夏のパンケーキ
八話 剣術と猫好き!①
第六騎士団からの大鉄板とパンケーキの材料の到着を確認した生徒会面々は、庭の一角に人を集めて予行演習の準備を開始する。
「当日の本物よりは幾分か小さい物を作る予定で、学校の料理人たちにも監督を行ってもらうことにした」
「生焼けでお腹を壊されても困ってしまいますので…」
「ご
「「はいっ!」」
「…。」
楽し気な面々へ厳しい表情を露わに向けているのはチマ、理由は簡単で上級生から口汚い陰口を叩かれたからである。
生徒会という
「耳が良いのも考えものよね」
「ははっ、また何か言われているのかい?」
「そりゃあ生徒会なんて優良物件の寄せ集め集団なんだから当然じゃない。デュロの隣に私が立とうものなら、その後に何が起こるかなんてわかりそうなことなのに、下らない妄想ばかり嫌よね」
「…、まあ、そうだね。兄妹でなく従兄妹なのか良くないのだろう」
「兄妹ねぇ。デュロと兄妹じゃなくて良かったわ」
「どうしてだい?」
「同じ親から産まれて、スキルに大きな格差があったら嫉妬で狂ってしまうわ」
「チマが嫉妬か」
「私だって人よ、嫉妬くらいするわ。スキル持ってて羨ましいなぁってね」
「可愛いものだね」
「人の気も知らずに言ってくれちゃって」
ふんす、と鼻息を鳴らせば、料理人指示の元で材料の投入と撹拌が始まり、野次馬たちもざわざわと賑わっていく。
「完成までは結構時間かかるわよね?」
「掛かるだろうね」
「見ているのも面白いかもしれないけれど、次第に飽きてくると思うから余興でもしない?」
「余興?」
「楽器の演奏でもすればちょっとした楽しみにでもなるでしょう?シェオ、
「それなら自分も同行しますよ!」
「そう?じゃあリキュもよろしく」
「承知しました。お嬢様のお使いになる竪琴は、一回り小さいもので宜しいですか?」
「あったらでいいわよ、竪琴であれば演奏には困らないから。運搬の際には誰かの力を借りて、一人では運ばないように」
「はい」
二人を使いに出せば二年生から二人も同行し、学校所有の楽器をいくつか運搬してきて、料理担当ではないチマたちが音合わせを行う。
「楽曲は、そうね。『ルーラー山脈から吹き下ろす夏の風 第二番』で良いかしら、皆聞いたことはあるわよね?」
「大丈夫です」「お任せください」
楽器の運搬に同行した二人は楽器スキルを所持しているようで、曲名を伝えただけで触りを軽く演奏し、腕前をチマとデュロへ伝えていく。
「授業で何度か聴いたが良い腕をしている。私とチマの先導を頼んでもいいだろうか?」
「っ!光栄です!」「お願いねっ!」
二年生が先導を始めた軽快な律動の耳心地良い曲は、ドゥルッチェ王国で五〇〇年ほど前にフレージェン・ショトという作曲家が西方領を一人で
第一番はゆったりとした曲調でこちらも人気を博しているのだが、大勢が集まって賑やかしい場面では第二番の方が適していると判断してチマは指示をだした。それが功を奏したのか、見物に足を運んでいた生徒たちはぽつりぽつりとダンスを始めて、簡易的な舞踏会となっていく。
ポロロン、ポロロン。生まれて間もない子鹿が牝鹿の周囲を元気に跳び回る、そんな風景の思い浮かぶ律動には、子鹿の
臨時舞踏会が始まれば、あれよあれよと方々から人が集まってきて、気がつけば大所帯になっていた。
(始めはパンケーキに夢中になってたのに、今度は踊りにって。あんまり見られていない方がやりやすいけどさ~)
リンは内心で呆れながら、パンケーキをひっくり返す準備に取り掛かる。
「三、二、一で一斉に持ち上げて、右回転でひっくり返します。幸いなことに見物客の殆どはダンスに夢中でこちらへ集中していません、失敗を恐れずにいきましょうか」
「「はいっ!」」
バァナの言葉に一同は元気よく返事を行い、大きめのターナーを手に息を呑む。
「いきますよ。三、二、一!」
「「せいっ!」」
数人がかりで持ち上げられた大きなパンケーキは、
「「よしっ!」」
「上手くいってよかったぁ!」
調理担当が喜んでいれば、それを祝うかのように楽曲が第三番へと変わって予行演習の会場は更に賑やかになっていく。
(上手くやったわねっ!ふふっ、何をかけて食べようかしら)
チマはおやつに思いを馳せながら竪琴を演奏する。
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