三別抄との連携――蒙古への抵抗

九州の有力大名たちとの協力を取り付けた湊たちは、次の目的地として大陸上陸の準備を進めていた。しかし、その前に、朝鮮半島の情勢を把握する必要があった。対馬と朝鮮半島との間で情報を得ていた宗家は、湊たちに重要な手がかりを提供できる立場にあった。


湊と時宗は、宗義調から詳しい報告を聞くため、再び彼の屋敷を訪れた。義調は、半島の状況について深刻な表情で語り始めた。


「今、朝鮮半島では、蒙古に対する抵抗が散発的に続いている。しかし、特に注目すべきは三別抄(サムビョルチョ)という集団だ。彼らはかつての高麗の軍勢であり、蒙古に対抗し続けている。特に最近、ある首領が頭角を現し、彼らは勢力を取り戻しているようだ。」


湊はその言葉に反応し、口を開いた。


「その首領の名は……裴仲孫(ペ・チュンソン)ではないですか?」


義調は驚きながらも頷き、湊の方を見つめた。


「そうだ、その名をどうして知っている? 裴仲孫は、古の英雄を自称し、蒙古に対抗している男だ。しかし、奇妙なことに彼はまるで元寇の時代から来たかのように語り、戦っている。」


時宗はその名を聞き、深く考え込むような表情を浮かべた。


「裴仲孫……彼は元寇の際に蒙古に対抗した三別抄の指導者だが、もしもその彼が今も生きているというのなら……」


湊と時宗は互いに目を見合わせた。もし裴仲孫が今の時代に存在するのであれば、彼もまた時を超えた存在なのかもしれないという可能性が頭をよぎる。


義調は話を続けた。


「私の家臣、宗景明(そう けいめい)は三別抄と接触し、彼らの現状を報告しているが、彼らは外部に対して非常に警戒心が強い。彼らとの交渉は容易ではないだろう。しかし、裴仲孫が本物ならば、彼との連携は我々にとって大きな力となるはずだ。」


その時、義調の脇に控えていた紅蓮が静かに立ち上がり、湊に向かって一歩前に進んだ。


「この任務に、私も同行させていただきます。」


湊は彼女を見上げ、紅蓮の瞳に決意の炎を見た。


「紅蓮殿……貴女が一緒に?」


「はい。蒙古に対抗するために、この時代に現れたのは私だけではないかもしれない。裴仲孫が本当に時を超えて現れたのであれば、彼と協力することで、我々はこの戦いを大きく前進させることができるでしょう。」


湊はその言葉に頷いた。紅蓮の覚悟を感じ取り、彼女の協力を得ることが対馬、そして日本全土を守るために必要だと理解していた。


宗義調の協力を得た湊たちは、対馬から朝鮮半島へ向かう準備を進めた。義調の家臣であり、三別抄との交渉役を務める宗景明(そう けいめい)も同行することが決まった。景明は、朝鮮の言葉に堪能であり、三別抄との橋渡し役を担うこととなる。


「彼らとの連携がうまくいけば、蒙古に対抗するための強力な足場ができる。しかし、彼らは容易に外部の者を信頼しない。我々も慎重に接触しなければならない。」


湊は景明と話し合いながら、裴仲孫の存在について思考を巡らせていた。


対馬から出航した船は、やがて朝鮮半島の海岸に到達し、湊、時宗、紅蓮、そして景明の一行は険しい山道を進んだ。三別抄は、今や山岳地帯に潜伏し、蒙古軍に対するゲリラ戦を続けているという。


数日間の旅を経て、ついに彼らは三別抄の本拠地に辿り着いた。そこには、険しい顔つきの戦士たちが厳しい目で湊たちを見守っていた。湊たちは、景明の通訳を通じて彼らと会話を始めた。


「我々は蒙古に対抗するため、貴殿らの協力を求めに来た。」


時宗が静かに語りかけると、三別抄のリーダーと思われる男が前に出た。彼は筋骨たくましく、鋭い目つきで湊たちを見据えている。


「貴様らは何者だ? この地に何を求める?」


その問いに、時宗は一歩前に進み、名乗った。


「私は北条時宗だ。かつて元寇の際、蒙古に立ち向かった鎌倉幕府の執権だ。」


その名を聞いた瞬間、三別抄のリーダーである裴仲孫の表情が一瞬凍りついた。彼は鋭い目つきで時宗を見つめたが、次第に何かを理解したように安堵の色を浮かべた。


「……北条時宗……まさか、この時代でも関わることになるとは……」


裴仲孫の言葉に、湊は驚愕した。彼は確かに元寇の英雄、そして今も生きて蒙古に対抗している存在だったのだ。


「裴仲孫……貴方も時を超えてここにいるのか?」


時宗が問いかけると、裴仲孫は静かに頷いた。


「その通りだ。私はこの時代に現れ、再び蒙古に立ち向かうために戦っている。貴殿らもまた、蒙古に抗う者として、この戦に身を投じる決意があるというのか?」


時宗は静かに頷き、湊と紅蓮もまた同じ決意を胸に抱いていた。


「我々は共に蒙古を討つために戦う。我々の時代の名にかけて、必ずやこの戦いに勝利してみせる。」


その言葉を聞いた裴仲孫は、一瞬の沈黙の後、大きく頷いた。


「……ならば共に戦おう。三別抄の力をもって、蒙古に抗い続ける!」


こうして、三別抄との連携が確立され、湊たちは蒙古との戦いに向けて新たな同盟を築くことに成功した。紅蓮の決意と裴仲孫の存在が、時代を超えた戦士たちを結びつけ、この戦いは新たな局面を迎えたのだった。

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