七話 スズキのカルパッチョ!④
「んなお」
「いらっしゃいマカロ。紹介するわね友達のリンよ」
チマの部屋に繋がるマカロ用の小扉を潜り抜けて、魅惑のもふもふが顔を見せる。チマの膝に飛び乗ってはリンへ顔を向け、そのまま
「この子はマカロ。女の子だし、妹みたいなものね」
「大きな妹ちゃんですね」
「まさかこんなに大きくなるなんて思いもしなかったわ」
チマに撫でられているマカロは気持ちよさそうに、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「リンには私たちの秘密を一つ打ち明けるわ」
「秘密、ですか」
(今更転生者でした、なんて言われたらどうしよう。
何を明かされるかと拳を握って待っていると、チマは自身の手の甲に円を描き、息を吹きかけて巻紙を生成した。
アゲセンベ・チマ。レベル21。
(怠惰?怠惰って何?どういうスキルなの?)
「これが私の所持する唯一のスキル。詳しいことはわかっていないけれど、レベル上昇時のスキルポイントが一〇倍になって、他人へスキルポイントを譲渡出来るみたいなのよ」
余剰スキルポイントは0。つまりは、この秘密を知っている二人に渡されていると理解して、ビャスの強さに納得する。
(どれくらいの配分で渡しているかは不明だけど、レベル1の段階で所持、2でスキルを振っているなら200ポイント近くが割り振られているってこと…!?)
レベル100超えが目の前にいることに気が付き、シェオがビャスに一人で市井に、それも路地裏を通るような真似をさせた理由にも納得がいく。
「期待させちゃったのなら悪いのだけど今はスキルポイントがないし、私が責任を負ってあげられない相手に譲渡する
「そういうのは別に大丈夫です、今でも困ることはないので。…この秘密はどれだけの人が知っているのですか?」
「此処にいる四人とお父様お母様ね。一応のこと伯父様も知っているかもしれないけど、それ以上は伝えてないはずよ」
「お嬢様が自由に動けている以上は、親族と我々に限られた情報となっております」
「だから秘密にね」
「はいっ、チマ様に秘密を打ち明けてもらった、その意味を然と噛み締め胸に蔵いたいと思います!」
(私の秘密は…まあいいかな、チマ様を余計な情報で曇らせたくないし。ただゲームの世界のチマには、今のシェオさんやビャスさんのようにずば抜けて強い仲間はいなかった。だから…、実力一本で作中最強になっていたんだ…)
そして現在のチマは信頼できる相手がいて居場所があり、自身一人で強くなる必要がないこの状況をリンは心の底から好ましく思っていた。
雑談を暫くして。
「ねえ!今日はうちの泊まっていきなさいな、明日もお休みだし!やってみたかったのよね、お泊り会って」
「いいんですか、急な宿泊となってしまって」
「人一人増えたくらいでどうこうなるアゲセンベ家じゃなくってよ!」
「それじゃあお言葉に甘えまして」
「ふふん!シェオ、学校の寮へ、リンがうちに外泊することを伝えてくるように誰かを走らせて、ビャスはトゥモと料理場への連絡を!」
パンパンと手を叩けば、二人は大急ぎで退出し各々の職務を全うしていく。
「寝衣は私のを…、無理そうだし手頃なものを用意させるわ」
「あ、ありがとうございます」
『手頃なもの』とは急ぎ買いに行った新品だと分かった時に、リンは空を仰いだのだとか。
「えーっと…、?お二人は何故漫画を読んで寛いでいるのですか?」
「先ずはゆっくりしようって話になって、おすすめの漫画を教えてあげたの」
「こういう娯楽って田舎だと手に入らなくて〜」
(現代的な娯楽に飢えていたんだよね。流石に初めての訪問で読ませてもらうわけにはいかなかったし)
「まあ良いですけど。優雅にお茶会を
「お茶会ならほら、お茶と茶菓子はあるじゃない。やってることは間食と雑談なんだから、一緒よ一緒」
(間違ってはいない気もする…)
むっとするシェオを見て、チマは僅かに考えを巡らせてから。
「じゃあ演奏でもする?楽器は一通りあるはずだけど、リンは何が演奏できる?」
「
(フルートは吹奏楽で、アコギは趣味でやってたからちょっとだけできるんだよね)
「知っている曲は?」
「最低限しか知らなくって…」
「ならいい機会だし覚えていきなさいな、授業でもやる筈だから」
そういってチマは六弦琴と小柄な
ゆったりと時間を過ごしていれば夕餉の時間となり、チマはリンを連れて食堂へ向かっていく。
「お父様お母様、私のお友達を紹介いたします、ブルード男爵家の養女、ブルード・リンですわ!」
「お初にお目にかかります、ブルード男爵家に支援を行ってもらっている養女の、ブルード・リンと申します。
「ご丁寧に。私はアゲセンベ・マイ、ここ最近チマが楽しそうにしている切っ掛けをくれた子でしたよね。こちらの方こそお会いできて光栄ですわ、ブルード・リンさん」
「宰相の職を努めているアゲセンベ・レィエだ。娘が世話になっているようだが、これからも愛想を尽かさず交友関係を続けてくれたなら私達は嬉しく思うよ」
「ふふん、それじゃあお食事にしましょうか!」
客人を
「問題ないわ、流石アゲセンベ家の料理人たち。ではリン、どうぞ。とっても美味しいわ」
満面の笑みを咲かせる輝かしいチマに釣られてリンは頬を緩ませ、楽しげな夕餉時をアゲセンベ家で過ごしていく。
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