信長との対面

湊は冷たい風を感じながら、石畳の上を歩いていた。目の前にそびえる巨大な城郭――それは、彼がかつてゲームの中で何度も見た風景だった。だが、今、湊はその中に実際に立っていたのだ。信じがたい光景が広がっているが、湊は必死に冷静さを保とうとしていた。


「……ここが、本当に信長の城なのか」


周囲には、鎧をまとった兵士たちが立ち並び、湊を鋭い目で見つめている。湊の服装――ジーンズにTシャツという現代的なスタイルが、この場所に不釣り合いであるのは明らかだった。彼はその視線を感じながら、足元の石畳に意識を集中させた。


やがて、武者が立ち止まり、湊に向かって低く告げた。


「信長様の御前だ。無礼のないようにせよ」


重厚な扉が開かれると、湊の視界には広い謁見の間が広がった。中央には玉座に座った一人の男が、鋭い眼差しで彼を見据えていた。織田信長――歴史上、数々の革新的な戦略で天下統一を目指した男が、目の前にいる。


湊は一瞬、圧倒されそうになったが、どうにかその場で頭を下げた。


「……お前が奇妙な者か」


信長の冷たい声が響く。湊はその鋭い視線に釘付けになったまま、何とか返事をしようとした。


「は、はい……私は、湊と申します。旅の最中、この地に……突然現れてしまい……」


湊が必死に言葉を選んでいると、信長は湊の姿をじっと見つめた。


「ふむ、しかしその格好……見たこともない。異国の者か、それとも何か別の存在か?」


「……え?」


湊は、自分の服装に気づき、背筋が冷たくなるのを感じた。信長はその服装に明らかな興味を抱いているようだった。湊はどう答えるべきかを考え、素早く口を開いた。


「これは、旅の途中で……異国の者から譲り受けたものです」


湊は、できるだけ自然に話そうとした。信長はじっと湊の服装を見つめていたが、やがて冷ややかな笑みを浮かべた。


「ほう、異国の品か。……まあ、それにしては珍妙だが」


信長は小さく鼻を鳴らし、軽く首をかしげた。だが、その話題を深追いすることはなく、次に進んだ。


「お前、戦を知っているのか?」


湊はその問いに、一瞬返答をためらった。戦――ゲームの中でなら何度も戦場を指揮してきたが、この世界でそれがどこまで通用するのかはわからない。


「戦の経験はありませんが、戦略については学んできました。戦術、兵の配置、兵糧――戦に必要な知識はあります」


「ふん、知識だけで戦が勝てるとでも?」


信長は笑いながらそう言ったが、その目は興味を示していた。湊は、その視線を受けながら、静かに言葉を続けた。


「知識がなければ、戦に勝つことはできません。無知のままでは、いくら兵を動かしても無駄です」


信長はその言葉に少し驚いた様子で、湊を見直した。やがて、満足げにうなずくと、再び冷酷な笑みを浮かべた。


「ほう、なかなかの口ぶりだ。……よし、試してやろう」


信長の言葉に、湊は静かに息を飲んだ。今、この場で試されようとしている――自分が生き残るためには、この世界での能力を証明しなければならない。


「お前に一つ任務を与える。次の戦に出向き、我が軍の指揮を助けろ。お前の知識が本物なら、それを証明してみせよ」


湊は黙ってうなずき、深く頭を下げた。信長は、湊の服装に対する疑念を残したまま、試練を与える形でその場を締めくくった。


「もし失敗すれば……その時はそこで命を落とすことになる」


信長の言葉は冷たく響いた。湊はその重みを胸に刻み込みながら、静かに決意を固めた。自分の知識を証明し、この奇妙な世界で生き抜くための第一歩を踏み出さなければならない。

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