第37話

 伊自良殿と連絡を密にして当日を迎えた。


 俺達はもう一度朝倉京極連合軍に一当てし、逃げるように後退する。演技だと気付かれぬよう慎重に慌てる。

 ………自分で言っといてなんだが矛盾しまくりだ。




「伊自良殿!風波です!門を開けてくだされ!」

 俺の声に呼応して城門が開く。

 俺は本気で追っていない連合軍に槍を向け、黒川衆を先に中に入れる。

 この先にある正面と左右の道に落とし穴がある。そこで一網打尽にし、残りも着実に討ち取る作戦だ。

 昨日の話では赤田殿が左右、朝倉殿が正面と聞いている。不安なのは、正面に三千の半分も落とせないことだが、そこは伊自良家に任せることしか出来ない。


 黒川衆が入りきった後も、城門を閉めさせないように立ち、敵を見据える。

 そしてそのまま赤田殿の軍が左右に別れて突撃していった。

 続いて朝倉殿が………止まった!?

 バレたか!?いや、なら赤田殿とも共有するはず。

 一体何を………

 そう思っていると、何か指示を出した朝倉殿が近付いてきた。

「なかなか良き策でしたな。」

「あ、朝倉殿……」

「おっと警戒することは不要よ。我らに争うつもりはありませぬ。」

 遠くで、ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!という落とし穴に落ちているであろう人々の声が聞こえた。

「何故争わぬと?援軍として参ったのでしょう?」

「そうだ。しかし昨日の晩、木曽家の黒川と申すものが接触してきたのだ。」

 はい?

 多分俺の顔は今、過去一腑抜けているだろう。

「それで……なんと?」

「朝倉家が助けたいのは土岐次郎かはたまた斎藤彦四郎か……と聞かれての。思わず黙ってしまったわ。

 某としては甥の正室の身内を助けられればそれで良い。それゆえ、我が軍は昨日より援軍ではなく、斎藤彦四郎殿の救出部隊となった。」

 なるほど?斎藤彦四郎の身柄さえ抑えられればあとは関係無いということか。

「ふむ、事情は分かりました。しかし、朝倉家の当主に話を通す時間はあったのですか?」

「某の独断じゃ。」

 悪びれもせず、言い放った。

「な!?よろしいので?」

「構わぬよ。」

「そうですか………」

 力のある家臣ってのは怖いなぁ。




 最初の指示は無傷で帰ると京極家に怪しまれるとのことから、兵士千名を先に帰して、散々に帰還するように命じたらしい。

 俺達が先にやられたと見せかけるように、伊自良殿に伝えてから、城の中に入って城外に引き返した。

 その時数本の矢が飛んできたが、矢尻はなく、ちょっと痛いくらいだった。


 それを見たのか、赤田殿の軍勢も退くように城外に出で、城より離れたところで腰を落ち着かせた。


「皆様も数が減ったようで……」

 あ、朝倉殿は千名程先に返したので一目瞭然だが、俺の場合は黒川衆を城に置いてきてしまったため、何か勘違いをされたようだ。

 まぁ、その方が都合が良いか。

「真すみませぬ、某の探りが甘かったようで。」

「いえいえ、風波殿の責ではありませぬ。

 ……斎藤殿には申し訳ないが我らは退却いたす。」

 赤田殿が沈痛な面持ちで呟いた。

「構いませぬよ、いたずらに兵を減らすのは愚の骨頂。なぁに、帰還したのち、某が赤田殿の勇姿を語りまする。」

「おぉ!感謝するぞ宗滴殿!」

 二千から千を切っていると思われる、赤田殿の軍勢は、退却していった。



「これから如何致しましょう?」

「ふむ、まずは斎藤殿がいる稲葉山城の状況を見なければなんとも。」

 地面に胡座をかいて朝倉殿と話す。

「そうですな………なれば、一緒に参りましょう。」

「ほう?」

「現在、朝倉殿の心情を伝える使者が美濃守様の元へ向かっていることでしょう。

 そこで、我らが稲葉山城に救援に参れば朝倉殿は斎藤殿を救出できる。某は土岐次郎殿を捕らえられる。………まぁ、城が落ちていなければの話ですが、どうですかな?この話。」

「しかし、このまま行けば土岐次郎殿に怪しまれるのでは?」

 む、確かに無傷すぎるか…………

「………なれば、少しずつ朝倉殿の兵士を減らすことは可能ですか?城の攻略を辞め、玉砕覚悟で稲葉山城に向かったとあらば、稲葉山城内においての信頼はかなりの物と思われまする。」

「それなれば、良いだろう。風波殿は伊自良城にこの事を伝えてくれ。某は兵らの選別と、偽装のために使者を出して五千の兵で援軍に来たと宣伝をするゆえ、明日にでも出立しよう。」

 確かに、五千からいきなり二千以下かもしくはさらに少ない数だったら、どれだけ困難なことをしたか強調できるな。

「ですな。物資は必要か?」

「……干飯と味噌を少々。あとは………」

 ここからは見せかけではあるが、朝昼は永遠と走ることになるだろう。俺はまだ良いが、朝倉家の兵士の士気が保つかは分からないな。

「確か、酒があるはずです。そちらも分けられまするが?」

「なんと!是非お頼み申す!」

 このまま友好的に行きたいものだ。

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