五話 生徒会っ!④

「さあ布陣札ふじんさつをするわよ、リン!わたしも少しやっていなかったから腕が鈍っているかもしれないわね」

 生徒会室で机に置かれたのは、遊戯用の敷物プレイマット一二〇枚の札スタンダードデッキ規定書ルールブック

に砂時計が二つ。

 一つ一つが高級感のある意匠となっており、それらを見たリンは「全クリ特典のカードとプレマじゃん…」と心の内でツッコミをしていた。

「規定の説明は必要かしら?」

「大丈夫です、予習をしてきたので」

「勤勉ね、なら始めましょう。シェオ、…だと公平性に欠けるからデュロが審判を請け負ってくれる?」

「わかった。チマから審判を指名されるのは光栄だから喜んで請け負おう」

 審判になったデュロは山札を手に取り切り混ぜていく。

 選手同士はこの一二〇枚の大山札へ触れることは、如何様いかさまと同義であり挑戦を受ける側、場合によっては卓越者と呼ばれる側が進行管理者として審判を指名し、札の分配を行わせるのが規則になっている。

「それでは分配を行う。砂時計の準備を」

「出来ているわ」「問題ありません」

 水平に寝かされた砂時計に手を被せ、デュロがお互いの前に三枚の札を配ったところで砂時計を立て、自身にだけ札が見えるように確認してから一枚を選び、残りを伏せて捨て場に置き、最初に選び終わった方が砂時計を寝かせる。お互いに寝かせたところで次の三枚が配られ、手元に残る札が二〇枚になるまで繰り返しを行う。

 チマとリン、どちらも札選びが早いため砂時計の砂が落ちきることはないのだが、選んでいる最中に全ての砂が落ち終わった場合は、伏せた札から一枚選び残りの二枚を捨て場に置くことになるので、どの札がどういう意味を持つのかを理解している必要がある。

(あたしの手札はかなり優秀。だけど…砂時計の砂の割合がチマ様の方が多いから、先攻後攻選択権は取れなかった。後攻が微有利だからもっと早く選びたかったけど、敵わなかったな~)

「私も鬼じゃないわ、初回は先攻を取ってあげる」

「いいんですか?後で言い訳とかされても、…チマ様なら言い訳なんてしませんよね」

「言うじゃない。そうね、勝てたらこの道具一式を贈るわよ」

「「っ!?」」

 生徒会室で二人の勝負を見ている外野は、チマの一言で口元を引きつらせたのだが、この一式は元々今上陛下きんじょうへいか所有の品。国宝とまではいかないながら、この国に一つしかない貴重な品であることに違いはない。

「そこまでいうのならわかりました。全力で挑ませていただきます」

 砂時計の砂を戻し、二〇枚の山札から一〇枚を引いて遊戯の開始である。

 布陣札という遊戯は、各選手の順番に一枚ずつ札を場に出していき、両者が終了と言った時に盤面に残っている札の点数が多いほうが勝利となる。一度終わる毎に札を五枚引き再び勝負を行い、どちらかが二回勝つことで一試合が終了。最初に五試合取った側が勝利者だ。

 一二〇枚あるの大山札は、四〇種各三枚ずつ同じ札が用意されていて、その一枚一枚に名称と得点、効果が記されている。

 例えば『騎馬きば』1得点(この札が出ている場合、騎士の得点を1増やす)のように他に作用を及ぼすものから、『落雷らくらい』0得点(相手の得点が一番高い札を裏側にする)という妨害札。基本的な『騎士きし』3得点(効果なし)と様々。

 それらを選別しては組み合わせて、自身の山札を構築して相手に挑むのが布陣札なのだ。

(チマ様の初手は『騎士』、わかりやすい順当な手。あたしは最強CPUにも5-0で勝てるくらいにやり込んでいるから、相手が誰であろうと負けるはずなんて――――)

「―――……。?」

 意気揚々と息巻いて挑んだリンは5-2で敗北。腕を組み首を傾げて、何故に襤褸ぼろ負けしたのかを考えている最中であった。

 この遊戯、一試合負ける毎に捨て場の札を一〇枚捲り好きな札を山札の中の一枚から交換できる、不利な選手への救済措置なんかもある。あるのだが、チマによって完膚なきまでに叩きのめされて、敗因を考えていた。

「いい勝負をするわね、リン。ここまで強いのなら、デュロとかとやっても全然楽しめる実力があるはずよ」

「え…、この結果で褒めていただけるのですか?」

「チマ様から二試合取れるのは、…凄いのですよ。運の絡む遊びですので、一試合は取れることもあるのですが、山札の交換を行った後のチマ様はもう…」

 バァナは沁々しみじみと言葉を紡ぎ、「実に筋が良いです、今度は私と対戦しませんか?」などと誘ってきているほど。

「そう…なんですね。チマ様が一番強いと思う相手は誰なんですか?」

今上陛下伯父様よ、次点でお父様ね。この道具一式を賭けて勝負したときは、5-4でそれはもう手に汗握る試合だったのだから」

(これ、国王陛下の持ち物だったんだ…)

 リンはそっと手を離して、汚れていないかどうかの確認をしていく。

「歴史に残る試合だとか解説している者もいたな。非公式のお遊びなのが惜しい」

「遊びだから楽しいのよ。伯父様、今度はいつ戦ってくれるかしら」

 一回の試合でチマは大変ご機嫌になったようで、彼女のではない別の道具を用いて布陣札を楽しむ生徒会役員を見ては、ゆらゆらと尻尾を揺らしていた。

「…っお嬢様、僕も教えて欲しいです」

「ビャスも興味を持ったの?いいわよ、屋敷に帰ったら教えてあげるわ!」

 暫くの生徒会室で布陣札が流行り、その期間中はチマは楽しそうに登校していたのだとか。

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