第3話
名人戦の大舞台で、歩が挑む相手、時の名人は、すでにその強さが伝説化しているといっても過言でない、藤井聡太八冠だった。
弱冠25歳にして、将棋界のタイトルを総なめにして、不世出の最強王者の地位を不動のものとしている天才、将棋の女神の寵愛を一身に集めている俊秀。
まさにこれ以上にないビッグネームだった。相手にとって不足どころか、一勝でもできれば、歩にすれば大金星かもしれなかった。
”打倒藤井”対策に、歩は彼の「考えて、考えて、考える」を一読した。点字の翻訳は、専属のリライターがいたのだ。
結果、本質的に
ともあれ、将棋の本質は、歩は、”文脈”と思っていた。
何事でも、”文脈の捨象”が肝心、それゆえに文脈がそのものと不可分となる、そういう逆説が成り立ち、将棋も例外ではない…寧ろもっともその傾向が顕著なのが真剣勝負の”場”であって、そのことを理解した上での心技体の充実…端的には「文脈への”アンガジュ”がすべて」。漠然とだが、そういう経験的な認識があった。将棋道というか哲学の萌芽ともいえる。
”おしゃべり”が、普通にできないので、情報収集や日ごろの見過ぎ世過ぎはIT機器に頼っているが、昔のいろいろな身体機能の不自由な人より生活環境やQOLはよほどに高レベルに整っている。
ヘレンケラーの伝記でも、
漆黒で無音の世界。
現実界の記憶がないので、歩みの”イメージ”想起機能は、中途半端にしか解発してないので、独特の未分化でプリミティヴな色合いを帯びていた。
将棋の駒それぞれについても、動作の意味とか、2次元のマトリックスの”場”の中で、一歩しか移動しない駒、特殊な動きの駒、縦横無尽に動く駒、それぞれが交錯衝突する錯綜した複雑なヒエラルヒーの理解は、論理的というより直観的で、特にそうした理解が歩の場合、将棋において、常人を圧するほどに並外れてすぐれている、というには、”神”とか”運命”とか、そういう通常の人間界いい
歩の青春(将棋小説) 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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