第30話

「ま、まさか既に城を発っていたとは………」

 付知殿が我ら旭衆と歩を同じくして呟く。

「そうですなぁ。明智家は義に厚き御家なのですな。」

 話の話題は明智家が美濃守様の元へと向かっているということが伝令によって明らかになったことだ。

国蔵殿が大声で仰天していたことで、全軍に知れ渡った。

「えぇ。しかし、問題は長山城のすぐ近くにある顔戸城ですな。齋藤家臣の中曽根家が詰めておりまする。我らが通過する際に、長山城の兵士に顔戸城を抑えてもらえれば良かったのですが、こうなっては後ろから顔戸城の兵士達に追い立てられることは間違いないでしょうなぁ。」

 付知殿、不安なのは分かるがよく喋るなぁ。

「しかし、ここで二の足を踏んでいては我らの来た意味がありませぬ。もし中曽根が打って出たとしても、敵方の戦力を削るつもりで進むべきかと。」

「おぉ!なるほど!これはまさしく目から鱗ですな!国蔵様に伝えて来まする!」


 ちゃんと伝わったようで、歩が進む。


「いや風波殿、誠にありがたく。某はこれより木曽家に付き添います故、後ろの警戒を同じくさせていただきたく。」

 馬に乗り、武装した付知殿達がやってきた。

「承知した。」

 付知殿ら十五騎が我ら旭衆に加わった。


「もうすぐ顔戸城を越えるぞぉ!皆気を引き締めろぉ!」

「「「「「おぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 国蔵殿の言葉に、約八百の兵士が声を上げ、兜の紐を確認する。






 それは突然やってきた。

 後方より聞こえた鬨の声が我らの足を止めた。

「付知殿!」

「風波殿!あちらは顔戸城方面……来ますぞ!」

「承知。旭衆よ!参るぞ!

 土岐家の者達に、木曽家の武勇見せる時は今ぞ!」

「「「おぉ!」」」


 付知殿の補足により、あの旗は中曽根家で間違いないとのこと。見たところ、敵方は五百と言ったところか。

 我らが左翼の端、そこから安木遠山家、苗木遠山家、右翼に明知遠山家と並ぶ。慎重に対処すれば問題なく撃退出来るだろう。


「焦るな!斉射───ってぇぇぇぇ!!!」

 国蔵殿の号令に、弓兵の牽制を含めた一斉射撃を繰り出す。

 俺も馬上から旭衆の弓兵と並んで引き絞る。

 しかし、敵方は怯むこと無く突撃をしてくる。

「弓をしまえぇい!槍を持って、敵に備えよ!」

「「「おぉぉぉ!」」」

 

「齋藤殿!十を連れて撹乱を!吉田殿は十五を連れて齋藤殿の援護を!黒川殿は某と共に迎撃を!」

「任せよ!」

「やれやれ、一番難しいではないか……やりがいを感じるのぉ!」

「うむ、様になっておるな!」

 三者三様の応えにより、敵方に向き直る。


 敵は数的不利を補うようにいくつかのグループを作り、弾丸のようにこちらに突っ込んでは離れるヒットアンドアウェイを繰り返す。

 しかし、こちらも負けじと層を厚くし、確実に敵兵を討ち取ってゆく。だが、見慣れぬ戦法に不意を突かれる兵士も少なくない。

「齋藤殿!吉田殿!」

 俺の声に反応し意図を掴んだのか、一度離脱し、中曽根軍の土手っ腹を抉るように突撃した。

 それを見た右翼の明知遠山家もそれに倣うように敵に風穴を開けた。


 その行動により敵は少し乱れるもすぐ建て直すと、今度は中曽根軍が横に広がり、塞ぐように布陣した。

 そこからは中曽根軍が長槍と弓による遠距離攻撃を開始した。

 速く進みたくば進むがよい。我らに狙われるのが気にならないのならな……とでも言わんばかりだ。

「舐めおるわい。」

 黒川殿の発言に呼応したかのように、国蔵殿のかかれの声が聞こえた。


 

「埒が明きませぬな!これは!」

 倉川が手こずる用に槍を振るうも、三人がかりで受け止められ、弓矢で狙われる始末。

 今の、鎧がなければ深々と矢が刺さっていたことだろう。罪滅ぼしのつもりなのかかなり突出しているが、フォローするの俺なんだよなぁ。

 倉川は身体能力がかなり高く、普通の兵士では置いていかれて敵の餌食になってしまうのだ。

 ………ていうか、義風に乗った俺と同速とかこいつイカれてんだろ。

「しかし、これでは敵方はどんどん数を減らすばかり………」

 しかし、懐に入ればあっさり瓦解し、後ろに退く。

「何か考えがあるのやも……?」

 黒川殿の疑問に付知殿が重ねるように投げ掛けた。

 確かに俺も何かが引っ掛かる。


 そう思った矢先、後方から鬨の声が上がった。

 それに反応するように前方からも声がした。

 後方を確認すると、中曽根軍よりやや多いぐらいの軍勢。

「な!?あれは……羽崎!

 風波殿!敵でござりまする!」

 くっ……挟まれたか………

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