第5話 夜空の星星
さて。夕飯後はいよいよ寝る支度である。
「えぇと、火の番は……どうするの?」
焚き火に薪をくべつつも、何故か傍らに肉串の残りや干し肉、干菓子を用意している
あれ……夜食かしら……?まさかこの男……食べたりないというの!?
しかし私の気も知らず、地角はへらへらと笑う。
「俺たちでするよ。ね、マオピー」
「うむ」
地角はともかく、マオピーが夜の番をしてくれるとか……和みすぎる。
「でも、マオピー、火は……?」
「離れたところから……見張る」
と、マオピー。そして……。
「マオピーは妖獣対策とかを専門にやってもらうから」
と、地角が付け加えてくれる。
「え……マオピーって、武官……?」
妖魔族は腕がたつとはいえ……戦うのが苦手な妖魔族だっている。しかし……いざとなればマオピーも戦うの!?
「マオピーは強いよ。もふもふタックルなんて食らえば相手は何だってイチコロさ」
もふもふボディでメロメロにするのか!?
何それ、ある意味くらいたい……とか、何考えてるの私……!
「背負い投げ」
いや、マオピーは背負い投げって言ってるけど!?てか、ゆるキャラマスコットみたいなのに背負い投げって……マオピー、強すぎるわ。主に……キャラが。
「火の番でしたら、私も」
そして
「それなら交替で……あれ、そう言えば
キョロキョロと見回しつつも、姿が見えない。さすがに飛雲は彼らの主君なのだから寝ると思うが。さらには地角たちは護衛なのに、飛雲をひとりにしてもいいのかしら。まぁ、妖魔帝だからべらぼーに強いのでしょうけど。
「あぁ……
「……今、何て……?」
「嫁の墓作りに行くって」
絶対わざと言ってんだろ、この腹黒め……!分かり合ったと思えば、また……!ほんっと性悪よね……!?
「ど、どこに行ったのよ……んもぅ」
「こっち」
でもま、マオピーが案内してくれるようなので、小姑攻撃は特別に許してあげなくもない。
マオピーに案内されて繁みの向こうを覗けば。
「嫁……いや、スイ。安らかに眠れ……」
いーやいやいや、嫁ならまだ許容できたけど、モロ私の名前呼びながら埋めるのやめ――――いっ!
「……っ、スイ、いたのか」
そして私の気配に気付いた飛雲がこちらを見る。
「国に連れ帰る……と考えていたのだが……しかし、スイはこの国に入ってから入手した枝で作ったのだ」
え、妖魔帝国産じゃなかったの……?あれ。
「だからこそ、やはり最期くらいは、スイも祖国の大地に眠りたいと……思ってな」
そう……祖国の土に埋めてくれてありがとう、飛雲。でもそれ、私じゃなくてせめて人形って付け加えてくれないかしらね……?
「スイ……たとえスイが月亮の大地にて永遠の眠りについたとしても……私はお前のことを忘れはしない。ずっとずっと……愛している」
「飛雲……」
何よ……こんな、しみじみとした空気になるなんて。
サクッ
飛雲が、文字の書かれた棒を、地面に突き刺す。そこには……。
【スイ28号の墓】
そう、書かれていた。アンタ……28回も私を破壊したの……?
やっぱりふわっふわの伸縮性のある綿で作るのが一番よ。でもできるだけ、掌で鷲掴みは勘弁してもらおう。
「さぁ、スイ。寝る準備をしようか」
「……あぁ……うん」
「満点の星星の下で、スイと寝られるのは素晴らしいな」
前半のくだりがたければ確かに素晴らしかったわね。
「さぁ、寝袋は特注の
わざわざ作ったのか、このひと。まぁ、夫婦寝袋だなんて聞いたことがないし……。基本的にはかわいいひとなのよね。ひとりお人形さん遊びをしたり、破壊したらしたでちゃんとお墓を作ってあげたり……。
一応私のことも……嫁として、大切にしてくれるのかしら。
夜の番は男3人が交替でしてくれるのだし……私はゆっくりと寝られるかしらね。
それに、寝袋でひとりじゃないのは、少しだけ寂しさが紛れる。
周りに旅の仲間がいるとはいえ、それでも夜空の下で寝袋を敷いて寝ると言うのは、何だか不思議な気持ち。寂しさや心細さを感じるのに、満点の星星を見上げれば、そんなことどうだっていいように私を包んでくれる。そして、飛雲の腕が私を包み込む。
「お面……外さないの……?」
寝る時くらい、外せばいいのに。あなたがどんなに恐ろしい顔をしていたって、今までのかわいいところを引っくるめて考えれば、そんなの微々たることよ。
飛雲は飛雲なのだから、私は別に構わない。
「……私は……」
お面の下から、何だか寂しそうな声が響いてくる。
「私の顔は……醜い」
噂の恐い……ではなく、醜い……?
「私の顔を見たら、スイも私を嫌いになるかもしれない」
「それを気にしてたの……?そんな覚悟なら、妖魔帝国に輿入れなんてしないわよ」
ただでさえ、文化も風習も、姿も違う。地角は人間と見た目が近いとは思うけど、マオピーのような全身もこもこな妖魔族や、私が見たこともないタイプの妖魔族だっているかもしれないでしょ?
「たとえあなたが人間から見て魅力的だろうとそうじゃなかろうと、飛雲は飛雲だわ。私、今日初めて会ったのに、何だかあなたのこと、好きになってきたのよ」
顔なんて関係ない。今日一緒に過ごした飛雲に、好感を持っている。
会ったばかりなのに、不思議と安心感を覚える。
「寝袋が夫婦用だったってのもあるけど、本当に嫌なら馬車の中でひとりで寝ているわ」
「それも……そうか」
これから夫婦になるのだから、受け入れるのも国の将来を背負って嫁いだ公主の務め。でも無理矢理ではなく、嫌なわけでもなく。それは飛雲だからよ。
「じゃぁ……目を、瞑って……」
「……目を……?」
「スイの前でお面を外す練習をするから……だから……まだ、見ないでくれ」
お面を外す練習……か。それでもそうやって、努力しようとしてくれるところがかわいいわね。
「分かった」
飛雲の顔が見えないように、顔を下に向ければ、飛雲がそっと私こ顔を胸元に埋めてくる。眼前にある、男性の胸元。飛雲の匂い……間近にあるそれに、思わずドキリとする。
今になって、一緒に寝ることに臆病になるなんて……覚悟を決めてきただなんてもっともらしいことを言って……私ったら、もう……っ。
そして頭上からカパリとお面が外れたおとがする。
「スイ……私はこんな顔だが……どうか、嫌いにならないでくれ」
妖魔帝らしからぬ、その気弱そうな願いに、何だか切なくなってしまうけど。
「ならないわよ」
顔はまだ見えないが、放っておくと何だか泣いてしまいそうな飛雲を慰めるように、そっと声をかければ、頭上から安堵するような吐息が漏れた。
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