五話 生徒会っ!⑤

(何度やっても勝てない…)

 ここ数日、生徒会に集まる前に役員たちは布陣札ふじんさつを楽しんでいるのだが、リンは一向に勝利できずに頭を抱えていた。

 良くて5−2で1試合を取るのが精々な結果に、如何様イカサマすら疑いたくなる強さ具合。しかしながら一対一タイマンでやるのならかく、生徒会の目があり審判も代わる代わる。道具もデュロやバァナが持ち込んだ品を使うこともあるので、細工など出来ようはずがない。

 純粋な実力で負けているのだ。

「チマ様が強すぎる…」

「初心者だった頃はまだ可愛い記録だったのだけどね、もう暫くは負け無しだったはずだよ」

「確か国王陛下も強いのですよね、何かコツとかあるのでしょうか?」

「父上の強さはスキル有りきだが、配られた札を全て記憶して全体の半数を記憶することで相手側に配られたものも掌握できる、そこから定石札じょうせきふだを二〇枚選出して仮想山札を作って行くそうだ」

「暗記スキルですか。ならチマ様も同様に」

 試合中に捨て場を任意で確認することはできないので、記憶力と駆け引き、そして運での戦いとなる。

「チマは実力のみで記憶して、楽しんでいるようだけどね」

(暗記スキル無しで、…。)

 バァナと一戦するチマの横顔は真剣そのもの、外野の声など耳に届いていない集中っぷり。

「如何様でもしない限りは国内であれば最強なのは確定だろうね。通用するかどうかは知らないけれど」

「目を皿のようにしていますからね。盤面と手札だけじゃなくて、相手の目の動きとかも見ていそうです」

「見ているだろうね、ちなみにね、さっき言った戦術を父上から教えてもらって以来、チマは実力をめきめきと上げていったから、同じことをすればいい勝負までたどり着けるはずだ。国際公式戦で活躍すれば、叙爵じょしゃくもあるから念頭に入れておくといい」

「国際公式戦ですか?」

「おや、知らないとは意外。国の大きな祭典などで国賓こくひんを招く際、こちらから足を運んだ際に開催される国際試合のことなんだ。…市井にには馴染みがないから、そっち方面に向けた新聞版屋しんぶんばんやも取り立てないのかな。要は国の沽券こけんを賭けた勝負が時折行われていると覚えておくといい。そうそう一度参戦すると勝負の結果に関わらず五年は再参加出来ない取り決めもあるから、それも忘れてはいけないね」

「なら直近は再来年ということですね」

「そういうことだ。二五〇〇周年という目出度めでたい歴史の節目、どうやってチマを引きずり出そうかずっと考えているんだよ」

「…、そこで活躍すればチマ様の評価が上がりますね」

「そう、察しが良くて助かるよ。上手くチマの布陣札への意欲を高めつつ、周囲からの評価を得ておきたい。簡単ではないけれど、生徒会長として名を馳せていられれば、条件は整うと私は考えている。その為に力を貸してくれるかな?」

「私では出来ることが限られてしまうので確約は出来ませんが、チマ様のお手伝いであれば是非にと考えています」

 デュロはリンへ向けて確かな笑顔を向けて返事とした。

(リン嬢…、中々に使えそうな生徒だな。チマに侍る利を得ようとする魂胆であろうから、此方からも利益を提示し続けることで、チマ派閥の一員として組み込むことが出来るだろう。成績も次席入学で、学問なり暗記なりの勉学や何れの文官仕事に役立つスキルの所持もしているはずだしな)

 優秀な手駒が手に入ったことを喜びながら、彼是あれこれ画策していく。

(再来年…。シナリオが順調に進んでいったら、今年度の終わりにはラスボスと戦うことになる。チマ様とデュロ殿下を通して生徒会への伝手も手に入れた。一年もあれば決戦時に協力を望めるくらいの関係を構築できる、…いや、してみせる!統魔族とうまぞくが心へ染み入る条件は何かしらの感情で、アゲセンベ・レィエであれば嫉妬だったはずだけど…チマは何だったの?主人公に負けた悔しさ、そんな程度の筈はないよね、自分を犠牲にしてまで統魔族を討たせたくらいなんだし)

 そんなこんな二人が会話をしていれば、チマとバァナの勝負は佳境となっていた。


「私は布陣を終えるわ」

(盤面点数はチマ様が4点有利。そして手札は私が一枚多い状況ですが、一枚で覆せるだけの札は手札にない。二枚出すことでこの回に勝利することが出来ますが、一枚不利な状況で残り二回のどちらかを勝利しないといけなく、次は先手で最低限一枚は札を出す必要があり…。………私の盤面にある『獅子金貨のコンソ』は回を超えて場に残り続けますが、チマ様の山札には後攻時の開始一巡目に使用できる『春嵐しゅんらん』得点0(相手の盤面にある札を全て裏側に変える)が確認できましたし…使われた場合は此方が札を二枚失うことに…)

 落ち行く砂時計に視線を送ってから、猶予が残されていないことを悟って、バァナは札を二枚使い勝負に出た。

(バァナが大きく勝負にでるなんて珍しいわね。こちらの手札に『春嵐』が無いことに賭けた勝負かしら)

 山札から五枚引いて確認するも『春嵐』は無く、この回に勝利をしても次の回は先手で開始する為に、実質的な手札の補充は四枚に成ることが確定した。

 少しばかり考え込んだバァナは、『屯田兵とんでんへい』得点1(他の屯田兵が場にいる場合に得点を1増やす)といったわかりやすい捨札を展開する。

(わかりやすい安定展開。バァナの持ち札、さっき入れ替えた札があるから一枚の不明はあるけど、残りの相互作用も加味して今の手札と次回に勝てる組み合わせは、)

 結果、この試合はチマが敗北したのだが、最終的に5-2とバァナが善戦したのである。


 本日も本日とて生徒会、夏の野営会で行う巨大パンケーキ会の企画詰め作業である。

「今更なのですがぁ、これどうやってひっくり返すのでしょうか?」

「身体能力強化を持つ生徒と警護に参加している騎士たちに協力してもらおうとは思っているのですが、企画の根幹ですから予行演習を行いたいですね」

「良いわね、ちょっとしたおやつにもなるわ。材料は兎も角として道具は未だ届いていなかったわよね?」

「未だだね。急造品をこさえさせて本番で失敗したのなら意味がない」

「学校の調理場では普通の大きさでしか作れませんから、どうしましょうか」

 生徒会の面々が悩んでいれば、シェオが何かを思いついたかのように口を開く。

「一つ提案なのですが、私がよく足を運ぶ第六騎士団では野外で大きな鉄板を用いて食材を焼いていることがあります。それらを借りて来るのは如何でしょうか?大きさは―――」

 と大きさの説明をしていけば、練習にはちょうど良さそうな大きさの鉄板らしく、一同は頷いていく。

「多少、食材の臭いが付いている可能性はありますが、学校こちらで使用すると伝えれば全身全霊を以て洗浄作業に勤しむと思いますよ」

「よい提案だビャス。第六に縁があるのなら連絡も願えるだろうか?」

「お任せを。運搬には何処に頼みましょうか?第六を学校へ入れるには少々面倒な手続きが必要となりますよね」

「それならば校門前で第二か第四に受け取ってもらいましょう。日程さえ連絡いただければ私の方で連絡いたしますので」

 第一騎士団のラチェが名乗りを上げ、にこやかな表情で面白い構えポーズをとっていた。

「ならば二年生三年生の面々から我々が身体能力強化スキル持ちの生徒を見繕い、協力を仰いでおきましょうか」

「「はいっ!」」

「一年生からはいいの?」

「新しく入学してきた一年生には、当日の楽しみとしてほしいので。…賑やかな予行演習となってしまうのは必至で、目には付いてしまいますが、当日を楽しみにしてもらいたいのですよ」

「ふふっ、良いわね」

 そうして各員は自分たちの役割を全うすべく動き始める。

「ところで…、夏の野営会はどこでやるの?」

「マフィ領ですよ。自然公園とそこに付随する宿泊地があり、マフィ侯爵家の者が在籍中はほぼ確定の選出となります」

「ドゥルッチェ縦断鉄道で行けるのが大きいのだ」

「そうなのね」

 チマの尻尾は心做しかくねくねと動き、口角も上がっていたとか。

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