第6話 来

  時間は遡り、電脳街ーーー

 

 2人の姉妹が経営する個人商店。そこに日本から来た体は痩せぎす髪はホワイトアッシュ年齢は27くらいの男が品物を物色しに来ていた。

「え〜っとこれが火でこれが空気・・・空気って空気砲みたいなこと?[#「?」は縦中横]?」

「空気を操るみたいだナ!なんでも出来るナ!」

「かまいたち作ったりバリア作ったり出来るのかなぁ便利だねぇ」

 男の名は立里亜瑞麻。彼は今にも消え入りそうな雰囲気を纏っており、発する声も植物のように静かな声だった。

「これは・・・時・・・?時ってなに??」

「時間止めたりできるみたいだナ!」

「すごいねぇそんな事できるんだねぇ」

「なんでかわからないけどナ!」

 静かな声の男の質問に答える少女の名前は梁草莓。

 消え入りそうな彼の声を活発な声で完全にかき消していた。

 髪は中心を軸にコバルトブルーとマゼンタカラーに分かれていた。

 カラコンも髪色と同じカラコンを入れており、口をよく見れば舌も2つに分かれている。オッドアイズツートンカラースプタン少女だ。

「そうだ、製造元と直接やりとりしたいんだぁ。出来ないかなぁ?」

「無理!」

「そっかぁ・・・製造元はどこ?」

「守秘義務!仕事!」

「そっかぁ」

「ツァウメイ、代わりな」

「ランメイ姉!」

 活発な少女ツァウメイの姉、梁蓝莓が店の奥から姿を現した。

「あぁリャンさん、こないだぶりです」

「なぁ兄ちゃん、いつも来てくれるのはありがたいけどさぁ、仕事上のナワバリってもんがあんだよ」

 妹ほど派手ではないにしても黒のロングにブルーとピンクのインナーメッシュが入っており、右目蓋には3連ピアス、胸には大きくハート型のタトゥーが入っている。

「あんま迷惑な提案しないでくれるかなー?うちが消されちゃうよ」

「だよねぇ」

「それ以上しつこくしたらあんたとは取引しねーよ?」

「ごめんねぇ、じゃあ今回はそうだなぁ・・・火と空気と・・・アレとコレと・・・時を一箱ずつ送ってくれるかな、はい100万円」

「あ?全然足りねー・・・なんだちゃんとあるじゃねーか」「毎度アリ!」

「望月くんってやつの真似するの好きなんだ」

「誰だよ、しかし随分買っていくなぁそんなに評判いいのか?」

「日本も治安が悪くなってきてねぇ。悪い大人から自分を守れる力をつけさせとかないと」

 アズマは薬のおにーさんと呼ばれる場所へ帰っていった。



  現在、斑鳩シンリョウジョーーー


「異常な脱水症状ねぇ・・・」

「そうなんです、ちょっとでも気が緩むとぶぇっくし!ああぁすみませんまた水浸しに」

「うっ・・・とりあえず外で診ますので・・・」

 斑鳩シンリョウジョは水浸しになっていた。至って真水なのだが生理的に汚い。

 

  蒲田慎司・公務員

 一週間ほど前から脱水の症状あり、常に全身から冷や汗が流れペットボトルを手放せない状況下にある。

 紹介状ありとはいえ本当にここの案件なのだろうか?とにかくなるべく早く診断を終わらせたいという気持ちはあるが、いわゆる“症状”であれば『使える』といかるは考えていた。

「えーと・・・まずこちらで出来る対処はあくまで症状の抑制です。ケースにもよりますが、完治は出来ないものと思ってください」

「えぇ![#「!」は縦中横]?[#「?」は縦中横]困りますよ!?こんな状態じゃ働けないですよ!」

「まぁ今ならリモートワークという手もあります。そこら辺は会社にご相談ください」

「職業柄リモートは無理なんですよぉ・・・」

「いいですか?もしこちらで対処可能な症状だとすれば、水分を流れないよう操作できるようには出来るかもしれません」

「つまり・・・どういう事ですか?すいません水飲みます」

「どうぞ。つまり今からする処置で対処できれば脱水の症状を抑えて自在に水分を操る・・・自力で水鉄砲が撃てます」

「いらねぇ・・・」

「そうでもありません。使い勝手が良ければ火事の現場で大活躍できますよ」

「逆に消防の迷惑になるんじゃないですか?」

「まぁほら、光の宇宙人も使ってますし」

 なんのフォローにもなっていないが放火犯が潜んでいる今、使えそうな駒は持っておきたい。

 火には水、確実じゃないが対処できそうな浮かぶvision満載。

「じゃあ施術しますねー」

 

 ガチャリ

 

 いかるは蒲田の頭に指を立て、彼の脳のギアを切り替えた。

 施術は上手く行ったようだ。蒲田の全身から噴き出るような水は蛇口を閉めたように止まった。

「さて、ここからはあなたの力です」

「はい?」

「体内の水を放置していると体がむくんでくると思います。そうすると最悪水風船のように破裂するかもしれません」

「はぁ!?」

「なので、今から水を放出出来るようにしましょう」

「それってすっごいトイレが近くなるんじゃ・・・」

「ご安心を、自分が水を出したいところから出せばいいのです」

「じゃあ・・・はッ」

 蒲田の右の手のひらからチョロチョロと水が流れてきた。風情がある。

「いいですね。ではこちらから一つ頼み事をしてもいいでしょうか?」

「今のでいいんですか?!え、頼み事?」

 いかるが次から次へと話題を変えるのでついていくのに精一杯だ。

「今、おそらく蒲田さんのように症状が暴走している”患者”がいます。彼女の症状は“火”、火には水、蒲田さんのこの水の力を是非お借りしたいと思います。」

「え?今の僕みたいな感じで火が出る人間がいる・・・って事ですか?じゃあ大した事ないんじゃそんなバカなハハハハハ」

 いかるの急な話に蒲田はもうついていけない。理解しないまま自分でも話を進めてしまっていた。

「いえ、既にその症状の痕跡らしき不審火が多発しています。かなり深刻な状況にあります。不躾で大変申し訳ないのですが・・・ご協力頂けないでしょうか。こちらも依頼する以上タダ働きはさせません」

「え、えぇ、えぇわかりました。えぇーーーーっと・・・?あのー、日付はいつですか?」

 非現実に足を踏み入れたような感覚に、蒲田は普通の質問しか出来なかった。

「それは・・・今日かもしれないし明日かもしれない。事件は自然災害より前触れがありません。急な呼び出しになってしまう事をお許し下さい。」

 深々と頭を下げるいかるを見ていた大和は思わず「・・・誰?」と呟いた。

 

 

 新宿

 

 年齢の離れた男女二人組が歩いている。新宿で歳の離れた男女が歩いている事など最早珍しいことでは無いがそれでもこの二人組の姿は目に留まった。

 結羅とアズマである。2人の関係性は肉体関係もなく至って健全ではある。しかしアズマが現金と電脳街で買い付けた”飴”を結羅に渡すという点ではとても不健全である。

「他のみんなには配れた?」

「うん、でもほんとにいいの?みんなからお金取らなくて」

「これで収入得てるわけじゃないしねぇ。それにそんな金ないでしょ?」

「・・・じゃあなんであたしにはお金くれんの?」

「ただの仕事代だよ」

「ふーん」

「そういえばさっき燃やしちゃった人は死んだのかな」

「大丈夫じゃない?口から火吐いて倒れただけっぽいし」

「酷い事するねぇ。しばらく喋れないし食べれないし呼吸もできないね」

「気持ち悪かったんだもん、お金いらないっていったのに」

「けど口から火が出たのかぁ・・・君の能力だとしたら中から燃やしたのかな?」

「そうなんじゃない?」

「・・・じゃあレベルが上がったんだねぇ」

「なんのゲームの話?」

「例えだよ、君の火を出す能力はレベルアップして対象を直接燃やす超自然発火のようなものになったんだ」

「ふーん」

「この能力はたぶん精神状態が不安定なほど強くなる。君を観察してそう思った」

「ふーん、観察してんのまじキモいね」

「さて、これからゆうらちゃんはどうしたい?」

「別に」

「仕事に付き合ってくれるならお金渡すよ」

「なにすんの?」

「実験」

 

 

 斑鳩シンリョウジョに訪れる患者の中にこれと言って特異な能力を持っているものはいなかった。なにを特異とするかというと難しいのだが。

 中には切ったそばから傷が回復する異常な治癒力を持った患者もいたが

「・・・治す必要ないんじゃないですか?」

 と言ってそのまま返した事すらあった。回復能力がバグを起こす可能性もあったが、症状が完全に解明できてない以上下手に手出しするのも危険と判断したというのもあるが。

 燕太のような火の能力が発現した者はおろか、彼の姉が来た形跡もなかった。

 いかるはカルテを見ながら自称探偵から送られてきた画像を一通り眺めていた。その中の一枚の写真に白髪?銀髪?の全身黒に固めた細身の男とダボついた紫のパーカーを着た少女が映っていた。

 どちらかといえば写真越しでも個性的な存在感を放っている男の方に目が行った。

 少し離れた場所から撮られているためか顔ははっきりとは見えないがそれにしても年齢が掴めない。

 自称探偵に「この男をマークしておいてくれ」と画像と共にメッセージを送った時、チャイムが鳴った。

 

「・・・今日はもう営業終了してんだろが」

 予定が入ってない時に訪れる客ほど迷惑な者はない。

「はいはい、こちらは紹介状がない・・・と・・・・」

 扉を開けた途端、いかるは目を疑った。

 たった今自称探偵にマークをしてくれと伝えた男女2人組がいた。

 

「すいませぇ〜ん、ちょっと見ていただきたいんですがぁ、あ、私じゃなく彼女なんですけどぉいいですかぁ?」


『なんだ?なぜここに来た?目的はなんだ?』

 いかるは脳のギアをフルにして思考した。マークしていた人間が突然目の前に現れるのはただの偶然だろうか?

 いかるは考えるあまりに硬直していた。

「どうしましたぁ?」

「いえ・・・・どうぞ・・・」

 彼女の顔に恐怖が浮かんだのを見た男は、相手を安心させるような柔らかなトーンで言った。

「あぁ、記者のお二人が僕たちの写真を斑鳩という宛名に送ってたのを見たので探して来ちゃいましたぁ」

「えっ・・・・」

「ビンゴだったみたいですね〜」

 

 いかるは彼らを招き入れるしかなかった。

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