九話 思い出の音色!①
「失礼いたしますわ!」
生徒会の扉が開け放たれて姿を見せたのはトゥルト・ナツ、自信に満ち溢れた表情でチマを一瞥し堂々とした態度で歩みを進めていく。
「紹介をしますね。トゥルト
バァナが表情に出すことはないのだが、どこか引き気味な雰囲気が漂っており苦労したことを伺える。
「貴女、楽器も出来たのね」
「当然の嗜みですわ。まあただ、
ドヤァとチマに表情を見せつけるのだが、これといって悔しそうな表情をするでもなく、家族や周囲の者を馬鹿にされているのでなければ敵対することもないので。
「本気じゃない。当日は足を引っ張らないように頑張るわ」
「当日だけでなく、事前の練習も怠らないでくださいまし」
「ええ、分かっているわ」
感心の視線を向けられて、ナツは面白くない表情を僅かに見せていた。
(よかったぁ…、この場でバチバチやられても困っちゃうからね~。…まぁナツ様はバチバチしてるけど)
(前回よりも大勢の前で演奏することになるのだから、練習量を増やしておかないといけないわね。ビャスの鍛錬はシェオにでもお願いしちゃおうかしら)
(アゲセンベ・チマ、貴女よりも輝いてデュロ殿下の目を私に向けて見せますわ)
因みに胸を撫で下ろしたのはリンだけでなく他の面々もである。宰相レィエを面白く思わない貴族の筆頭がトゥルト家であり、派閥的にも半ら敵対に近い状態。本人らには直接関係ないといえればいいのだが、親の関係は子に直接影響するもので、チマが登校した日に
「トゥルト・ナツは生徒会に入るの?」
「悪けれど人数を変えるつもりはないし、ナツ嬢本人が一番わかっているだろう?」
「…っ、はい…」
いくら勢いがあるトゥルト家とはいえ、王族の在籍する生徒会へ圧を掛ける事は不可能だし、レィエの娘であるチマの存在が非常に大きい。
(分かっていますわ…、わかっていますとも。だから少ない機会に私を見て貰う必要がありますのよ!)
「何処かで音合わせもしないといけないわね。どうせならいい音を皆に聞かせたいし」
「い、いいですわね!」
(敵ながら良いこというじゃありませんか!)
それに対してデュロは「
「構わないが多く時間を取ることはできないからな」
「細々とやればいいのよ。明日、いや明後日にでも一度音合わせってことでどう?」
「よろしくってよ」
「分かった時間を用意する」
ポピィとプファも了承して、練習の時間が決定していく。
時を置いて。
「近いから、この教室を使うとしようか」
デュロたち演奏班御一行は空き教室と化している生徒会室の隣に移動しては、楽器の調律を簡単に行っていく。
(知ってはいましたがアゲセンベ・チマが使うのは
「何を演奏するの?」
「フレージェン・ショトの『秋風の河川』なんてどうでしょうか?」
「簡単な楽曲だから合わせには丁度いいだろう」
「ええ。当日の楽曲は追々で決めていけばいいので、とりあえずは合わせを重要視し、当日に楽しんでいただけるだけの腕を培いましょう」
「私も演奏したことがあるし譜面も覚えているから問題ないわ」
「譜面をいただけますか?自信が無いわけではありませんが、足を引っ張るような真似はしたくありませんので」
「用意してありますのでどうぞ」
「ありがとうございます」
譜面を簡単に読み込んでいき、記憶を頼りに一通り演奏してみれば、ナツは問題なく五人は合わせの演奏を開始する。
(お嬢様があんなにも楽しそうに…)
シェオはもやもやとした感情を胸に抱きながら、学友と演奏している姿を眺めていた。
自身が学校へ行くように促して、その結果としてこの場所があるのだが、稽古や練習と称して一緒に行動を共にしていた身からすれば巣立ってしまったような、一抹の寂寥感と幾ばくかの嫉妬心を胸に宿している。
(お嬢様にとって私はただの従者に過ぎませんし、身勝手を叱られてからそんなに日も経っていません。疚しい心は放り捨てなければ…。初めてお嬢様と共に稽古事をしたのは確か、楽器の演奏でしたね)
昨日の事のように思い出せる竪琴の音色を、練習風景に重ねてシェオは護衛を行っていく。
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