五話 生徒会っ!③

「失礼しまぁす…」

 控えめな声が生徒会室の外から響き、バァナが入室の許可を出せば一年の生徒が二人、顔を見せて足を踏み入れる。

「来たか、紹介しよう。一年の生徒会役員として私が選んだ、マシュマーロン・メレとウィスキボン・リキュの二人だ」

「お初にお目にかかります、マシュマーロン伯爵家のマシュマーロン・メレです。家はマシュマーロン領で王都に来る機会が少なく、やや王都での彼是あれこれに疎くありますが、生徒会役員として尽力したいと思っていますぅ」

「私はウィスキボン・リキュ。第六騎士団団長を務めるウィスキボン・キュルの子で、生徒会役員という栄誉ある地位に指名されたことへ真摯しんしに向き合い、ご指名頂いたデュロ王子殿下でんかの顔に泥を塗ることのないよう、細心の注意を払いながら邁進まいしんしていきたい所存であります」

 メレは薄幸はっこうそうな容姿の女子で、リキュは騎士の家系に生まれましたと体現しているかのような男子である。

「へぇー、貴方がキュル第六騎士団長の子息なのね」

「はいっ!私は三男です。我が父リキュは宰相レィエ様に拾われた大恩があると常々申しておりまして、アゲセンベの姫様にもご助力出来ることを嬉しく思います」

「お兄さん二人は知らないけれど、キュル第六騎士団長とよく似ているわね」

「頻繁に言われます」

 シェオもチマの言葉にはうなずいている。

「マシュマーロン領は東端に大港を所有する貿易領よね。どんなところなの?」

「は、はいぃ、その…海が綺麗な土地で、夏の暑い時なんかは海岸で水遊びをしたりできる良い領地で、海産物も美味しいのですよ」

「そう、何時か行ってみたいわね」

「ぜ、是非!」

 怯々おどおどとした態度のメレだったが、チマが行ってみたいといえば身体をやや乗り出しての返事。故郷愛の深い娘なのだろう。

(綺麗にお父様派閥で固めてきたわね。そっちの方が楽といえば楽なのだけど、友達になるには、少し難しい相手かもしれないわ…)

 親の主従関係が直にチマとの関係に結びついているため、少しばかりやりにくい関係だと彼女は考えていた。相手側からは間違いなく「お友達になってください」なんて言えず、チマ側から「お友達になってくれる?」と言えば強制力が生まれてしまう。

 家や派閥の彼是なく、友人として接してくれるリンとの関係みたく構築するのは難しい相手である。

(チマの人脈が構築されてチマ派閥が出来れば、宰相さいしょうとはいかなくとも手元に置きやすくなる。彼女らには橋頭堡きょうとうほとして頑張ってもらいたい)


「それでは自己紹介も終わったことだし、夏の野営会について説明に入ろうかと。基本的に日時や場所、日程は本職である教師陣によって決定されています。我々生徒会は野営会の最中にある娯楽時間レクリエーションの企画運営を行うのが主な仕事ですね」

「一から決めていくわけじゃないのね」

「一時期は生徒会で多くの催物も一から計画していったらしいのですが、人数に対する負担が大きく失敗も少なくなかったので、大枠は教師陣、お楽しみは我々がという分担に収まっていったのです」

「生徒会の規模拡大とはならなかったのね」

「内部で派閥は生まれ、足の引っ張り合いをするのは目に見えているからな」

「あぁー…。各学年四人くらいの規模が丁度いいということね」

「そうなりますね。特に政争が活発な時期は中々に凄惨な事件も発生していたらしく…」

 近い年齢で王位継承権を持つ者同士の争いを、やんわりと伝える。そういった事をしてきた者は、チマとデュロ先祖に当たるので言葉をはばかっているのだろう。

「ここ二年は大丈夫そうね」

「三年と言ってほしいな…」

 現状のチマには人望がないのだが、生徒会長となるのは地位的に彼女に確定している。

「さあ、例年はどんな事をしてきたの?資料をちょうだい」

「乗り気になりましたかチマ様。ではお配りしますね」

 二年三年生は昨年一昨年も目を通している資料だが、一年生たちは始めてであるため足並みをそろえて彼らも読み直していく。

 定番と成りつつあるのは舞踏会。昨年一昨年も舞踏会で、考えに行き詰まったら取り敢えず踊っとけの精神のようだ。

 次いで多いのは観劇会、これは劇団を呼ぶ場合と生徒会役員に有志を加えたものの二種類ある。前者は劇団を抱えている貴族が生徒会に属している場合、後者は芸術志向な者が属している場合に多く見られている。

 みなで娯楽を楽しもうという企画なので、当たり障りのない定番が重んじられているということであろう。

 武闘会なんていうのも開催されていたようだが、こちらは学校の催物の一つとして毎年開催されていることに加えて、「怪我人の対処などが大変、賭博を行う生徒が少なからず発生するのでお勧めできない」と記載されている。開催回数は片手で数えられるほど。

「踊り過ぎじゃないかしら?七分五厘75パーセントが舞踏会よ」

「定番ですからね」

「ふぅん、ダンスねぇ…」

「ダンスなぁ…」

 王族二人はなんとも言えない表情。踊ることが嫌いなわけでは無い、踊る相手を選ばないといえないのが大変なのである。

「去年の舞踏会って、デュロは先ず誰と踊ったの?私もいなければ、トゥルトの令嬢もいないでしょう」

「大変だったよ、抽選会が行われて…」

「…。」

 生徒会役員は皆一様に遠い目をして、今年は違う催物をしようと考えている。

「あのぉ、ビンゴ会ってなんですか?」

「ビンゴっていうのは二五個の数字が書かれた札を全員に配り、司会側が不規則な数字をくじで引いて発表。早くに列が揃った人から景品を貰えるって…そんな感じですよね?」

北方九金貨連合国ナインコインズユニオンの伝統遊戯なんて、よく知っていますね」

「あ、あはー…何処かで聞いた気がするんですよね。実際にやったことはないんです」

「教えていただきありがとうございますぅ」

(あってて良かった…。ゲーム的には舞踏会が確定してて、隠しであるビャス以外の攻略キャラと踊ることでスチルを回収できるんだよね。けどこの雰囲気だと舞踏会以外になりそうかな、あたしも踊る相手がいないからいいんだけど。何を提案しようかな)

「皆さん何かありますか?」

「食べ物系がいいわね。デュロと私がいるから毒察知保有者も王城から引っ張れるでしょ?」

「食事会、ふむ」

(野営会でやる食事会、バーベキューとか芋煮会とか?流石に芋煮会をするわけにはいかないし…)

「すっごく大きな鍋で、皆さんで食べれるような大量の汁物を作る催しなんてどうでしょう?」

「芋煮会ですね!」

 嬉々として声を上げたのは二年生の役員。

(あるんだ…、芋煮会)

「一部地域で収穫期に行われる祭りなんですよ。領地の方でもやってまして、毎年招待が来ては足を運んでいました」

 彼が細々と芋煮会について説明していけば、一同は「いい案」だと受け入れてくれる。

「ただ、そのままのだと抵抗のある貴族もいるでしょうから、内容を少し弄る必要はありますね」

「なら大きなパンケーキなんてどう?大迫力間違いなし、そしてトッピング次第で好みも補えるわ!」

「ははっパンケーキ、良いじゃないか」

「いいですね。異論がなければ計画書の作成に移りたく思うのですが?」

 満場一致、チマの意見が受け入れられて、夏の野営会では巨大パンケーキ会なる初の催しが娯楽時間に行われることになる。

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