電脳世界で交錯する英雄たち 〜歴史の英雄が時空を超えて俺と共闘する〜
天城 英臣
歴史の境界線 〜ゲームの世界に囚われて〜
湊(みなと)は、大学の研究室に向かっていた。 そこには、古びたPCが置かれている。このPCは、性能こそ低いものの、湊にとって特別な存在だった。友人や先輩たちと、歴史シミュレーションゲームをプレイするために使っていた、いわば「ゲーム専用機」なのだ。
このPCを初めて知ったのは、大学に入学したばかりの頃だった。 幼馴染で先輩の春樹に連れられて、この研究室にやってきた湊は、そこに集まる学生たちが、戦国や三国志、世界史を舞台にした歴史シミュレーションゲームをプレイしているのを目にした。春樹たちは授業の合間にPCで対戦し、戦略を駆使して戦っていたのだ。
その中で湊が驚いたのは、「エンパイア・コンフリクトIII」だった。湊が子どもの時、父がプレイしていたこのゲーム。湊は、横で父が一喜一憂しながらプレイしているシーンを思い出したのだ。このゲームは、プレイヤーが歴史上の偉人となり、帝国を築き、戦略を駆使して他の勢力を倒すものだ。湊も成長し、父に教わりながらこのゲームをプレイした。特に織田信長を操作して日本を統一した時の達成感は、彼の心に深く刻まれている。
湊の父は歴史好きで、特に戦国時代の武将たちについて湊に多くを語ってくれた。織田信長や武田信玄のような英雄たちの話を聞くたびに、湊の心はワクワクしたものだ。父との語らいを通じて、湊は歴史の魅力に目覚めていった。そして、父が病で亡くなった後も、歴史を学び続けることが、父とのつながりを感じる唯一の方法だった。
父が亡くなってから数年が経ち、湊は大学生となり、日常生活に追われながらも父の影響で歴史学と地政学を専攻するようになった。最近は、大学での活動が忙しくなり、ゲームをプレイすることも無くなっていた。
しかし最近、父の法事を終え、湊はまた「エンパイア・コンフリクトIII」をプレイしたいと思うようになった。父との思い出が詰まったこのゲームを再びプレイすることが、今の湊には必要だと感じたのだ。だが、自宅のPCではこの古いゲームは動かない――だからこそ、湊は大学の研究室にある「ゲーム専用機」を頼った。
PCの前に座った湊は、懐かしさを感じながら電源を入れた。 モニターに映し出されたロゴを見て、湊の心は子供の頃の思い出と共に蘇る。
「よし……これで、またあの世界に戻れる。父さんとの思い出の世界へ」
そう思いながら、「エンパイア・コンフリクトIII」を起動する。しかし、ゲームが立ち上がった瞬間、異変が起こった。
モニターが突然乱れ、不気味なコードが画面に走り始めた。エラー音がピーピーと鳴り響き、映像がますます不規則に歪む。湊は焦ってキーボードを叩いたが、PCはまったく反応しない。電源ボタンを押しても、PCはまるで生き物のように拒絶するかのように動かない。
「何だ……?」
その瞬間、画面にモンゴル高原を思わせる風景が広がった。広大な草原の上で、鎧に身を包んだ騎馬兵たちが激しく戦っている。その背後には、どこか見覚えのある巨大な城郭がそびえ立っていた。まるで歴史シミュレーションゲームのようだが、あまりにもリアルで異様な雰囲気を放っていた。
次に、画面に「宝玉を探せ」という不気味な文字が表示された。湊はその言葉に強く引き込まれる感覚を覚えた。そういえば、父が昔、宝玉にまつわる伝説を話していたことがあった。あれは一体何だったのか……?
「宝玉を……?」
湊は目を見張り、その言葉に強く引き込まれる感覚を覚えた。何かが異常だ。いつものゲームの雰囲気とは全く違う。背中に冷たい汗が流れた。
その瞬間、画面が真っ白に光り、湊の体を包み込んだ。
「うわっ……!」
強烈な光に包まれ、湊の身体はまるで宙に浮いたかのように感じられた。やがて視界が真っ白に染まり、意識が遠のいていく――そして、湊はそのまま闇の中へと引き込まれる感覚を味わうのだった。
気がつくと、湊は見知らぬ土地で倒れていた。 慌てて立ち上がると、目の前には巨大な城郭がそびえ立ち、重厚な石造りの城壁が湊を取り囲んでいた。周囲を見渡すと異様な風貌…いや、時代劇に登場する村人や商人の格好をした人たちが行き来している。
「ここは……どこだ……?」
湊はその光景に呆然とした。だが、よく見ると、その城や兵士たちの姿には見覚えがあった――かつて自分がプレイしていた「エンパイア・コンフリクトIII」の世界を思想像させる。 しかし、「エンパイア・コンフリクトIII」は古いゲームでしかも絵画風のゲーム画面だったが、ここの世界の細部はより鮮明で、リアルだった。
「まさか……ゲームの中にいるのか?」
湊の頭は混乱し、現実感が失われていく。だが、すぐにゲームで培った感覚が湧き上がり、少しずつ冷静さを取り戻していった。これは現実なのか夢なのか、分からない。しかし、目の前に広がる光景は、ゲームの世界そのものだ。
その時、馬に乗った一人の武者が現れ、鋭い目つきで湊を睨みつけた。
「お前、何者だ? ここは織田信長様の領土だ。無断でここにいるとは、反逆と見なすぞ」
「織田……信長……?」
湊はその名に息を飲んだ。 幼い頃から耳にしてきた、日本史上もっとも有名な戦国大名。その名を目の前で耳にすることに、湊は驚きと不安を覚えた。まさか……ここが本当に戦国時代の日本だというのか?いわゆる「タイムリープ…」
でも、ありえない――これはゲームの世界だ。 湊は自分に言い聞かせるように思った。だが、目の前にいる武者の存在感、周囲の空気感は、ゲームの中とは全く異なるほどに現実的だった。
「信長様に会わせてくれ。話したいことがある」
湊は思わず言葉を発した。今の状況を理解するには、まず信長に会う必要があると直感的に感じたのだ。
武者は一瞬考え込んだ。信長様は知的好奇心が非常に高く、異国の者や奇妙な話に対しても興味を示すことで知られている。この若者が何か特別な情報を持っているかもしれないと感じた武者は、決断を下した。
「いいだろう。だが、妙な動きをすればその場で斬るぞ」
武者は鋭く湊を見つめた後、馬を返し、城の中へと案内し始めた。
湊は深く息をつきながら、その後を追った。この不可解な世界で何が起こっているのかを解明しなければならない。かつてゲームの中で信長を操作して天下を取った湊だったが、今はその信長と直接向き合うことになるとは思ってもいなかった。
「ここからどうなるんだ……?」
湊は胸に不安と期待を抱きながら、冷たい風に身を預けて歩を進めた。そして、この世界には戦国時代の英雄たちだけでなく、さらなる時代や英雄たちが交錯する運命が待ち受けていることに気づくのは、まだ少し先の話である。
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