単なことからやっていくぞ」

「はいっ!」


 先ずは基礎的な訓練。魔法を用いない騎士は身体能力強化のスキルを保有しているのだが、スキルは元となる者の身体能力に依存して強化が適応されて。

 ただスキルポイントを割り振っているだけの者と比べると、日々修練を欠かさず鍛え抜いている方が実力を発揮する。

 故に騎士という存在は、体を鍛え肉体を維持することも職務の一環であり、警邏や警備等の職務と同じように修練にも給金が発生するのだ。

 そういうわけで第六騎士団式の修練に加わっていくリン、彼女はレベルもそれなりに高く身体能力強化にスキルポイントを割り振って、十分高い水準にいると思っていたのだが。

(結構キツいかも…)

 現在第六騎士団にいる面々のレベルは40が基本となっており、魔法師(魔法を主に用いる騎士)ですら長距離移動や行軍に耐えられるよう身体能力強化にポイントを振り分け鍛えている、そんな場所。学業を怠っていないリンにはやや厳しい修練となっていた。

「はっ、はっ、ブルード・リン嬢、無理はなさらぬように!我々も、大変なのでっ!」

「はいぃっ!」

 因みに学校卒業したて騎士志望の子息令嬢や、市井から試験に合格してきた者らは、六つの班に割り当てられ騎士見習いとして穢遺地へと送り込まれて、水準に達するまでレベル上げを行うのだとか。魔物と先達に揉まれたうえで、心の折れなかった者たちがこうして騎士団に配属されては、国のため民のために働いていくのだ。

「はっ、お前(めえ)ら今日はやる気じゃねえの。言っとくがチマお嬢の友人だ、粉でも掛けようってなら縄で縛ってゲッペに捨ててくるからな」

「「滅相もないです!!」」

「それじゃあ恥ずかしい姿なんかを見せるなよ、もう一通り追加だ!」

「「押忍!!」」

 リンは無理をしすぎない程度に食らいついていき、ビャスの様子を確かめるべく視線を動かしてみれば、そこには汗を流しながらも確実に追いついている少年、いや青年の姿があり。

(きゅんっ!)

 推しの流す綺麗な汗にトキメキ、見惚みとれそうになっていたのだとか。

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