第3話 give off

「そういえばさー、貴方の名前って何?」

 スノーホワイトにそう問われたが、不思議な事に俺は自分自身の名前について思い出せなくなっていた。それどころか、高校に行っている記憶はあるが、ことごとく出会って来た人物の名前すら思い出せなくなってしまっていたのだ。曖昧な事しか覚えていない。まるで、頭の中が濃霧によってぼかされているかのような。

「名前か。覚えてない。ってか、全く思い出せない......」

「......やっぱりね。」

「分かっていたのか?」

「いや、実の事を言えば私もこのゲームの世界に来た時には名前が全く思い出せなくなってしまっていたのよ。」

「それってつまり!!」

「ええ、おそらくこのゲームに連れてこられたら記憶が無くなってしまうって事。でも、なんでこんな事になってしまったのかはまだ私にはさっぱりなの。」

「くそっ、なんて事だ。」

 やはり薄々考えていたが、それが真実だという事を実感してしまえばショックを受けるのも無理はないだろう。

「まぁ、良いわ。此処で長居してもなんだし、拠点に向かうわよ。」

「拠点?」

「ええ、いわば待機部屋みたいなものよ。基本的にはこういうクエストが発生するまではそこの部屋にいる事にしてるのよ。次の備えをしたり作戦を練ったりする場所ね。」

「なるほど、ゲームと同じシステムだな」

 俺がそう感心しているとスノーホワイトは何かを俺に渡してきた。

「護身用に一応渡しておくわ。何かあった時に身を守るくらいはできると思うわ。」

 ハンドガンか?これは。見た感じは普通の拳銃であったが。重量はかなりあるようだ。

「こんなの、使ったこと無いんだが」

「ん?ゲームだから引き金を引くだけで弾が出るわよ。ああ、安全バーが付いてないから気をつけてね。誤射したら大変よ」

 ああ。自分自身がとても不安だ。

「まあ、取り敢えず付いてきて!!」

 俺とスノーホワイトは銃を構えながら走っていた。

「ちょっと待って!!」

 スノーホワイトが走る俺を制した。

「どうしたんだ、急に止まって......」

「あれを見てみなさい」

「なんだ?って。えぇ!!」

 よく見て見ると黒い何かが蠢いていた。それは真っ黒で得体の知れないものであった。得体の知れない物体を見て俺は青ざめた。

「や、やばい。どうすれば?」

「早く引き金を弾きなさい。」

 重い引き金を引くと大きな銃声と共に反動が俺をその場から吹き飛ばす。一瞬何が起こったのかがわからなかった。

 吹き飛ばされた拍子に腰を打ったが、どうやら黒い何かを倒す事ができたみたいだ。

「貴方やるわねぇ。大丈夫?立てるかしら?」

「いてててて、なんなんだあれは。」

「あれは、いわゆる〈バグ〉ってやつよ。」

 バグだと?

「そう、本来はクエスト以外の戦闘は起こり得るはずがないの。でも、最近は不可解な事にあんな感じの黒い物体が襲うようになってきた。貴方も気をつけなさいよ」

 気をつけろと言われてもな。

 俺はスノーホワイトが差し出していた手を引いて立ち上がった。

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