第29話
一先ず美濃を目指し、情報を獲得するために苗木城に向かって苗木遠山氏と連携をとることが大前提だ。この地は同盟によって小笠原家が土岐家に返還した土地でもある。それにより連絡事態は密に行っていたため、我らの味方であることは確定している。
そしてすぐ近くの岩村城にいる岩村遠山氏は敵である守護代齋藤家の配下であるため、まずはここを突破するしかない。
「失礼!某は木曽家より参った援軍を率いる風波と申すものである!土岐美濃守様の要請により参った!」
息を吸って堂々と、相手を威嚇するつもりで声を発した。
「しばし、待たれよ!」
苗木城に向かうと、門前で止められ待機となった。
「いやぁ、この年となると腰にきますなぁ。」
吉田殿が参った参ったとぼやく。
「ですなぁ、某も肩が上がらなくなってきましたわい。そろそろ、隠居して息子に領地を任せることを考えるべきでしょうか。」
齋藤殿が槍で身体を支えつつ話を振る。
「ハッハッハッ、お二人は未だ現役。弾正小弼様はさぞこき使うでしょうなぁ。」
黒川殿が励ますように笑う。
「それは、三郎殿がそのように弾正小弼様を指導したからでしょう?」
「「「ワッハッハッハッハッ!」」」
お三方が愉快そうに笑い、他の兵士達も釣られて笑顔になる。
俺は真顔だけどね。だって、心情的に未だに困惑が抜けないんだもの。そんな、なんとなく居づらい気持ちを紛らわすために梅干しをかじった。
「門前ですみませぬ!」
ようやく来たと思ったら、火急のことのためこの場で許して欲しいと苗木城城主の遠山国蔵が頭を下げてきた。
「構いませぬよ、それで?」
そんな国蔵殿を宥めつつ話を促した。
「ありがたく。まず、隣の岩村城には遠山左衛門尉が治めており、兵は四百程。
我ら苗木遠山衆は三百ですので、かなり厳しくなるかと…………」
我らの兵数は六十三。こちらが攻城側ということもあり、かなり厳しくなりそうだ。さらに兵数も劣っている。
「ですが、やらねばならぬでしょう。齋藤の本拠は遥かに遠き稲葉山城。無理を通してでもやるしかないのです。」
「ですな。四郎様は長良川を挟んですぐの鷺山城におりますゆえ、急ぐべきでしょう。
我らが先導しますゆえ、ついてきてくだされ。」
「承知した。」
街道から山道に移ろうとした時、前から何者かが走ってくるのが見えた。
「伝令か?」
その伝令が国蔵殿に近付き、国蔵殿が我らの方に向かってきた。
「風波殿、こちらを。」
渡された書状を確認すると、岩村遠山氏は今回の家督争いに関与しないという旨の書状だった。
松尾小笠原家と木曽家に侵略され、領地を失ったのは我らの落ち度であり、そんな中領地の返還に合意してくれたことをとても感謝している。
我らは齋藤様に仕えているが、返還されなければそもそも齋藤家に力を貸すこともできなかった。それゆえ、此度は領地が不安定とし出仕不可と伝えている。
とのことだった。
それにより、そのまま街道を走りつつ二日程かけて安木遠山氏、明知遠山氏と合流する。
「止まれぇぇ!」
連合遠山氏の大将になった遠山国蔵殿が号令を発した。
一体どうしたんだろうか。
すると、前方から苗木遠山家の付知益美殿がやってきた。
「これは付知殿。」
「お疲れではないでしょうか?」
「なぁに、山と共に生きる我らにこの程度、造作もないことですな。」
片足をひょいと上げ、丈夫さをアピールした。
「それは頼もしい。
現在、明智家が有している目前まで来たのですが、明智家は未だ旗色を鮮明にしておらんのです。ですから一先ず長山城に使者を出しておるところでしてな。」
付知殿がその長山城の方向に目を向けつつ話してくれた。
「なるほど、そういうことでしたか。
付知殿はどのように見まするか?」
「……明智兵庫頭殿は齋藤家の重臣、長井藤左衛門尉の元で頭角を現している西村勘九郎と少し前より繋ぎを持っておると聞いたことがありますゆえ、恐らくは………」
「そうでしたか。」
ここらで戦か……
「うむ?………あぁ、紛らわしいことを言ってすみませぬ。長井家は齋藤家の重臣ではありまするが、小守護代として美濃守様と共に四郎様を推していまする。」
「な、なるほど。早とちりをしてしまいました。」
そうか……戦がないとは限らないが、安心はした。
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