第33話
「終わったな!行くぞオォォォ!」
「「「オォォォォォ!!!」」」
戦死者を埋めて陣僧が念仏を唱えた後、負傷兵の治療をして行軍を再開した。
「付知殿吉田殿、御無事でしたか。」
また最後尾にて歩き始めたところ、二人を見つけて声をかけた。
「ええ、なんとかですが。吉田殿の槍が素晴らしく、戦の中で見入ってしまいもうした。」
「ハッハッハ。お褒めいただき光栄ですな。」
「あ、そういえば吉田殿。中曽根の首は?」
「……あ…………」
「?」
「いやぁ、良き武士がおりましてな、劣勢と相成りましたゆえ、首の変換で命拾いいたしました。」
「………まぁ、吉田殿の命と比べたら軽いですな。」
「ホッホッ、嬉しきことを言ってくれまするなぁ。」
援軍でもらえる褒賞なんて、たかがしれてるしな。
「付知殿、この先は?」
「この先は長良川を越えたのち、鷺山城に向かうこととなるでしょう。」
「ふむ、渡河中に襲われることは?」
「……ないとは思いまするが、警戒は必要でしょうな。この少し先に橋がありますので、そこで川を越えましょう。」
「なるほど。」
と、話していたが問題なく渡河することが出来た。そのまま鷺山城へと向かい、城に入城する。
土岐美濃守様とも面会し、礼を述べられた。
うん、そんだけ。
まぁそんなことは良いんだ。現在土岐次郎殿とは川を挟んだ睨み合いがそろそろ終わりそうとのこと。
土岐次郎殿がしびれを切らし、攻め入ろうとして、守護代の斎藤に止められているという情報があったそうだ。
我々木曽家は鷺山城の援護するため、遠山部隊と共に近くの土井城に詰めて、城主である土井駿河守の麾下に入る。土井城は鷺山城のすぐ東に位置し、もっとも速く救援に向かえる。
西南にある北方城に安藤家、伊賀家、竹中家。
鷺山城には土岐美濃守様、土岐四郎様、斎藤豊後守殿、長井家、西村家、明智家、日根野家。
敵としているのは土岐次郎、斎藤彦四郎、斎藤新四郎(利良)、竹腰家、日比野家、不破家……とか。
そんないっぱい覚えられません。まぁでも、前世の記憶らしき所で、なんか聞いたことあるなぁーって感じ。知らないのに既視感があって違和感だ。
「疲れておるだろうが、集まってもらってすまぬな。」
土井駿河守殿が頭を下げる。
「構わぬよ、してなんぞあり申したか?」
国蔵殿が宥めるように話す。
この場にはその二人に加えて、各遠山家の主と木曽家代表の俺と黒川殿がいる。最初は俺のみだったけど、流石に心細かった。
「うむ、貴殿らが行軍中に入ってきた情報を共有しようと思うてな。三日後、三木家の援軍が来ることとなった。」
「おぉ、では攻めるのですかな?」
安木遠山家の当主、遠山梅之丞殿が鼻息荒く尋ねる。
「それはまだ決まっておらぬ。数でも我らが圧倒しておるゆえ、負けることはないであろうが………」
「竹腰家の居城である竹ヶ鼻城ですな?」
ポツリと黒川殿が呟いた。
「うむ、ご明察であるな黒川殿。竹ヶ鼻城は木曽川と長良川に挟まれており、攻めるのは難しくなるでしょう。それに我らから見て稲葉山城の後ろにあるゆえ、稲葉山城を陥落させたとしても、土岐次郎様に逃げられて、詰城として籠城されるであろう。
そうなったらば、戦いは長期となる。それだけは避けたいのだ。」
土井殿の肯定に、各遠山家当主が感嘆の声を漏らした。
俺からしたらなんで知ってるのかはてなしか浮かばないんだが、黒川殿ってもしかして配下に忍でもいる?
「無理筋ではあるが、攻めるなれば稲葉山城を落とす前に次郎様を捕縛するべきですな。」
明知遠山家当主、遠山矢武殿が顎のひげを手でさすりながら話す。
「うむ、しかし稲葉山城は堅固だ。暗殺はおろか、調略も難しいであろう。」
「「「「「うぅ~む………」」」」」
場に沈黙が流れる。敵を崩す後一手が足りない。
「一つ、私に妙案が。」
「誠か!?なんでも良い、述べてくれ!」
黒川殿の言葉に土井殿がとても嬉しそうだ。
「我ら木曽家が、次郎様に通じたいと嘘の情報を流すのです。」
「む、どうやって?」
ふむふむ?
「それは私の配下が。そして、それを信じきったところでこの、風波を送るのです。」
…………ん?ナンダッテ?
「ふむ?」
土井殿は続きを促すように頷く。
「風波であるなら、公方様が認めた琵琶の腕を持っておりまする。私が考えまするに、あちらの懐に入るのは容易かと。」
「確かに、成功すればかなり有利となるであろう。しかし、風波殿は構わないのか?失敗すればその場で殺されるやもしれぬが。それに、そうではなかったとしても、人質となるかもしれぬ。そんな時、我らは助けることはでかねまする。」
土井殿がきっぱりと言い切った。
「某は──」
「えぇ、構いませぬとも。その程度で死ぬような器ではありませぬよ、風波殿は。」
言いかけた所で黒川殿に遮られた。
まぁ、戦で指揮を押し付けたツケが回ってきたと思うしかないだろう。
ここまで、期待されているならなおのことだ。
「それより黒川殿。某の琵琶を持ってきているのですか?」
「もちろん、援軍と言っても内乱だからそこまで苛烈じゃないと見て暇潰しに弾いてもらおうと思ったのだが、まさかこういう使い方をするとはのぅ。」
黒川殿が荷物の中から俺の琵琶を取り出し、俺に渡してきた。
「勝手に持ってこないでくだされ………」
受け取って傷がないか取りあえず見る。
「いやぁ、宴席での余興にピッタリだと思い付いてしまっての。」
「全く、これより先からはちゃんと某にも教えてくだされ。」
「分かった分かった。」
一先ず傷は無かったから良いか。
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