信長と時宗――異なる時代の英雄たちの出会い

斎藤道勝との戦いの後、湊は巻物を携えて信長のもとに戻った。敵を打ち破ったとはいえ、湊の心は晴れなかった。蒙古の地図が描かれた巻物、そして北条時宗という謎の存在――この世界は単なる戦国時代の日本ではなく、何か大きな歪みが絡んでいると感じていた。


信長の居城に戻ると、湊はすぐに報告の場へ向かった。信長は既に湊の勝利を聞きつけており、報告を待っているようだった。


「結城湊、よく戻った。斎藤道勝の首は取れたか?」


信長は椅子に深く座りながら、湊を鋭い目つきで見つめた。湊は一礼してから、静かに報告を始めた。


「斎藤道勝の軍は敗走しました。しかし、彼自身は山中へ逃げ込み、首を取るには至りませんでした。」


信長の顔にわずかな不満の色が浮かぶ。だが、湊はすぐに懐から巻物を取り出し、信長に見せた。


「しかし、これは彼の残党が残していった巻物です。信長様、これはただの巻物ではありません。この中には蒙古――いや、蒙古帝国に関わる重要な情報が隠されています。」


信長は湊の言葉に目を光らせ、巻物を手に取った。地図に刻まれた「哈剌和林(カラコルム)」の文字を確認すると、信長の顔色が変わった。


「これは……蒙古のものだと?」


湊は大きく頷き、さらに続けた。


「そうです。この巻物には、蒙古帝国の首都カラコルムを示す地図が描かれています。そして……信じ難いことですが、斎藤道勝は蒙古と通じている可能性が極めて高いのです。」


信長の表情が引き締まり、すぐに湊へ鋭い問いを投げかけた。


「蒙古と通じているだと? 何を根拠にそんなことを言う?」


湊は冷静に説明を続けた。


「斎藤道勝の軍には、まるで元寇の時のような奇襲戦術を使う者がいました。彼らの行動には蒙古の影響が感じられます。そして、その背後にはさらなる脅威が潜んでいるかもしれません。」


信長はしばらく黙り込んだが、巻物をじっと見つめ、静かにうなずいた。


「なるほど……斎藤道勝が蒙古と繋がっている可能性か。だが、確証はまだない。さらに情報を集める必要があるな。」


その時、湊はふと考え込む。そして、北条時宗の存在を信長に報告することを決意した。


「信長様、もう一つ重要な報告があります。この戦場で、私はある人物に出会いました。鎌倉幕府の執権を務めた北条時宗という人物です。」


「……北条時宗だと?」


信長は目を細め、怪訝な表情を浮かべた。


「時宗殿は、蒙古に対抗するためにこの時代に現れました。彼もまた、この世界に時代の歪みを感じています。」


信長は疑問の表情を浮かべた。


「時代の歪みとは何だ?」


湊は、信長の疑問に答えた。


「この世界は、まるで歴史そのものが崩れ始めたかのように、異なる時代の英雄たちが同じ時代に現れています。時空の歪みが起きているんです。そして、その歪みが引き起こされた原因は、まだわかっていませんが……蒙古、そして巻物がその鍵を握っているかもしれません。時代そのものが歪み、歴史が狂わされているんです。私たちはその原因を突き止め、元の歴史を取り戻さねばなりません。そして、私たちが対処すべき脅威は、日本だけでなく、この世界全体に広がっているかもしれません。」


信長は湊の言葉を静かに聞いていたが、やがて冷ややかに微笑んだ。


「ふん、時代を超えた北条時宗か。面白い話だが、確証が得られるまで信じるわけにはいかぬ。」


そう言いながらも、信長は巻物と時宗の存在に強い興味を抱いた様子だった。


数日後、湊は信長に伴われ、北条時宗との会談の場に赴いた。湊にとっては再会となるが、信長にとっては初めての対面だった。時宗は堂々たる風格で湊と信長を迎えた。


「おぬしが織田信長か……」


時宗の低い声が響く。信長は一瞬驚きを見せたが、すぐに冷静な眼差しで時宗を見据えた。


「そうだ。貴公が北条時宗か。元寇を阻止した英雄がこの時代にいるとは、面白いことだ。」


信長は懐疑の目を向けつつも、興味深そうに歩み寄った。


「蒙古を撃退した英雄、しかも鎌倉幕府の執権……だが、時代は異なる。我々がこうして同じ世界にいるのは、いかなる理由か。」


時宗は一瞬考え込み、湊をちらりと見た。


「湊から話を聞いた。どうやらこの世界では、時代が歪んでいる。しかし、今それをどうこう考えても始まらぬ。我々が直面している脅威は蒙古だ。」


時宗の言葉に、信長は静かにうなずき、しばし時宗を見つめた後、重々しく口を開いた。


「なるほど……貴公が何者であれ、蒙古が再び我が国を脅かそうというならば、放ってはおけぬ」


信長と時宗、二人の英雄が手を組むことを決めた背景には、共通の敵である蒙古の存在があった。時代の違いを超え、彼らは力を合わせることを決意したが、そのつなぎ役となったのは湊だった。


だが、この二人の間には、時代背景の違いからくる明確な対立があった。時宗は、蒙古の脅威を深く理解しているが、信長はまだ天下統一の夢を捨てていなかった。


「織田殿、蒙古は単なる外敵ではない。これは歴史そのものを脅かす戦いだ」


時宗の言葉に、信長は冷笑を浮かべた。


「時宗殿、貴殿は歴史に名を刻んだ英雄だが、私はまだ天下を取っておらぬ。私には私の戦がある。天下布武じゃ」


信長は、自らの「天下布武」という大望を決して手放していなかった。「歴史を守る」とする時宗の大義には、どこか冷ややかな視線を向けていた。


「歴史? ふん、歴史は勝者が作るものだ。大義など幻想に過ぎん」と、信長は内心で皮肉な笑みを浮かべていた。時宗の守ろうとする「大義」と信長の「天下布武」という実利主義の野望との間には、決して交わらない溝が横たわっていた。


「貴殿の野望もわかる。しかし、今はそれを捨て、我々は共に力を合わせねばならぬ。さもなければ、この国は滅びる」


時宗は冷静に説得を試みる。元寇の脅威を二度にわたって退けた経験がある彼は、再び外敵が襲い来る恐怖をよく知っていた。


「蒙古は単なる過去の脅威ではない。奴らは巨大な鉄の獣を操り、火を吹き出す兵器を持っている。信長殿得意の火縄銃をも遥かに凌駕するその威力を前に、我々の通常の戦術は通用しないだろう」と、時宗は真剣な表情で語った。


信長は一瞬黙り込んだが、やがて冷ややかに微笑んだ。


「ふん、時代を超えた英雄が何を言うか。だが、貴殿の言うことにも一理ある。蒙古の脅威を無視し、日本が蒙古に蹂躙されたのでは元も子もないか……良かろう。しかし、私が動くのはそなたのためではない。この国を守るために、私は戦う。貴殿が協力するのなら、それでよい」


信長は時宗に協力を約束し、湊に目を向けた。


「湊よ、そなたが両者を結びつけた。これからは、お前の知恵を借りる。蒙古という脅威にどう立ち向かうか、その知識を頼りにする」


湊は信長と時宗の間にある緊張感を感じつつも、彼らが共に戦う意思を固めたことにほっとした。


会談後、湊は自室に戻り、再び巻物を広げてじっくりと見つめた。巻物に描かれているのは、「哈剌和林(カラコルム)」という地名と、古代中国の戦士たちの鎧のデザイン。湊は、その形状が三國志の武将の装いに酷似していることに気づいた。


「まさか……」と、湊は巻物の細部を見つめながらつぶやいた。さらに目を凝らすと、巻物には一部解読可能な古代の暗号が含まれていることに気づく。


「これが、三國志の英雄たちが残した痕跡なのか?」湊は、巻物に隠された真実に手を伸ばそうとしていた。


(信長、そして時宗……二人が力を合わせれば、この異常な世界に打ち勝つことができるかもしれない)


巻物に刻まれた地図と漢字――それは、まさに三國志の時代のものを示しているようだった。


「これは、三國志の英雄たちの痕跡か……?」


湊はそのことを信長と時宗に報告し、三國志の英雄たちが大陸でモンゴル帝国に対抗している可能性があることを伝えた。


信長と時宗が初めて対面した時の緊張感は徐々に薄れ、湊の知識と直感に導かれ、彼らは日本のみならず、大陸での戦いにも挑むべきだという結論に至る。


「蒙古が再び脅威となるならば、我々はそれに対抗しなければならん。それが、この国を守るための最善の策だ」


信長が強い決意を込めて宣言し、時宗もそれに賛同した。こうして、織田信長と北条時宗という異なる時代の英雄たちが手を組み、日本と大陸を守るための戦いに挑む準備を整えた。


「この戦い、すべての時代と国を救うための戦いだ」


湊は、歴史の英雄たちが協力し合い、蒙古帝国という強大な敵に立ち向かうため、さらに大きな使命を胸に、この異常な世界に立ち向かう決意を固めた。

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