第4話 輿入れ野宿旅


――――輿入れに、日数がかかることは仕方がない。前世のように飛行機や寝台列車があるわけじゃないので。


だけど……それでも宿くらいはあるはずだ。それなのに……野宿。


「さぁ~て、楽しい楽しい野宿だよ~~!」

何故かテンションマックスな地角ディージャオに殺意を覚える。……だが。


「嫁と、野宿っ!スイと、野宿っ!」

このフルフェイス仮面が本気でウキウキしてるんだからなぁ~~、もう~~っ!!

これでは地角への殺意も隠さざるをえないわね。


「じゃぁ肉焼こうか」

火おこしを済ませ、地角が串を網の上で焼いていく。てか……キャンプセットまで用意してるなんて……こやつら確実にキャンプ楽しむつもりだったわよね……!?


因みに新鮮なお肉は、先ほど地角が妖獣をサクッと狩ってきたものだ。

この世界にも、西洋ファンタジーの魔物のような存在がいる。

それらは獣の一種であり、妖魔族ならば飼い慣らすことも可能だが、こうして狩りをして食材とすることもある。

ただし普通の獣と違うのは、妖獣は奇奇怪怪、妖術やら、ものによっては仙術なるものさえも操ると言う。それらは人間にとってはとりわけ脅威となる。だからこそ、人間は妖獣と渡り合う実力を持つ妖魔族とは、できるだけ仲良くしたいのである。


「さぁて……ちょっとクセが強いからなぁ、スイちゃんは食べられるかなぁ~?」

ディ……地角めえええぇっ!?やっぱりコイツからは、悪意を感じるわね!?小姑かぁっ!おめぇわ!それを言うなら小舅かもだが、この男は確実に小姑タイプである。しかも、何かちゃん付けなんですけど!やっぱちょっとチャラくない!?この男!


「……はっ、スイは……食べ、られない……?」

そして肉が焼けるのを今か今かと待っていた飛雲フェイユンががっくりと項垂れる。きゃーっ!?しゅーんとしちゃったじゃないの!しょんぼりにゃんこみたいになってるじゃないの!


「ご……ゴメンって……まさかそんなにしょんぼりするとは……ほら、もしかしたらスイちゃんが、野獣のような公主ちゃんで、妖獣肉ももぐもぐ食べる野獣かもしれないじゃん!?」

オイコラ、何回野獣連呼するんだコイツはぁっ!!ひとを野獣にしたいのか!まさに主君のためなら主君の嫁を野獣にしても構わないと……!?見上げた主従愛をありがとう!?


「そうか……スイが……野獣っ!」

飛雲がお面の下からキラキラとした視線を送ってくる。

とんでも小姑のせいで、飛雲が妙なトキメキを覚えちゃったじゃないの!?


私……こんな嫁いびりには負けませんけど!?こちとら女子よ!女子の矜持があるのよ!


焼き上がった串を手に持ち……そして。


「この肉汁沸き立つ焼き上がり、素晴らしいわね!」

さながら食リポのごとく。


「早速……いただきまーす……!」

はむりと、串焼きにかぶりつく。でもひとくちでは行かないのがポイント。少しずつ食べながらリポートするのも大切。


「んんっ、肉汁たっぷり!美味し~いっ!」

完璧にやってやった。意地悪小姑の前で、完璧な食リポをくれてやった。女子のカワイイを込めた食リポよ!?野獣だなんて、呼ばせないわ!!


月絲怡ユエスーイー

串焼きをひとつつまみ上げ、地角が立ち上がる。そして、ゆっくりと私の前に立つ。な、何よ……っ!まだ文句があるの!?小姑め!


「俺は君を見くびっていたようだ。それをここに、謝罪しよう」

そう言って、肉串をこちらに向けてくる。


「分かってくれて、何よりだわ」

私も何かノリで、持っていた肉串を地角の肉串とクロスさせる。


「……っ、スイ、私もだ……!」

飛雲も肉串を持ち、私たちと肉串を合わせる。


肉串で……乾杯……!


いや、何やってるのかしら、私たち。


「帰ったら皇后は食リポ可って、宰相に伝えないと」

どうやら妖魔帝国では、皇后の公務に食リポが加えられるらしい。


「あ……ところで範葉とマオピーも食べなさいな、ほら」

たくさん焼けたわよ。


お皿には焼き上がった肉串が積み上がっている。地角なんてお構いなしに小姑いびりしてくるんだから。むしろ幼馴染みの容量でも構わないんだから。


しかし……。


「範葉ったら、何でマオピーとイチャイチャしてるの……?」

範葉の後ろから、マオピーがぎゅっと抱き付いていたのだ。


「いちゃ……っ、違います!その……何故か、後ろからくっついてきて……っ」

「……やっぱりイチャイチャじゃないの」

タオ叔父さまもよく義息子にくっついてたわね~~。何だか懐かしくなってきた。いや……桃叔父さまが範葉にくっつくのは、決まっておイタをしてお父さまに怒られた時だが。


「ですから……っ」

そして必死なところが怪しい。確実に範葉だって、マオピーのふかふか毛皮のもふもふを背中越しに楽しんでいるはずだわ!?


「マオピーは火が苦手なのだ」

そこで、飛雲が立ち上がる。火が苦手……て、は……っ。毛皮に燃え移っちゃうからぁぁっ!それは、大変だわ!


「ほら、マオピー」

そしてマオピーに肉串を自らあげに行く飛雲。


「……主君……っ」

そして主君から肉串を貰ったマオピー、めちゃくちゃ嬉しそう。

何かしら、あのもこもこと天然のぽわぽわ幸せ空間は。


「とにかく、範葉も、ほら」

範葉に肉串を差し出せば。


「……ありがたく、いただきます」

「うんっ!」

素直に食べてくれたので、よしとしよう。


あれ、ところで飛雲はフルフェイスお面なのに、どうやって食べるんだろう。じっと見ていれば、器用にフルフェイスお面の中に肉串を差し込み、食べている。


それをまじまじと眺めていれば、お面の向こうの赤い瞳と目が合う。


「スイ、食べぬのか……?」

は……っ。そうよね。


「旨いか」

「……うん、もちろんよ」

何だか、飛雲に見守られながら食べるの、照れるわね。だって何だか……お面の下で、とっても愛おしそうに見つめられているような気がするのだもの……。





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