[星をつかむ]
小学校の授業で、大きくなって働いてみたい職業や、やってみたいことを発表する時間がありました。
クラスのみんなは子供らしい、ケーキ屋さんやお花屋さん、消防士、警察官など、さまざまな職業を発表しました。やってみたいこととしては、世界一周旅行や車の運転、テーマパークの貸切など、頑張ればできそうなことがたくさんありました。
最後に発表する男の子の出番がやってきました。彼は、自分が大きくなってからやりたいことがあるのか、きらきらと澄んだ目をしています。
「僕は、僕は! 大きくなったら、お星さまを捕まえます!」
力いっぱいに言い放った彼の発表には、真剣な気持ちが溢れていました。しかし、他のクラスメイトたちとは違って、叶えられそうにない願い事でした。
「あはは! 星をつかむ? そんなこと出来っこないよ!」
「まずは宇宙に行かないとダメだね」
「絶対に大人になっても叶わないと思うよ」
クラスのみんなは好き勝手に言いました。クラスの先生は、男の子に「きっと叶うよ」とか「頑張って」とも何も言わず、ただ子供らしい願い事だと笑っているだけでした。
男の子は本気でした。本気で、自分が大きくなったら、あの夜空に輝く星をこの手に掴むんだと信じていました。それなのに、クラスのみんなに笑われてしまい、悔しさで胸がいっぱいになりました。
時が経ち、小学校の低学年だった男の子も、今は立派な小学校高学年、最終学年になりました。彼は今でもあの時の夢を覚えています。
「いつか、必ず星を掴んでみせる!」
笑われるのは分かっているので、クラスメイトたちにはもう言わないことにしました。
「ただいま」
いつも通り学校から家に帰りました。
「お帰りなさい! ちょうど良かったわ。早く荷物を置いて、手洗いうがいをしてらっしゃい」
家に帰ると、お母さんがにこにこと嬉しそうに笑いながら、早く支度を済ませるように男の子に言います。
「分かったよ。お母さん、何か良いことでもあったの?」
「ええ、ええ。きっとあなたも気に入るわ」
訳もわからぬまま、言われた通りに荷物を置いて手洗いうがいも済ませました。
「お母さん、終わったよ。一体何があったの?」
不思議そうに、はしゃいでいるお母さんに聞きます。
「京都に住むおばあちゃんたちがいるのは知っているでしょう? 今日、荷物が届いて、あなたにぴったりなお菓子が入っていたのよ!」
お母さんはウキウキしながらそのお菓子を取り出して男の子に見せます。
「金平糖っていうお菓子よ。きらきら小さいけれど、まるでお星さまだと思わない?」
男の子は、発表会の日にお母さんに泣きながら、自分の大事な夢が笑われてしまったことを話しました。お母さんは否定せずに、「きっといつか掴めるようになるわ」と、男の子を慰めてくれました。
「覚えてくれていたの? 僕の夢を?」
「当たり前じゃない。あなたの大事な夢でしょう? 本物の星じゃなくて悪いんだけど……」
お母さんは苦笑いをしながら、色とりどりの金平糖が入った瓶を男の子に渡します。
「きれい……。偽物じゃないよ。これは本物の星だよ! お菓子のね?」
「ねぇ。このお星さま、食べてもいい?」
きらきら輝く笑顔でお母さんに尋ねます。
「もちろんよ!」
お母さんも同じような顔で答えます。
「へへっ! 僕、お星さまを掴むだけじゃなくて、食べちゃった!」
夜空に輝く星に負けないくらい、輝く笑顔で男の子は言いました。
金平糖……それは甘くて美味しい、お菓子の星。
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