信頼なき戦い――蒙古との激突
湊、時宗、紅蓮、片倉正行、そして宗家の家臣である宗景明は、裴仲孫からの試練として、モンゴル軍の襲撃を受けている村を救う任務を課せられた。だが、湊たちには三別抄の兵士たちを指揮し、共に戦うという難題がのしかかっていた。三別抄の兵士たちは、湊たち日本人に対して根深い不信感を抱いていたのだ。
村に辿り着いた湊たちが目にしたのは、焼け落ちる家々、逃げ惑う住民たち、そして略奪に狂うモンゴル兵たちだった。火柱が上がり、轟音が戦場を包んでいた。湊はすぐに状況を把握し、指示を飛ばした。
「右翼を崩して敵の機動力を奪う。片倉正行、左翼を頼む!」
片倉正行はすぐに兵を動かし始めたが、三別抄の兵士たちは動こうとしなかった。彼らの中で、湊の指示に従う者は誰一人としていなかった。
「この日本の若造が我々に命令を下すだと? 我々は裴仲孫様の指示に従うのみだ!」
「日本に見捨てられた過去があるのに、どうして信じられるものか!」
湊の指揮は即座に崩れ、戦局は混乱に陥った。三別抄の兵士たちは独断で行動し、湊の戦術は瓦解した。
「このままでは勝てない……」
湊は兵士たちをまとめようと必死に呼びかけた。
「私は命令を下しているのではない! 共に戦わなければ、この村も、我々自身も守れない! この戦いは日本や朝鮮に関係なく、私たち全員が蒙古に屈するか否かの問題だ!」
彼の声は力強く響いたが、兵士たちは依然として動こうとはしなかった。湊の言葉は彼らの不信感を払拭するには至らなかった。
その時、紅蓮が前に進み出て、三別抄の兵士たちに向かって声を張り上げた。
「聞け、私は宗紅蓮! 対馬の守護者として、蒙古の恐怖を誰よりも知っている。日本が過去に貴殿らを助けられなかったこと、私も心から悔やんでいる。だが今、この戦いを通して未来を変えようではないか!」
紅蓮の声には激情がこもっていた。彼女は自身の父を蒙古との戦いで失った過去を抱え、今この戦いに全てを賭けていることが、三別抄の兵士たちにも伝わった。
「貴殿らがこの瞬間に過去の痛みを乗り越え、共に立ち上がらなければ、またしても蒙古に飲み込まれるだけだ!」
彼女の言葉は、兵士たちの心にわずかながらも動揺を与えた。彼らは紅蓮の決意に何かを感じ、少しずつ湊の指揮に耳を傾け始めた。
「紅蓮殿、ありがとう……」
湊は感謝の意を込めて彼女を見つめると、再び指示を出した。
「片倉正行、右翼を支え直せ! 私は中央を守る。紅蓮殿、貴女は左翼を援護してくれ!」
三別抄の兵士たちも少しずつ動き始めたが、まだ完全な信頼を得ているわけではなかった。戦場は混乱したままで、モンゴル軍の圧倒的な機動力に押され続けていた。
「湊様、このままでは全滅です!」宗景明が切迫した表情で訴える。
湊は一瞬、焦りを感じたが、戦局の要を見極め、冷静に答えた。
「焦るな……右翼が崩れる前に再編しなければならない! 正行、持ちこたえろ!」
片倉正行は命令に従い、精鋭の兵を使って敵を何とか押し返し始めた。湊は兵たちをまとめ、三別抄の兵士たちにも的確な指示を送り続けた。
戦場を遠くから見守っていた裴仲孫は、湊たちの奮闘をじっと観察していた。彼の心にはまだ、日本に対する不信感が根強く残っていた。
「……日本がまた我々を見捨てるのではないか……」
裴仲孫は、かつて三別抄が蒙古に屈せざるを得なかった屈辱の日々を思い出していた。彼は日本に救いを求めたが、声は届かなかった。かつての盟友と思っていた者たちから見捨てられたという記憶が、彼の中に深く根付いていたのだ。
「だが……」
裴仲孫は、紅蓮の熱意と湊の必死な姿を目の当たりにしていた。彼らがただ言葉ではなく、行動で示していることに気づき始めていた。
「今の日本は、あの時とは違うのか……?」
裴仲孫はついに決断し、号令をかけた。
「三別抄、本隊前進! モンゴル軍を包囲し、攻撃を仕掛けよ!」
裴仲孫率いる本隊が現れ、戦場は一気に熱気を帯びた。彼の登場により、三別抄の兵たちは統制を取り戻し、湊たちとの連携も強まった。紅蓮と片倉正行は奮戦し、モンゴル軍を圧倒していく。
「これで終わりだ!」
湊も全力で指揮を執り、モンゴル軍は次第に後退を余儀なくされた。ついに、湊たちは勝利を手にし、村を守ることに成功した。
裴仲孫は戦場を見渡しながら、湊たちの働きを目にし、静かに言葉を発した。
「湊……お前は、行動で示したな」
湊はその言葉に深く頷いた。裴仲孫の信頼を少しでも得ることができたと感じた瞬間だった。紅蓮の目には光が宿り、彼女もまた、この戦いの先にある未来を見据えていた。
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