五話 生徒会っ!②

「今日はビャスの方が抜けているのだね」

「さっさと用事を片付けてもらいたくて、そっちに掛かってもらってるのよ」

 生徒会室やって来たチマは、従兄いとこであるデュロと雑談をしながら面々が揃うのを待つ。

「そういえば、催物もよおしものの会議をするってことだったけど、直近で何かあるのかしら?」

「伝統行事の『夏の野営会サマーキャンプ』をするのさ」

「うえ、野営会?野外で寝泊まりをするってこと?」

「昔はそうしてたのだけども、そうすると問題がね。生徒同士で抜け出して、…色々とあったらしいんだよ」

「へぇー、決闘でもしてたの?」

「「えぇ…?」」

 デュロだけでなく、隣のリンまで少し引いている。

「いやほら、デュロにもこの前貸した漫画があるじゃない。アレでも一人の女の子を巡って、夜に決闘をしてたはずよ」

「あー…そういえばそんな場面があったね。あの漫画って未だ新刊出てないのかい?」

「来月くらいのはずよ」

「じゃあまた借りに行くよ」

「まあいいけども。デュロも大変よね、漫画を自由に読むのも人目をはばかかる必要があるのだから」

(チマ様は私室に漫画が置かれてて、この前のお邪魔した時に見たから驚かないけども、デュロ殿下でんかの方も好きとは。ゲーム内だとお忍びデートとかあったし、他の貴族が見えないところでこうやって息抜きしているんだろうな~)

 のんびりと二人の会話を聞きつつ、麗人な護衛がれてくれた茶で喉を潤していれば、デュロはリンの様子を伺うように視線を送っていた。

「リンは大丈夫よ。漫画の話しが少しわかるし、低俗だと眉をひそめることもしないから。ね」

「あ、え、まあ大衆娯楽を下賤だとか低俗と言わないチマ様には、市井出身として好感を持てますし、好きなものは人それぞれじゃないですか」

「良いこというわね。でも一つ間違いがあるわ」

「間違いですか?」

「貴族っていうのは大衆娯楽たいしゅうごらくだからさげすむわけじゃなくて、その娯楽に歴史がないから低俗だと鼻で笑うのよ。観劇や音楽鑑賞、歴史文学の読書、曲馬きょくば鑑賞なんかも大衆化しているけれど、品位を問われるようなものでない限り貴族は受け入れているのだから」

「そうだね。それらの発祥は貴族社会からで、富裕層と呼べる階層へ広まっていき彼らが商売の種になると感じ取ってから、多くの者から金子きんすを得られるように安価化していったのが今の大衆娯楽となっている」

「なるほど…、つまりは逆の、市井社会から生まれいでた漫画みたいな最初から大衆娯楽だったものを、貴族の方々は蛇蝎の如く嫌っていると」

「暦を見ても分かる通り、歴史の長い国の宿命かもしれないね」

「案外、こそこそ楽しんでいる同年代もいると思うけれどね。作品の出来は良くて面白いのだし」

 因みに堂々と楽しんでいるチマへ対して、レィエもマイも文句を言ったりはせず、面白いものがあれば積極的に話しを聞いて彼女から借りたりしているデュロと同類だ。

「娯楽ついでの話しなんですが…、布陣札ふじんさつなんかはあまり一般化しませんよね。同級生に話しを振っても理解を得られなかったのですが、廃れていたりします?」

「「へぇ」」

 眼を丸くするのはチマとデュロだけでなく、護衛の面々も。

「?」

「優秀だとは思っていたけれど、一部の、それも大半が上級貴族くらいしか嗜まない遊戯まで押さえているとは意外ね。もしかして規定あそびかたも分かってたりするの?」

「え、あー…」

(ミニゲームの一環だったから誰でも出来るとばかり思っていたけれど、そういう感じなんだ。…どう返事をするべきかな~…)

「一応、そのぉ貴族社会に足を踏み入れる準備としてなんとなく、みたいな」

(生まれ変わってから一五年のブランクはあるわけだし)

「ふふっ、良い遊び相手が出来たわね、これでっ」

 浮々うきうきなチマはご機嫌そのもの、尻尾もくねくね揺れている。

(あれ、なんか…チマ様以外の表情が…、憐れんでいるような…)

(チマの眼前に獲物がまた一人…)(心が折れる前にうまく誘導して差し上げましょうかね…)(チマ姫様は陛下へいかに勝利する程の実力者ですから、初心者相手では…)

 確実に拙い相手と戦おうとしていることをそれとなく自覚したリンは、図書館で布陣札の指南書を借りて復習を行っていくのだとか。


「…、野営会ねぇ。実際どんな事をするの?」

 雑談をしていたはずのチマはピクリと耳を動かし、唐突に話題を生徒会活動のものへと戻す。するとデュロも理解したようで話しを合わせ、生徒会室の扉が開かれた。

(二人共手慣れているな~)

「もう来ているなんて早いではありませんか」

 入室したのは生徒会長のバァナ。

「学校ってすることがなくって暇なのよ」

「…チマ様は、もっと積極的にお友達を作ったほうが良いかもしれませんね」

「まあそのための生徒会に、各種催物だ!」

「…デュロってこういうの好きよね」

「非日常的なことは生活の香辛料スパイスとして欠かせないからね」

「私は退屈でも平凡でもいいわ、落ち着ける場所で寛いでいたい」

「っ!…なら、この生徒会室をチマ様が寛げるように、役員の皆さんと仲良くお友達になりましょうよ」

「良い提案ですね、ブルード・リン嬢。ドゥルッチェ王国の繁栄も一日では成り立ちませんから、チマ様ご本人とブルード・リン嬢を除いた一〇人との交友関係を結びましょうか!」

「はいはい。それじゃお友達になってくれるかしらバァナ」

「有難き幸せ」

「デュロは…友達以上よね従兄いとこだし」

「友達、…というにはむずかゆいね」

 くすぐったそうな表情のデュロは眉をハの字に傾けては、リンに会話の主導権を譲る。

「私もいいのですか?」

「構いませんよ。三年である私とは短い付き合いとなってしまいますが、それでも一年弱は顔を合わせることになるのですから、是非親しくしていただきたい」

「ありがとうございます、生徒会長。では私のことはリンとお呼びください。ブルード・リンでは長くて大変だと思いますので」

「承知しました、リン嬢。これから生徒会の一員として、頻繁に顔を合わせる友人としてよろしくお願いします」

 相手が市井出身であろうと礼節を欠くことなく丁寧に対応する、ゲームとの違いの少ないバァナにリンは懐かしいものを感じるのであった。

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