八話 剣術と猫好き!②
「チョコレートシロップさいこ〜」
緩んだ表情のチマはパンケーキを食みながら、ご機嫌な尻尾を揺らしている。
「チマ様ってチョコレート大丈夫なんですか?」
「夜眼族は猫から人になったわけじゃないのよ。
「なるほど…」
(ゲーム外の知識、それも試験勉強から離れちゃうと途端についていくのが難しくなる…。…この世界は生きていて、ゲームなんかじゃないってしっかり胸に刻まないと。エンドロールなんて流れないし、あたしたちの人生は続いていくんだから)
「良い事づくしじゃなくて、大陸西側では魔法スキルの取得率が東側とで大きく異なっていてね。魔法師なんかは大歓迎で受け入れておらえるみたいよ。回復魔法を使えれば尚の事」
「へぇ〜!何かあったら西側へ行ってみるもの良いかもしれませんね!」
「気軽に言ってくれるけど…片道切符よ」
「え?」
「当然じゃない。こっちで言うところの
「あー…、私はドゥルッチェの方が良いですね。家族もお友達もいますし」
「良かったわ。大手を振って出ていくなんて言われなくて」
茶の香りを一頻り楽しんで、チマは優雅に茶杯を傾けて喉を潤す。
「今直ぐにというわけじゃないのだけどね」
「はい?」
「周年式典には私の親族がこちらに足を運ぶ可能性があるのよ。それに伴って
「拐かされる、と?」
「さあ、どうかしら。あまり詳しくないのよ、私は」
チマの瞳は真面目そのもの。母方の実家を悪く言うつもりはないが…、という意思表示にリンは口端を引きつらせる。
(そういう文化があるのよね。ドゥルッチェで生まれ育ったから理解を出来ないし、したいとも思わない。こっちで大人しくしてくれるなら良いけど、文化は文化、そうそうに変えられるものではないわ)
「来年の…半ば辺りからアゲセンベ家で暮らす?」
「…。お言葉に甘えるかもしれません」
「リンの事はお父様とお母様も
(レィエ宰相かぁ。同郷の
現状、明確な敵ではないのだが、チマのために物語を滅茶苦茶にしてしまう過激派。心の底から仲良く出来る相手とは思えないリンである。
「あぁそうだわ。ねえ、バァナ」
「なんですかチマ様?」
「野営会当日も演奏を入れましょうよ、盛り上がるわ。…色々と面倒になりそうだから、デュロは演奏者確定ってことで」
「私もそれは考えていました。舞踏会は皆好きですし、丁度いい暇潰しになりますからね。ポピィさんとプファさんには当日も演奏して貰いたいのですが」
「構いませんよ」
「バァナ会長からご指名なら断れませんね」
二年生の二人はキリッとした笑顔で返答をした。
「チマ様は如何なさいますか?」
「デュロが演奏組になるのだから私も演奏よ。踊る相手に困ってしまうわ」
「畏まりました、その手筈で進めたく思います。こちらも有志を募って人数を増やしましょうか」
「演奏を披露できる場であれば集まる人も多そうだし、結構な大所帯となりそうね」
「あまり多くても連携に支障が出るだけでしょうから、一人二人増やす程度で収めましょうか。先導はポピィさんがお願いします」
「はい!」
そんな会話に聞き耳を立てる少女が一人、考え込んでは会場を離れていく。
(最近のデュロ
トゥルト・ナツは先程の演奏で使われていた楽器を思い出し、演奏で必要になるであろう楽器を厳選していく。
明くる日。
「ふむ…」「なるほど?」
難しい顔を突き合わせる生徒会面々、生徒から上がった報告を見ては首を傾げていた。
「先日のパンケーキ焼きの予行演習にて多くの者が舞踏のスキル上限上昇、調理に携わった者には調理スキルと身体能力強化スキルの発現と上昇、私とポピィ、プファは楽器スキルが。…一体何が起きた?」
「質問です」
「どうぞ、リン嬢」
「こうして話し合っているという事は前例のない事態なのですか?」
「そうですね。大規模なスキルの習得や上限上昇が発生する催しがあったのならば、もっと頻繁に行われているからね」
「まあそれもそうですね」
(ゲーム内でもこんなイベントはなかったし、…考えられるとしたら『怠惰』なんていうスキルを持っているチマ様の存在。『スキルに関するスキル』を所持していて、シェオさんやビャスさんのスキル数は多くスキル上限はかなり高く上がっていた。今までこういった現象が起こらなかったのは、屋敷に引きこもっていることが多かったとか?舞踏会にも殆ど顔を出さないみたいだし)
「チマも楽器スキルでも発現しているといいのだけど…」
「ですねぇ」「はい…」
運がいいのか悪いのか、チマはこの場にいない。生徒会の面々は半らデュロ派閥で、チマに対する態度が柔らかい者たちなので、彼女にスキルが発現していることを祈っては、報告の数々に目を通す。
(ゲーム内のチマと行動してもスキルが上がりやすいなんて効果はなかった。…ゲームのとは違うスキルを所持しているのか、それとも条件があるのか。……う~ん、わっかんないなぁ~)
とりあえずビャスにスキルの習得がしやすいかどうかを聞こうと心に留めて、リンは雑談に混ざっていく。
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