絆の構築――新たな協力者
蒙古軍との戦いは、湊と三別抄の兵士たちとの連携が不十分であったものの、裴仲孫(ペ・チュンソン)の援軍が到着したことで、ついに形勢が逆転し、村は守られた。戦闘の終わりと共に、湊たちと裴仲孫の間に芽生えた信頼が少しずつ形になり始めていた。
村の復興作業が進む中、湊、時宗、片倉正行、宗景明、そして紅蓮が裴仲孫と向き合った。紅蓮も戦場で奮闘し、蒙古に抗う覚悟を示していたが、彼女の心中にはまだ使命を果たせていない焦りと、対馬の未来に対する深い不安が渦巻いていた。
裴仲孫は険しい表情を少し緩めながら、湊たちに語りかけた。
「湊……お前の覚悟と戦いぶりは確かに見せてもらった。かつて日本に見捨てられた傷は深いが、今日の戦いでお前たちが本気で蒙古に立ち向かっていることが分かった。」
彼の声には、湊たちへの信頼が少しずつ芽生え始めていた。行動によって信頼を勝ち取った湊たちの姿勢を、彼は認めざるを得なかった。
湊は静かに頷き、感謝の意を表した。
「裴仲孫殿、我々が真に貴殿と共に戦う意志を感じ取っていただけたこと、深く感謝します。今後も共に蒙古に抗い、この大陸での戦いを進めたいと思います。」
紅蓮も裴仲孫に向き直り、真摯な眼差しで語った。
「私もまた、対馬の者として、この戦いに全てを賭けています。蒙古の脅威を一度でも経験した者として、共に未来を切り開くことが必要だと信じています。」
彼女の言葉には、対馬を守りきれなかった過去に対する深い悔恨がこもっていた。紅蓮の父である宗助国が元寇の際、必死に戦った末に敗れたことが、彼女の心に消えることのない傷を残していたのだ。紅蓮の個人的な決意が、彼女をさらに奮い立たせていた。
裴仲孫は紅蓮の言葉に耳を傾け、彼女の決意が揺るぎないものであることを理解した。そして、彼は村を見渡しながら続けた。
「だが、私はこの地を離れることはできない。三別抄として、この地を守るのが私の役目だ。お前たちがさらに大陸で戦力を増やすのであれば、公孫瓚(こうそんさん)という協力者を探せ。彼は遼東で蒙古に抵抗している有力な将軍だ。」
その名を聞いた時宗が、疑念を含んだ声で尋ねた。
「公孫瓚……あの三国志の英雄の公孫瓚か?」
裴仲孫は静かに頷いた。
「そうだ。公孫瓚もまた、この時代に現れ、蒙古と戦っている。彼の軍勢は強力だ。お前たちが遼東で力を得たいなら、彼との連携が必要だ。」
湊は驚きつつも、裴仲孫の言葉に希望を見出した。やはり、三國志の英雄がこの時代に存在している。この大陸での戦いをさらに優位に進めるためには、公孫瓚という強力な協力者が不可欠であり、また他の三國志の英雄とも手を組みたい……湊は、明るい兆しを見出し胸が熱くなっていた。
紅蓮もまた、裴仲孫の言葉を聞いて考え込んでいた。彼女はこれまで、対馬を守るために戦ってきたが、今はより広い視野で戦局を見つめていた。蒙古という共通の敵に立ち向かうためには、大陸での協力が不可欠であることを理解しつつあった。
「公孫瓚との協力ができれば、大陸での戦いが飛躍的に進むはずです。しかし、我々だけでその交渉ができるかどうか……」
宗景明も冷静に分析しながら言葉を続けた。彼は交渉が成功するために何が必要かを慎重に考えていた。
裴仲孫は少し考えた後、決断したように頷いた。
「お前たちには通訳が必要だな。私の信頼する者を同行させよう。彼は日本語と漢語の両方を話せる。彼がいれば、公孫瓚との交渉も円滑に進むだろう。」
裴仲孫が呼んだのは、若い兵士、李天淵(り てんえん)だった。彼は鋭い目つきで湊たちに敬礼し、一歩前に進み出た。
「李天淵と申します。裴仲孫様の命により、貴方たちに同行し、通訳を務めさせていただきます。漢語は私にお任せください。」
湊は彼の礼儀正しい態度に応じ、深く礼を返した。
「李天淵殿、貴殿の助力に感謝します。貴方がいなければ、この大陸での協力関係は築けないでしょう。どうか、これからよろしくお願いします。」
紅蓮も、真摯な表情で李天淵を見つめた。彼女は、裴仲孫から託されたこの若い兵士が重要な役割を果たすことを感じ取っていた。
「李天淵殿、我々はこれから多くの困難に直面するでしょう。ですが、貴殿の力があれば、必ず公孫瓚殿との協力を成功させることができるはずです。」
李天淵は静かに頷き、湊と紅蓮に冷静に答えた。
「私の家は昔、対馬との交易に携わっていたため、幼い頃から日本語を学びました。その後、裴仲孫様のもとで兵として働きつつ、日本と朝鮮、漢の言葉を習得してきました。今、私がこの戦いで貴殿らを助けることができれば、それが私の使命です。」
彼の言葉からは、自信と誇りが感じられた。
「私を信頼していただければ、必ず公孫瓚との連携を成功させてみせます。」
宗景明も李天淵に敬意を表し、握手を交わした。
「貴殿の経験と能力は、この旅にとって欠かせないものだ。どうか、共に力を尽くしてくれ。」
李天淵は冷静ながらも少し誇らしげに微笑んだ。
「任せてください。」
湊たちは、公孫瓚との協力を得るために、遼東へと旅立つ準備を進めていた。蒙古軍との戦いは続いており、遼東に到達するまでにも多くの困難が待ち受けていることが予想されたが、李天淵という頼れる通訳を得たことで、湊たちは希望を感じていた。
紅蓮もまた、遼東での戦いに向けて心を決めていた。
「蒙古に立ち向かうためには、より多くの協力者が必要です。公孫瓚殿が協力してくれるならば、我々はこの戦いで大きな優位を得ることができるでしょう。」
湊は頷き、皆の士気を高めるように言葉を続けた。
「この戦いは簡単ではないが、共に力を合わせれば必ず蒙古を打ち破ることができる。李天淵殿と共に、公孫瓚殿の協力を得るために全力を尽くそう。」
湊たちは遼東への旅立ちを目前に控え、さらに準備を進めていった。戦いはまだ終わっておらず、彼らの前には数多くの試練が待ち受けている。しかし、新たな仲間と共に、湊たちは未来を切り開く決意を胸に抱いていた。
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