第35話

 土岐四郎の陣容を探るだのなんだの理由をつけて俺は土岐次郎様の城から出た。

 話ではもうすぐ三木家の援軍が来てしまう。一刻も早く伝えなければ、朝倉家のヤバイ人に挟み撃ちを食らってしまう。

 義風を走らせ、鷺山城に向かう。本来なら土井城に向かって順序だてて報告するのだが、事が事だ。急いで謁見させてもらう。




「なんと………」

「今述べたことは全て事実でございます。斎藤彦四郎の口より聞いた確かなものであると存じます。」

「そうか………感謝するぞ。風波殿はそのまま土井城に知らせに行ってくれ。」

「は。」



 報告を終え一先ず土井城に帰還する。


「そのようなことが………」

 土井城でも似たような反応が返ってきた。一人を除いて。

「なるほど、だから六角家は出張らなかったのですな。」

「黒川殿、それは?」

 黒川殿の呟きに、土井殿が尋ねる。

「四家で同盟を結んでいながら六角家のみ援軍を送らなかった。些か疑問でしたが、此度の報せで合点がいきましたな。」

「うむ、天下の六角家も浅井家の支援を受けた家臣の伊庭家と対立をしている今、敵を増やしたくないのであろうな。」

 そんなことになってんだぁ……

「此度の話で三木家の援軍を見送るか、留めておく必要がありますな。」

 国蔵殿が呟く。

「風波殿、敵の総数は?」

 矢武殿が尋ねてきた。

「すみませぬ、そこまでは。」

「そうか。」

「しかし……なぜ斎藤彦四郎は朝倉家と繋ぎを得られたのであろうか?」

「確か、彦四郎殿の姉か妹だったかが、その二家に嫁いでおると聞き及んでおりますな。」

 梅之丞殿の問いに土井殿が答えた。

「………然ればここは敵の援軍と対峙するのは木曽家にするというのは?」

「黒川殿、それはどういう?」

「敵にとって我ら木曽家は寝返る者達。なれば木曽家に道案内を任せて敵を一気に蹴散らしてもらった方が良いと考えるのでは?

 その時に我らが時間を稼ぐゆえ、皆様方には迅速に稲葉山城ひいては次郎殿を捕らえていただきたい。」

「しかし、それはかなり危険でしょう。噂に名高き朝倉宗滴なるものが見破ったらばいよいよ木曽家に迷惑をかけてしまいまする。」

「ほっほっほっ、危険な分、見返りをいただければそれで良いですよ。それに、もしこの案が採用されたならば、迅速に動かねばならぬ皆様方の方が大変かと存じまする。

 それでは某はこれで。失礼いたしまする。」

 土井殿を黙らせて、黒川殿は満足したように部屋を出ていった。

「黒川殿、なかなかの切れ者ですな。」

 矢武殿が笑いながら俺に聞いてきた。

「えぇ、某も前からですが、ついていくのにも大変で、未だに黒川殿を越えられる自信がありませぬ。」

「ハッハッハッ!確かに、そうであるな!」

「彼のようなものは土岐家家中にもいるにはいるが、忠誠心があるとは言えぬからなぁ。」

「ほう?それはどなたですかな?」

「そのようなこと、某の口から言えぬわ。」

 土井殿が困ったように言う。

「確かに、美濃守様の四郎様への溺愛ぶりを見て困惑しているものも多い。四郎様が悪いのではなく、皆も跡継ぎは次郎様だと思っておったからな。」

「そうでしたか………」

「風波殿は次郎様に会ったのだろう?どう思った?」

「そうですなぁ………良き方ではありますが、主君として優れておるかと言われると………」

「…すまぬな、言いづらいことを聞いてしまって。」

「いえいえ滅相もない!」

「ハハハ、しかし、そうか。やはり主君の器ではなかったか。」

 そう呟く各家の主達は、少し残念そうにしていた。





 そして、三木家の援軍が来てから話し合いが行われ、最終的に全ての準備は整った。

 我ら木曽家は、黒川殿の提案通りの配置となった。

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