四話 侍従は騎士団で!③

「やあチマ。今日も登校しているんだね」

「こんにちはデュロ、仕方なくよ仕方なく」

「仕方なくでも嬉しいよ。これから楽しくなっていけばいいのだからね」

 眩い笑顔のデュロは食堂にやってきては、チマとリンと同じ席へと着くて麗人の護衛に食事を運ばせる。

「さらっと相席するじゃない…。リン、嫌だったら言ってね、蹴飛ばして追い出すから」

「大丈夫ですよ」

(周りからの視線がヤバい~っ)

 不登校者と市井出身者、その二人と態々机を同じくする彼の行動に、あらぬ噂の一つ二つ。デュロとチマは気にした風でもないのだが、リンと護衛をしているビャスの心臓が跳ね上がる。

「そういえばシェオがいないようだけど、体調でも崩したのかい?」

「騎士団で修練を積むために護衛を外れているの」

「なんだ不用心じゃないか、…ラチェ、昼後の授業はチマの護衛をするように」

「はっ、承知しました。グミー・ラチェ、只今よりチマ姫様の護衛へと移ります」

 ラチェと呼ばれたのは小太りで背の小さい護衛の一人。堅苦しい返事に反して、ウインクをしながらその目元でブイサインを作っているお茶目さん。その実力は今上陛下きんじょうへいかの一人息子である第一王子デュロの護衛を務められる程なので、人とは容姿で判別出来ないものである。

「いいの?デュロの護衛を減らす方が色々と不都合でしょうに」

「一人減って守れないようならこの場にはいないさ」

「っ」

 彼の言葉に護衛の一人は気を引き締めていく。

「そういうことなら。よろしくね、グミー・ラチェ騎士」

「お任せを」

「それでは昼食としよう二人共」

「もう私たちは食べ始めているのだけど。というかデュロの食事は未だ届いてないし」

「あぁ…本当だ、ついつい気が早ってしまったか」

「まあいいわ、待っててあげるわよ」

「流石チマ、寛大な私の従妹いとこだ」

「あまり調子良いこと言うと、あることないことお父様に言いつけるわよ…」

 呆れた表情のチマは、リンと共にデュロの昼餉ひるげを待つのであった。


 教室でリンと並び席に着いたチマは退屈そうな表情で、一応のこと授業を受けていく。

「今から大凡おおよそ二五〇〇年前、地上に残られていた最古にして最後の神セアーダスが休息の為に天へと昇ったこと、それを切っ掛けに地上の各種族は建国を行い、このドゥルッチェ王国も誕生しました。さて、この時に建国宣言を行った建国王は誰か分かりますよね?…ではアゲセンベ・チマ様、お答えいただけますか?」

「古ドウルーチェ語呼びできみのフェーヴと呼ぶ方もいますが、現代に即した呼称ではフェヴ王が正解ね。場所は旧都ドウルーチェ、純人族による最古の国として脈々と受け継がれ、現在のガレト王朝に至ったわ」

 王族の一人として恥ずことのない回答に教師は肯き、チマへの着席を促す。

「ありがとうございました。では、―――」

 初期建国史。古ドウルーチェ国として形をなしたこの国は、周囲の国々を飲み込んでいき大勢力となって国家基盤を固めていくという話し。

 ここから大凡二五〇〇年の時を、内乱による分裂や純人族同士での戦による領地の奪い合い、他族との戦争と長い長い歴史が続いていくこととなる。

 「貴族であれば基本知識」と言いたいチマであるが、周囲の様子を見るに全体の内七分70パーセント程度しか理解しておらず、こんなものなのだろうと視線を戻す。

(卒業後に学院進む者以外はそこまでの関心もないのね)

 学校というのは貴族の子らが出会いの場とすることも、目的の一つとしている。王族の通う事が決まっている第一は他と比べれば試験こそ難しいものの、入ってしまえば後はおんの字。将来の伴侶を見繕うことができる。

 特に昨年からの四年間は王族の男女が在籍するので、灰被りのような展開シンデレラストーリーが望めるかもしれないと胸躍らせていたことだろう。…片方は先日まで不登校を決めていたのだが。

(リンは…まあわかってるわよね、次席なんですもの。熱心に勉強しているし、…学を身に着けて城仕えに成る心算つもりかしら。…ならまあ、超えるべき壁として目の前に立っててあげるのが、首席としての役割よねぇ、ふふっ、ちょっとくらい真面目に授業に参加しなくっちゃ)

 そんな、少しばかりやる気を出したチマを見て、リンは「歴史が好きだったっけ?」などと小さく首を傾げた。


「最近にアゲセンベ家へし抱えられた護衛の方でしたか、お名前を伺っても?」

「…っ、びゃ、ビャスです。てぃティラミ・ビャスっ」

「ティラミ・ビャス殿、お食事の席で紹介に与りましたが、私は子爵ししゃくの地位をたまわり第一騎士団に所属するグミー・ラチェと申します。お互い護衛の身として学校では顔を合わせることになると思いますので、是非名前とこの顔だけでも覚えて下さい」

「…はははいっ」

 やはりと言うべきか、丁寧な言葉遣いに反して変な構えをしてみたり、少々変わった御人。…なのだが、未だ未だ未熟なビャスでさえ感じ取れる隙のない姿勢運びに、彼は小さく握り拳を作っていた。

(スキルポイントはたくさん振って、スキルレベルの総数だけなら負けない、…と思うけど。勝てる気がしない、そんな人だ)

「なんだか…、何れとんでもない傑物になりそうなので、機会が有りましたら手合わせをいたしましょう。多少であれば剣術の指南も出来ますので」

「……、はいっ。そそそその時はお願いします」

 ラチェはVサインを作りながら、廊下で警備を継続していく。

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