歪んだ歴史――鄭成功との接触

湊たちは遼東へ向かう道中、「倭寇」という集団が沿岸で活動しているという噂を耳にした。村人たちの話によれば、その「倭寇」はただの海賊行為に留まらず、モンゴル軍に対してゲリラ戦を展開し、補給部隊を攻撃しているという異常な状況が広がっている。


「倭寇が蒙古軍を攻撃しているとは妙な話だな……ただの海賊とは思えない。」時宗が考え込むように言った。


湊は静かに頷き、冷静に言った。「確かに倭寇は海賊行為で知られているが、ここまで組織的に蒙古軍と対立するとなると、背後に何らかの強力な指導者がいるはずです。背後を探る必要がありそうです。」


湊たちは真相を探るため、海岸へ向かうことを決意した。そこには、モンゴル軍の補給部隊が攻撃を受け、混乱している姿が広がっていた。攻撃を仕掛けていた一団は、素早く現れては消え、その旗には「鄭成功」の名が記されていた。


「……鄭成功? いや、待て……」湊は旗を見た瞬間に言葉を失った。


鄭成功とは、台湾の英雄であり、明のために清と戦った人物だ。しかし、彼の時代はこの時代から50年も後のことだ。今、この時代に彼の名が出てくることは本来ありえない。


「鄭成功……彼は『鄭森』という名前で生まれ、日本とも深い繋がりを持つ人物だ。だが、歴史が歪んでいる……この時代に存在するのはあり得ない。」


湊は違和感を抱き、時代が歪んでいる証拠を目の当たりにした。彼の胸には強い不安が湧き上がってきたが、同時に、彼はこの世界で何が起きているのか、さらなる調査が必要だと感じた。


「この『鄭成功』が、もし本当に歴史から現れた存在だとすれば、彼との接触が必要だ。」湊はそう決断し、慎重に行動を始めた。


湊たちは鄭成功の部隊に接触するため、李天淵を先遣し、通訳として交渉を進めることにした。李天淵は、蒙古軍に対抗するため、鄭成功との協力を求め、慎重に行動を進めた。


海岸に着いた李天淵が、鄭成功と対峙すると、鄭成功は警戒心を露わにしていたが、李天淵が丁寧に状況を説明することで、徐々に冷静さを取り戻していった。


「貴殿らが何者かは知らぬが、日本人をここに連れてきた理由は?」鄭成功は冷静ながらも鋭い目つきで尋ねた。


李天淵は丁寧に答えた。「我々はモンゴル軍に立ち向かうため、貴殿の力を借りたいと考えています。湊殿たちもまた、モンゴル帝国に対して抗うために戦っております。」


鄭成功はその言葉を聞いて一瞬黙り込んだが、再び問いかけた。「日本……かつて私は『田川福松』として日本で過ごしたことがある。だが今は、父の遺志を継いで明のために戦っている。」


その言葉を聞き、湊は前に進み出た。


「あなたが田川福松殿であるなら、日本と深い縁があることは知っています。しかし、私は何かがおかしいと感じています。貴殿は、本来この時代にいるべき人物ではない。」


鄭成功は昔馴染みのある日本語を聞き、懐かしさを感じつつもその言葉の意味を考えて眉をひそめ疑問を呈した。「どういう意味だ?」


湊は、鄭成功に日本語が通じたことを認識し、ならばと慎重な説明を続けた。「歴史によれば、あなたは『鄭成功』という名を、明の皇帝から授かることになる人物です。ですが、それは50年後の未来のこと。今の明に、そのような皇帝が存在するはずがありません。つまり、この時代には、本来貴殿は存在しないはずなのです。」


鄭成功はしばらく沈黙したが、湊の言葉に思いを巡らせ、何かに気づいたようだった。


「……確かに、この世界には違和感がある。私も、ある時からこの地にいることが現実なのか夢なのか分からなくなっていた。」


湊は静かに頷いた。「この世界は歪んでいる。私たちは、その歪みの中で戦っているのです。貴殿もその一員であるなら、共に戦い、この歪んだ世界を正していくために協力していただきたい。」


その時、紅蓮が静かに一歩前に出て、鄭成功に向き合った。


「鄭成功殿、私もまた、歴史の歪みを目の当たりにしています。私の父、宗助国は元寇で対馬を守ろうと戦い、そして倒れました。この時代に生きる私は、父の志を継ぎ、対馬を、そして日本全土を守るために戦っています。貴殿がこの時代に存在するのは不自然かもしれませんが、共に未来を切り開くために、私たちに力を貸してください。」


鄭成功は紅蓮の決意とその瞳に宿る深い覚悟を見つめ、彼女の言葉に静かに耳を傾けた。彼は紅蓮が父の遺志を胸に抱き、自らの使命に命を懸けていることを理解した。


「お前の父は立派な武将だったのだろうな……お前の言葉に嘘はないだろう。」


鄭成功は深く息を吐き、ついに頷いた。「私は、歪んだ歴史の中で何が真実なのかも分からなくなっている。しかし、私は明を再興するためにここにいる。お前たちが本気で蒙古と戦う意志があるならば、私も共に戦うだろう。」


湊はその言葉に安心し、深く頭を下げた。「鄭成功殿、感謝します。我々は共に戦い、この世界を正していくために力を合わせましょう。」


こうして、湊と紅蓮、鄭成功は協力し、モンゴル帝国に対抗するための新たな同盟を結んだ。しかし、歴史が歪んだこの世界で、彼らの戦いはますます複雑さを増し、困難な未来が待ち受けていることは間違いなかった。


湊たちは、鄭成功との新たな絆を胸に、次なる戦いへと一歩を踏み出した。彼らが挑む歪んだ歴史の戦場には、まだ多くの謎と試練が待ち受けていた。

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