北条時宗との邂逅
戦いの余韻がまだ場に漂う中、湊は巻物を握りしめ、頭の中を整理しようとしていた。斎藤道勝との戦いは終わり、彼の軍は敗走した。しかし、湊はこの世界が単なる戦国時代ではなく、何か別の大きな力が絡んでいることを感じ始めていた。
「湊様、今後はどうされるおつもりですか?」
片倉正行が慎重に湊の様子を伺う。湊は巻物を懐にしまい、口を引き締めた。
「信長様のもとに戻り、勝利の報告をする。それと、この巻物のことも……」
湊がそう言いかけたその時、突然、正行が顔を曇らせ、周囲を警戒し始めた。
「……何者かがこちらに向かってきます。」
湊は一瞬、自分の目を疑った。霧の向こうから現れた騎馬の一団、その先頭に立つ男は、まるで時代錯誤な存在のようだった。鎧には古代の紋様が彫られ、金属の輝きが鈍く光を反射している。鋭く冷徹な目つきが、戦場の冷気と共に湊を射抜いた。彼の姿勢には、堂々たる威厳が漂い、その装いはまるで絵巻物から抜け出したかのようだ。
「……あの人は誰だ?」
湊はその人物に目を奪われた。時代錯誤な装飾の鎧――まるで、源平合戦の時代の絵巻に描かれた武士のような姿だった。男は湊たちの前に馬を止め、鋭い目で湊を見つめた。
しばしの沈黙の後、その男が口を開いた。
「そなたが、この戦を指揮した者か?」
声には厳しさが宿り、湊は思わず背筋を伸ばした。
「……そうだが、あなたは一体……?」
男はじっと湊を見つめ、静かに名乗った。
「我が名は北条時宗。鎌倉幕府の執権を務めた者だ。」
「北条時宗……?そんなはずはない……」湊は信じられない思いでその名を繰り返した。
湊の胸に衝撃が走った。その名は、日本史において非常に有名だ。鎌倉時代に元寇で蒙古を撃退した英雄。しかし、北条時宗は13世紀の人物であり、この戦国時代の世界にいるはずがない。
「あなたが……北条時宗? でも、どうしてこの時代に……」
湊の頭の中は混乱していた。時宗の名前は歴史の教科書で何度も読んだ。しかし、この戦国時代に北条時宗が存在することはあり得ない。目の前の男は何者なのか?ただの伝説か、それとも――現実なのか? 湊は自らの知識と現実の間で揺れていた。だが、時宗は鋭い目つきで湊を見据えたまま、静かに答えた。
「私がここに来た理由は一つだ。斎藤道勝、あの男は蒙古と手を組み、再び日本を脅かそうとしている。」
「蒙古……?」湊の心は一瞬にして緊張が走った。かつて時宗が二度にわたって撃退した元寇、その悪夢が再び甦るのか。「蒙古」という名が、過去の歴史と現実を交錯させ、湊の胸に新たな疑念が生まれる。
湊はその言葉に驚き、斎藤道勝の不気味さを思い返した。源平の時代を思わせる鎧兜、そして元寇を彷彿とさせる戦術――それらは確かに、蒙古との関係を疑わせる要素だった。
時宗はさらに続けた。
「そなたが持つ巻物、見せてみよ。」
湊は時宗に巻物を見せた。時宗はそれをじっと見つめ、地図に描かれた地形に目を凝らした。
「この地図……ここに描かれている地は、かつて蒙古が勢力を張った場所に違いない。」
時宗の言葉に、湊はさらに手元の巻物を確認した。「カラコルム」という文字、そして地形の描写――それらが意味するのは、確かに蒙古帝国に関わるものだった。
その瞬間、湊の脳裏に「宝玉を探せ」というPCに表示されたメッセージが鮮明に蘇った。
(宝玉……まさか、この巻物がその手がかりなのか?)
湊は考えを巡らせながら、再び時宗に向き直った。
「時宗殿……この巻物には、蒙古の秘密が隠されているかもしれません。蒙古について、もっと教えてくれませんか?」
湊が尋ねると、時宗は深く息をつき、静かに語り始めた。
「蒙古――あの恐るべき帝国は、かつて日本に侵略の手を伸ばした。私はそれを二度にわたって撃退した。ところが、またもやあの悪夢が蘇るかもしれぬのだ。」
「しかし……あなたはこの時代に存在しないはず。どうしてこの時代にいるんですか?」
湊の疑問に、時宗は険しい表情を浮かべた。
「私にも理由はわからぬ。この世界は時代が交錯し、歪んでいるようだ。ある日、目が覚めるとこの時代にいた。私がここにいる理由はわからぬが、斎藤道勝の動きには不穏なものを感じる。彼が蒙古と手を結び、何かを企んでいるのは確かだ。もしかすると、彼の企みがこの時代の歪みと関係しているのかもしれぬ。私がここにいるのも、その影響かもしれない。」
湊の頭の中で、異世界の謎がさらに深まっていく。モンゴル帝国、北条時宗、そして巻物――すべてが交錯し、複雑に絡み合っている。時代を超えた陰謀が動いているとしか思えなかった。
「つまり、この世界は時代が混ざり合っているということか……?それとも、何か別の力が働いているのか……?」
湊は自分の思考を整理しようとするが、次々に浮かび上がる謎に頭が追いつかない。しかし、一つだけ確かなことがあった――この異常な世界で、自分の知識が何か重要な役割を果たすかもしれないということだ。
「湊よ、そなたが持つ知識は、この異常な世界を解き明かす鍵となるだろう。しかし、気をつけよ。蒙古だけでなく、さらなる脅威がそなたを待ち受けている。」
時宗の言葉は、まるで未来の予言のようだった。湊は巻物を握りしめ、この世界の謎を解くためにさらなる決意を固めた。
(モンゴル帝国、北条時宗、そして「宝玉」……この世界には、まだ俺の知らない真実が隠されている。)
湊は北条時宗とともに、異世界の謎に挑む冒険の旅へと踏み出すことを決意した。彼の心には、未知の世界への不安と興奮が入り混じっていた。自分の知識がこの世界でどれほど役立つのか、試される時が来たのだ。
「湊様、まさか……北条時宗殿と共に進むのですか?」
正行の声には明らかな戸惑いが滲んでいた。その目には、湊への信頼の裏に、未知の脅威に対する恐れが垣間見える。彼の立場からすれば、時宗が歴史に記されたただの武将ではなく、時空を超えて現れた異質な存在であることに対する不安が膨らんでいたのだ。
「そうだ、正行。彼の知識がこの世界の謎を解く鍵になるかもしれない。」
湊は力強く答えた。
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