第36話
木曽家は伊自良城を背に陣取っている場所に配備された。
伊自良城は大桑城の支城であり、大桑城という攻略の難しい城を落とせると相手に思わせる策でもある。相手がそれに乗るかは別だが。
それと、なぜ寝返ったのかを強調するため、木曽家のみを野宿にして、他の土岐家の家臣は城や砦に詰めている。これは木曽家は援軍として来たにも関わらず、不遇をかこっていると思わせるものだ。流石にポツンと五十人弱がいるだけでは怪しまれるため、森に隠れている。
だが、前世と違って今はクソ寒い。前世の真冬なんて目じゃないのに、暖房器具もないし布団だってペラペラ、感覚もヤバイし死を覚悟した。
そして、東南で土岐家feat. 三木家が土岐次郎とドンパチやり始めてから五日後、朝倉家と京極家の敵援軍が遠目で確認された。総数は約五千。それを五十弱で足止めとは大変なことだ。
まぁ、戦いが前提ではないからいいか。
使者に土岐次郎の書状を持たせて敵援軍に飛ばした。
相手は信じたようで、俺達と対峙するところまで進軍したところで陣を張った。これから一戦やりますよという偽装のために。
そして、互いに矢を数発打ち合い、名目上戦ったという体裁を作れた。
「よし、何人か某に着いてこい。どれだけ時間を稼げるかだが……黒川殿、何か策はありまするか?」
俺は身体を縮こませながら尋ねた。
「む?ワシは疲れたから、木曽に帰るぞ。」
「……………は?」
ぱーどぅん?
意味は分からんがパッと頭の中に浮かんできた。
「いやぁ、老体にはキツくてのぉ。
なぁに、護衛など要らぬ。一人で帰れるわい。」
黒川殿はニカッと笑って立ち上がった。
「あ、いえそうではなく……」
「それじゃ、頑張るのじゃぞー。」
周りの黒川衆を見渡しても、何も言わずに諦めの顔で溜め息を着いた。
……………しゃーねぇかぁー………
義風に乗り、二人を連れて敵援軍に接触する。
敵兵は槍を構えて俺を連行するように連れていくが、陣の中に入ると警戒を解くように槍を下ろした。
「来ていただき感謝する。この軍を受け持つ朝倉宗滴と申すものだ。」
「某は京極家の赤田隼人正と申します。」
「お初にお目にかかりまする。木曽家家臣、風波幸吉と申しまする。それにしても、あの朝倉宗滴殿が来られるとは目から鱗ですぞ。」
「ハッハッハッ、某なぞまだまだ。しかし、今はあの生臭坊主も静かですからな。たまには外を見るのも一興かと思いましてな。」
「なるほど。そういえば、お二方は斎藤彦四郎殿の要請を受けて来たということでよろしいか?」
「そうであるな。甥にせがまれての。」
「某も主君に斎藤殿を助けて欲しいと命を受けたまで。」
もう話を広げるのはキツいかな。俺は懐から地図を取り出して前に広げる。
「現在我らは伊自良城を背にしております。本来なればすぐにでも落とすべきですが、近くには大桑城やその他砦が多く存在しております。
ですので、先ほどの戦の損害を補うために我らが伊自良城に駆け込みます。ここでお聞きしたいのですが、城門を開けさせた所でお二方の号令で攻め寄せるか、攻城中に我らが内応したように見せかけるか、どちらがよろしいか?」
二人は悩むように目を瞑った。
「某は城門さえ開けていただければ構いませぬ。その方が、木曽家の方々の負担は少ないでしょう。」
赤田殿が後半憐れむようにそう言った。どうやら、砦をもらえず野宿だったことの効果はあったようだ。
「朝倉殿は?」
「……どちらでも。」
腕を組んだまま、難しい顔のまま返した。
「であらば、我らが城門を開けますのでその後はお二人に任せまする。それでよろしいか?」
「うむ。なればその実行はいつにしましょうか?」
赤田殿は息巻くように尋ねてきた。
「そうですなぁ……」
「明日にしましょう。」
なぬ!?
「ほう?それはどういう?」
「雪起こしの予兆がありましたゆえ、急ぐべきかと存じます。」
雪起こし………?なんそれ。
「そうでしたか!宗滴殿が言うなれば本当なのだろう。風波殿、明日決行ということでよろしいか?」
「…分かりました。では委細その様に。
失礼します。」
時間稼げなかったよー!
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