007
――たとえば、春の訪れを告げる風のように、だれよりも調和を重んじてだれよりも優しい心をもつ、慈悲の象徴たる少年がいました。
なんとなく彼は、疲れていた。
もはや自分がなぜこんなことをしているかを見失ってしまいそうなくらいだ。何を飲む気にも、何を食べる気にも、なれない。羊が傍らですっかり飽きて眠ってしまっているようだった。
だが、不思議である。あと少し。そんな漠然とした感覚だけが残り、彼を突き動かしていた。その場から立ち上がった彼は、カウンター下に隠された冷蔵庫の中から、金色に輝く蜂蜜酒を取り出して、瓶のままあおった。
力が抜けていく感覚。口からはみ出した液体が、そのまま頬を伝ったので、彼は袖が汚れることを気にもせず、乱暴にぬぐい取った。ああ、もうすっかり眠ってしまいたい。兄のことなど忘れ去って、こんな文章にさえなっていないような乱暴なものを捨て去って、羊の群れの真ん中で、ただ青空を眺めながら心地よい風に頬を撫でられて、くらりと寝落ちてしまいたい。
「ああ、羊たち……僕はいったい、どうすれば」
よどんだ思考は、やがてふわふわと溶けて混ざり合っていく。もはやなにか義務を課せられたかのように万年筆を持ち上げた彼は、そのなにか残り一つを探求し始めた。
――羊たちの悲傷――
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