謎の異世界の片鱗
戦の喧騒が静まり返ると、湊は勝利の重みを背負いながら馬上でゆっくりと息をついた。彼の指揮した「釣り野伏せ」は見事に成功し、斎藤道勝の軍勢は総崩れとなり、残党は山に逃げ込むしかなかった。だが、目の前に広がる戦場の光景――血にまみれ、泥で覆われた兵士たちの姿は、勝利の喜びと共に、戦の現実の重さを湊に突きつけた。ここはもうゲームの中ではない。命が失われ、彼の一つの指示がその運命を左右するのだ。湊の胸に、冷たい重みがじわりと広がっていく。
(俺の戦術が……現実の戦場でも通用した……でも、これはゲームじゃない。ここでは命が奪われるんだ)
勝利の喜びが湊の心に広がるが、その中には重い感情もあった。ゲームとは違い、ここでは命が奪われ、湊の指示が多くの人の生死を左右する。彼は勝利の甘さと共に、戦場の残酷さを痛感していた。
「湊様、素晴らしい戦術でした。敵の動きを見抜き、側面からの奇襲を成功させるとは……信長様もご満足されることでしょう!」
片倉正行が湊の横に馬を寄せ、深々と頭を下げた。彼の顔には尊敬の念が見て取れたが、湊の心にはまだ違和感が残っていた。あの「斎藤道勝」という人物――彼は史実にいない存在だ。これが、単なる歴史の再現ではないことは明らかだ。
(この世界は何だ?なぜ俺はここにいる……?これは本当に現実なのか、それとも……?)
戦いの興奮が少し収まった今、湊の胸には疑念がさらに膨らんでいた。彼が知る歴史とは異なるこの世界――そこにはまだ知られざる謎が潜んでいる。
「……湊様?」
正行の声に、湊は我に返った。正行が指し示した方向には、戦闘中に放棄された荷馬車が転がっていた。湊は一瞬の躊躇を覚えながらも、好奇心に突き動かされるようにして馬から降りた。彼の目が捉えたのは、荷馬車に無造作に積まれた戦道具や武具の中で、異様な存在感を放つ古びた巻物だった。巻物の外見には、時代を超えた何か神秘的な力が宿っているかのような印象を受けた。
湊はゆっくりとその巻物を手に取ると、手のひらに伝わる冷たさと共に慎重に開いた。
「……なんだ、これは……?」
巻物を開いた瞬間、湊の目の前に広がったのは、彼の知るどの言語でもない不思議な文字の羅列だった。だが、その中には微かに見覚えのある形がいくつかあった。目を凝らしてみると、所々に古代中国の漢字が混じっているのが分かる。
「……これは、漢字……?」
湊は驚きを覚えた。そこに描かれているのは、彼が歴史書で見たことのある中国の古代戦士たちの姿であり、その武具や鎧は明らかに日本のものとは異なっていた。湊の中で、次第にこの世界の異常さが形を成し始めていた。その武具や鎧の様式は、日本のものとは明らかに異なり、湊が知っている中国の戦国時代や三國志の時代を思わせるデザインだった。
「これは……中国のものか……?」
湊の胸に疑念が広がる。この巻物は、日本の戦国時代とは異なる時代や文化を示している可能性があった。さらに巻物を調べていくと、奇妙な地図が描かれていることに気づいた。
「これは……?」
湊がさらに巻物を調べると、奇妙な地図が描かれていることに気づいた。その地図は日本列島ではなく、広大な大地――中央アジアを示しているように見える。地図の隅には、漢字で「哈剌和林」と書かれていた。
「哈剌和林(かつら……わりん……?)」
湊はその文字を何度も口の中で反芻したが、馴染みのない響きに戸惑いを覚える。だが、その瞬間、彼の脳裏に強烈な閃光のような記憶が蘇った。
「カラコルム……!」
カラコルム――それは、モンゴル帝国の首都であり、かつてチンギス・ハーンが築いた大帝国の中心地。彼がかつてプレイしていたゲーム「チンギス・ハーン~モンゴル帝国の覇道~」の世界で重要な場所だったことを思い出した。
(モンゴル帝国……?)
湊の心にさらなる疑念が広がっていく。この巻物がモンゴル帝国と何らかの関係があるのは明らかだ。そして、斎藤道勝もまた、元寇やモンゴル軍を思わせる戦術を用いていた。もし斎藤道勝がモンゴルと繋がっているのだとすれば――この世界はただの戦国時代の再現ではない。
その瞬間、湊の脳裏にもう一つの記憶がよみがえった。あの時、研究室でPCの画面が歪み始めたときに、見た不気味なメッセージ。
「宝玉を探せ……」
ゲームに引き込まれる直前、画面に表示されたその言葉が、湊の中で鮮やかに蘇った。宝玉――それがこの世界に存在し、何か重大な役割を果たしているのではないか。
(宝玉……そうだ、もしそれが、この世界と現実世界をつなぐ鍵だとしたら……)
湊は巻物をじっと見つめた。この巻物が示している場所や情報は、もしかするとその「宝玉」に関わっているのかもしれない。モンゴル帝国、カラコルム、そして斎藤道勝――これらの要素がどう結びつくのか、湊にはまだ完全に理解できていなかったが、確実に何かが動き始めていることを感じた。
「湊様……何か問題でも?」
正行が不安そうに声をかけたが、湊はゆっくりと巻物を閉じ、腰に収めた。
「いや、問題ない。ただ……これは重要な手がかりかもしれない」
湊は静かにそう言ったが、その胸には新たな謎と興奮が渦巻いていた。彼が手にした巻物――それは、この世界の謎を解き明かす鍵かもしれない。そして、その先には、あの「宝玉」が待っているのかもしれない。湊は決意を新たにし、さらなる冒険に向けて心を奮い立たせた。
湊は馬に再び乗り、正行に前進を促した。戦場に吹き抜ける風は、さらなる謎の存在を予感させるかのようだった。
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