最期の青春

TatsuB

第1話

高校1年生の8月


蒸し暑い、まさに夏という気温に、大勢の人々の賑やかさが加わり、さらに体温が上がる。


夏祭り――そこに涼しさをくれるのは、彼女の笑顔。


「やっぱり祭りは人が多いね」


彼女は祭りの騒音の中、かすかに聞こえる声でそう言ってきた。


僕は照れくさそうに「うん、そうだね」と気の利かない返事をしようとした、その時。


「よ!」と後ろから声がした。


振り返ると、そこには中学時代の同級生が立っていた。


(今、二人きりなんだから空気読めよ!)と思いつつも、「久しぶりじゃん!」と声をかけ、適当な会話をしてその場を離れた。


(やっぱり祭りは顔見知りが多いな……せっかくの夏祭りデートなのに)


祭りを口実にデートに誘ったのに、その祭りが逆にデートの邪魔をしているという、どうしようもない運命に苦しんでいた。


だが、デートであることには変わりない!!


せっかくだから楽しもうと気持ちを切り替えて、彼女に「今日は祭りだから同級生も多いね。ごめん、待たせちゃって」と言ってごまかした。


「うん、全然大丈夫」


そんな、ぎこちない二人の姿は青春そのものだった。


人混みの中を歩く二人。


手をつなぎたいけど、つなげない。


でも、ただ彼女が隣にいるだけで僕は幸せだった。


彼女は汗をかいた可愛い顔で「花火まで少し休まない?」と言った。


花火は21時に打ち上がる。それまで30分近くある。


「そうだね、歩き疲れたし、休もうか」


そう言って、人混みから離れ、人の少ない場所へ避難した。


「ここなら、ゆっくり休めそうだね」


「うん」


それから数分の無言が続いた。


その無言は、何時間にも感じられ、少し気まずくなってきたが、何も話題が出せずに彼女の様子を伺うように表情を見た。


(あっちも同じことを思ってるのかな?)


(つまらないとか、思ってないかな?)


不安が胸を締めつける中、彼女は両足をパタパタさせながら、楽しそうに花火が上がるのを待っているように見えた。


そして、時間が進み、ヒューッと数発、小さな音が響いた。


「お!来たね!」


「そうだね!ついに花火が上がるね!」


僕の気分も高まる。


花火が打ち上がり、気まずさも消えた。


あの長く感じた二人の時間は、花火が打ち上がると一瞬にして消えてしまった。


「きれいだったね」


「また来年も見たいね!」


花火も終わり、少し興奮気味に話していると、彼女がさらっと「来年も」と言った。


(ん?今、来年もって?)


彼女の嬉しい言葉に、僕は「うん!」と、情けない返事をするしかなかった――夏祭りの終わり。


それから夏が終わり、秋、冬、春が過ぎ、また新たな夏が来た。


再び、去年と同じ場所で見る花火。


今年は、二人の間に気まずさはなかった。


君はたくさんの花に囲まれて...。


打ち上がる花火を見て思う。


もっと高く、もっと大きく打ち上がれ――と。


そして強く願う。


「君と生涯、忘れられない青春を過ごしたよ」と。


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