英雄たちの覇権戦争 〜歴史ゲームで俺が世界を導く〜

@ofura

歴史の境界線 〜ゲームの世界に囚われて〜

湊(みなと)は、夜更けの研究室で古びたPCの前に座っていた。静寂を破るのは、キーボードを叩く微かな音とPCのファンの唸り声だけ。彼が手にしているのは、子供の頃に熱中した歴史シミュレーションゲームのディスクだった。湊は、もう一度あのゲームに触れたいという思いに駆られ、古いPCでその世界に再び足を踏み入れようとしていた。


「エンパイア・コンフリクトIII」――懐かしいそのタイトルは、プレイヤーに歴史上の偉人となって、帝国の興亡を体験させる壮大なシミュレーションゲームだった。湊はかつて、信長を操作して日本を統一し、何度も戦略を練り直しては勝利を重ねた。だが、大学生活に忙殺され、ゲームから遠ざかっていた湊は、最近ふとしたきっかけで再びあのゲームをやりたくなったのだ。


しかし、そのゲームはあまりに古く、最新のPCでは動かない。そこで、湊はネットの掲示板で調べたエミュレーターを使い、無理やりゲームを起動しようとしていた。


「これで……動くはず」


湊はエミュレーターを起動し、ゲームのディスクを読み込んだ。インストールはうまくいき、画面には懐かしいロゴが表示される。しかし、その瞬間、異変が起こった。モニターの映像が歪み始め、画面に意味不明なコードが乱れるように走り始めた。


「何だこれ……?」


湊がマウスを動かしても、PCは反応しない。モニターはどんどん歪み、やがて白い光が強く輝き始めた。次の瞬間、湊は光に包まれ、体がふわりと宙に浮く感覚を味わった。


「うわっ……!?」


目の前が真っ白になり、頭の中がぐるぐると回る。そのうちに意識が遠のき、湊は闇の中へと引き込まれていった。


気がつくと、湊は広大な草原の真ん中に立っていた。彼が慌てて立ち上がると、目の前には巨大な城郭がそびえ、重厚な石造りの城壁が彼を圧倒していた。周囲には何百人もの鎧に身を包んだ兵士たちが整列している。


「ここは……どこだ?」


湊は目の前の光景に呆然とする。見覚えのない場所――しかし、どこかで見たことがあるような気がした。よく見ると、目の前の城や兵士たちの姿は、あの「エンパイア・コンフリクトIII」の中に登場する世界にそっくりだ。


「まさか……ゲームの中にいるのか?」


その考えにたどり着いた瞬間、湊は混乱した。現実ではありえない状況が、今目の前で展開されている。だが、湊はゲームの中の感覚を思い出しながら、次第に冷静さを取り戻していった。


すると、突然、彼の前に一人の武者が馬に乗って現れた。鎧を纏ったその男は、湊を鋭く睨みつけていた。


「お前は何者だ? この地は、織田信長様の治める領土である。許可なくこの場にいることは、すなわち反逆と見なすぞ」


「織田……信長……?」


湊の心臓が激しく高鳴る。織田信長――戦国時代に天下統一を目指した、あの偉大な戦国大名だ。この武者が言っていることが正しければ、ここは戦国時代の日本なのか?それとも、ゲームの中なのか?


「信長様に会わせていただけませんか? 話したいことがある」


状況は分からないが、湊はこの異世界に来た理由を探るため、まずは信長に会うしかないと直感した。湊は武者の前に歩み出ると、決意を込めた声でそう告げた。


「いいだろう。だが、妙な真似をすれば、その場で斬る」


武者は湊をじっと見つめた後、馬を返し、城の中へと案内し始めた。


湊は深い息をつきながら、その後を追った。この不可解な世界で、何が起こっているのかを解き明かさなければならない。かつてゲームの中で信長を操って天下を取った自分だが、今はその信長と直接向き合うことになるとは想像もしていなかった。


「ここからどうなるんだ……?」


胸の中に不安と期待を抱えながら、湊はその場にいる現実感を確かめるように、冷たい風に身を預けた。そして、まだ知らないもう一つの真実――この世界には、戦国時代の英雄たちだけではなく、さらに多くの時代の英雄が絡み合う謎が潜んでいることに、彼は気づくのはもう少し後の話である。

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