八話 剣術と猫好き!③
木剣を振るい重さを確かめたチマは準備運動をしつつビャスへと視線を向ける。
「
「…っ」
頷きを返したビャスも木剣を振るい、手に馴染ませては
(今日こそは夜眼剣術を形にしたい…)
ビャスが複雑な表情をしているのには理由があって、チマとの手の空いているマイによって教えられている夜眼剣術だが、種族の違いもあってか習得は遅々とした進みで、会得仕切ったとは言えない状態が続いているからだ。
夜眼族の二人は口を揃えて「スキルとしてでなく、技術体系としての『剣術』はスキルで習得できないから、ゆっくりと覚えればいい」と言ってくれているのだが、強くなるために一日での早く会得したいと考えるビャスは、屋敷に勤めてから数度目の模擬戦闘をチマに頼んでいた。
「っお嬢様、その…しゅ習得のコツとかはないですか?」
「コツねえ…小さい頃からの継続としか。まあそうね、柔軟体操を念入りにして身体を柔らかく使うことね。毎回同じ事を。言っている気がするけど」
「…っわかりました」
チマの身体は非常に柔らかい。前屈をすればペチャンと足と腹がくっつき、Y字どころかI字バランスまでやってのける程で、それを元手にした器用な身の熟しが夜眼族の強みであり夜眼剣術の根幹だ。
つまり
だが、それが原因で身体を壊したり悪影響が出ない状態に限っての話し。あくまで本人の無理にならない範囲でだ。
「私の準備はできたけれど、ビャスはどうかしら?」
「…!」
こくりと頷き再び構えをとり、ビャスは駆け出した。
先ずは身体を捻っての横薙ぎを繰り出す。片手で得物を扱う分、自身が振り回されないよう力の調整を行った心算だったのだが、路地裏での一件のような並外れた力は出ず、
そのままでは痛い反撃を喰らうのが目に見えている為に、急ぎ剣を引き寄せて踵で地面を蹴飛ばそうとしたビャスだが、足は既に浮いておりチマのよって振り下ろされた木剣の
「ぐ、ふっ!?」
護陣佩があるとは衝撃全てを殺せるわけでもないので、地面に叩きつけられた衝撃で空気を吐き出し、目を白黒させている。
「随分と
「うっ」
憧れの相手でもあるチマから、「腑抜けた」と言われたことが痛かったのか、ビャスは眉を曇らせながら上体を起こして剣を握る力を確かめていく。
「ろろ路地裏で殴った時みたいな、力が出ないように調整した…心算だったんですが…」
「あの時とは状況が異なるし、それ以前の今までどおりのやり方でいいと思うわ」
「はいっ」
チマに差し出された手を握り起き上がっては、土を落とし再び剣を構えてチマを見据える。
「それなんですけど、私に少し思い当たる節がありまして」
「思い当たる節?」
「実は私も第六に行って修練を積んだ際に、必要以上の力の振れ幅を感じまして。どうしたものかと屋敷で一人修練に励んだ時は問題がなかったのです」
「ビャスが路地裏と第六、私シェオが第六で妙な力の暴走が起こっている。ねえビャス、ゲッペに行った時はどうだったの?」
「も、問題はなかったです」
「特定の場所で箍が外れるわけじゃないのね」
「…。…っお嬢様と離れているとき、ですか?」
「はい、未だ仮定に過ぎませんがね。スキルを譲渡されると現れる『
「ふぅん、私の周囲にいると力が制限されると。嫌な仕様ね」
「いえ、どちらかといいますと、お嬢様の近くにいる間は上昇したスキルの制御がしやすくなっているんですよ。『大量のポイントを一気に振り分ける』なんていうのは、
「私が譲渡したスキルポイントの影響ということは変わらないわね」
「いや、そういう――」
「いいのよ別に。ただ…私から離れてしまうと力を十全に振るえないのは危ないわね。路地裏での一件のように危害を加えてしまう可能性もだけど、いざという時に実力を振るえず…なんてこともあり得るわ」
「…。第六には暫くのお世話になりそうです」
「スキルのことはよく分からないけれど、騎士の皆には悟られないよう立ち回るようにね」
「承知しました」「しょ承知しましたっ」
「それじゃもう一戦いくわよビャス。次は上手くやれるでしょ?」
「はいっ!」
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