九話 思い出の音色!②
(よし、今日から俺、いや私はアゲセンベ家勤め。孤児院や学校で面倒を見てもらった恩をかけせるよう、誠心誠意頑張らないといけません!)
グッと拳を握り力を込めたのは一五歳のシェオ。アゲセンベ家の資金提供する学校を卒業し、アゲセンベ家に雇ってもらった彼の業務初日である。
「あまり肩肘張りすぎると出来ることも出来なくなってしまいます。先ずは気楽に職務に挑んでください」
「はい、トゥモ
「ところで一つ質問なのですが、騎士団からも見習いの誘いが届いていたと耳に挟みまして。どうしてアゲセンベ家に?」
「孤児院、学校とアゲセンベ家の旦那様に助けてもらい生きながらえたようなものなので、大恩を返すべくこちらへの志願をした次第です」
「そうですか。ここには同じような方が多くいますので、他の方とも上手くやれるでしょう。頑張ってくださいね」
「はい!」
未だ未だ青いシェオは元気な返事をしては使用人業務へと打ち込んでいき、庭先で剣鍛錬をしている
(あの方がアゲセンベ家のお嬢様。幼いのに剣術を習っているなんて、骨太な方なのでしょうか?)
興味が湧いたシェオは仕事を熟しがてら庭へと向かっていき、邪魔にならない場所に陣取っては観察していく。
(筋は良さそうですが、幼いってこともあって強さは感じられませんね。ただ、あの独特な剣術は厄介そうな)
「今日はこんなところかしら」
「お勉強もありますから、程々にしておきましょうか」
木剣を老年の侍女へ預けたチマは、一度息を吐き出し屋敷内に戻ろうと踵を返す。すると見慣れない使用人と視線があって、首を傾げていた。
「見ない顔ね、新人?」
「は、はいっ!俺、じゃなかった私は本日付けで勤務することになりました、使用人のキャラメ・シェオです!仕事を怠けていたのではなく、お嬢様が変わった剣術を修練していると思い、見学をさせてもらった次第にあります」
「私はアゲセンベ・チマよ。見学は程々にね、シェオ」
仕事を抜け出して怠けていたことは気付かれており、チマに小さく笑われたことを恥じたシェオは険しい顔を見せて、屋敷に戻る彼女を見送る。
(―――めっっっちゃ可愛いお嬢様だった!)
揺れる尻尾の後ろ姿を凝視していたシェオは、胸が高鳴り頬が上気するのを感じては、初恋という双葉が開いたことを自覚して少しばかり戸惑っていく。
シェオは
だが
職務とチマへの恋心に慣れ始めた頃、シェオは彼女へ何故諦めないのかを問いてみれば。
「私のせいでお父様やお母様、伯父様、私に関わる皆が悪く言われるのが嫌なの。それに諦めなければ何れ道が開かれるかもしれないでしょ、漫画でもそういう話しはあるし」
「そう、ですか」
「シェオも無駄と思う口かしら?」
「いえ、全く。お嬢様、もしお嫌でなければ私も様々な挑戦に加えてはいただけませんか?私には使用人としての職務がありますので空いた時間になってしまうのですが」
「ふむふむ、一人でやるよりも楽しいかもね。いいわよ、空いている時間に私のところへいらっしゃい」
ご機嫌そうなチマは柔らかな笑みを咲かせて、小さな手を差し出す。
「シェオが飽きるまで協力してちょうだいな」
「はいっ!」
軽く握手をしたシェオは自身の手を見つめて、宝物を包むかの如く優しい握り拳を作っては口端を上げていた。「あらあら」と微笑む侍女を気にした風もなく。
(使用人衣は縒れていませんよね…、皺は…なし。よしっ)
「失礼します」
「入っていいわよ」
やや緊張の色が見えるシェオはチマの言葉に促されて私室へ足を踏み入れた。
「今日は時間があるということだったけど、楽器の覚えはあるかしら?」
「楽器ですか…、恥ずかしながら」
「ふふっ、別に恥じることはないわよ。これから覚えていくのだから」
「私がですか?」
「そうよ。私は結果的にスキルが発現すればいいのだから、貴方に教えるのも楽器を扱うことに変わりないわ」
「承知しました。それでどんな楽器を教えていただけるのですか?」
「私の出来る竪琴でも良かったのだけど、今日は四弦琴を使って」
頷いたシェオは四弦琴を手にとっては椅子に腰掛け、軽く弦を弾く。
ポロンポロンと鳴る音を確かめながら、隣に寄ってきたチマに胸を高鳴らせながらも、七つ年下の女の子に楽器を習っていくのである。
「今日はこんなところかしら」
「楽器とは中々に難しいですね」
「覚えが良いから一緒に演奏して楽しむくらいなら直ぐよ。楽しみだわ」
「頑張ります」
シェオが机に四弦琴を置いて一息つくと、チマは自分の椅子を小さめな竪琴の前へ置き三六本ある弦を一旦撫でては音を確かめ、演奏を開始していく。大絶賛する程の腕前ではないのだが耳心地の良さはあり、なにより小さな身体で竪琴を弾く姿が愛らしくシェオはご満悦だ。
「お上手ですお嬢様!ドゥルッチェ
「いつか本物を聴けるように同行させてあげるわよ。楽団鑑賞なんて行ったらひっくり返っちゃうわね」
「そんなにですか。私はお嬢様の演奏がす…ごく良いと思うのですが」
「スキルがあるわけでもない、そして手当たり次第になんでも挑戦しているから、特別上手じゃないの…残念ながらね。遊びの
子供らしからぬ憂いを帯びた表情にシェオは胸を締め付けられる思いをし、直ぐ様にチマの眼の前へ跪いては手を取る。
「私は未だアゲセンベ家に仕えて日も浅く、お嬢様の事を詳しく知っているわけでもありません。然しそれでも毎日、稽古事に打ち込んみ勉学も欠かしていない姿を目にして、感銘を受けていたのです。ですからお嬢様は将来、このドゥルッチェに、いえ大陸に二人といない素晴らしい女性へと成長しますよ」
「そう、なら諦めることなく進んでみようかしらね。色々と試しながら」
ころころと陰りのない笑みを咲かせたチマへ、大胆な事をしてしまったと内心焦るシェオ。二人は苦楽を共にし様々な稽古事へ挑戦するのだ。
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