003
――たとえば、そうして深海のように静かで奥深く、しかし果実のようにじんわりと甘さのしみる、天性の才を持った愚直な教師がいました。
「こんな感じかな」
一通り書き終えた彼は、そうしてまた一人の羊を供養したことに、満足感を抱いていた。体全体のこわばりが、一気に緩み、そしてわずかに手がぶるっと震える。むずむずするような幸せの感覚が襲ってきて、この後もまた言葉を綴れそうな、そんな予感がしてならないのだ。
かすかに残るコーヒーの匂いを確かめるように息を吸い込んで、彼は、ゆっくりと目を開いた。視線の先には、すっかり読み込まれてボロボロになった雑誌や新聞がぎっしりと詰め込まれたマガジンラック。その中に一つ、ぼろぼろになった分厚いハードカバーの本が紛れ込んでいるようだった。
彼は立ち上がってその方へ行き、本を手に取る。
「そうだ。次は……生の紡ぎ手となった羊の話でも書いてみようか」
独りつぶやいて、彼はその本の表紙を開いた。
――羊たちの感傷――
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