第28話
木曽の内乱は首謀者である倉川初吉の斬首刑により恙無く終わった。幸い被害も最小で、俺達は安堵の息を吐いた。
しかし、此度の反乱で使った武具や兵士は元々松尾小笠原家に完全な伊那郡を統治してもらうために援軍として用意していたものであったため、伊那郡攻略に若干の遅れが出てしまったのは場合によっては痛手となるだろう。
「フゥー、一時は焦ったものよ。」
「ですなぁ。」
戦のゴタゴタが片付いたわけではないが、一段落はついたため、俺と弾正小弼様が畳の上でだらけるように腰を落とした。
「幸吉、旭衆の戦備は如何であるか?」
一丸が出してくれた茶を一口含んで尋ねてきた。
「……予定より二月程いただけるのであれば。」
腰から漬けておいた梅干しをかじりつつ喋った。
「そうか、うむ。なればその通りにと松尾小笠原家に伝えるとしよう。」
弾正小弼様が立ち上がって机に向き合い、筆と紙を取り出した。
「そうですな。」
「あぁ、それと土岐家にも詫びを入れねばならんなぁ。」
弾正小弼様が直筆で書を認めつつ、思い出したように呟いた。
「確かに、小川の行動を見て多少警戒はしたでしょうな。」
隣接とはいかないが、不穏な気配というものは案外気付きやすいものである。
「うむ……面倒だが、流石に詫びの文を直筆ではないとなると、不味いであろうか?」
弾正小弼様が腕を組んでうんうん、と悩み始めた。
「いや、知りませぬよ。某にそのような知識があるとでも?」
二人ということもあって少し馴れ馴れしくしすぎたかと内心焦ったが、弾正小弼様は気にする素振りもなく会話を続けた。
「まぁ…そうであるな。」
弾正小弼様は申し訳ないといった面持ちで手を動かし始めた。
「失礼いたします!」
談笑する穏やかな時間はとある言葉により失われた。
「如何した!?」
「土岐家にて家督争いが起こりもうした!」
「何!?」
また戦ぁ?この時期後継者争い多すぎだって………皆家族なんだから仲良くしようよ……
「長男の次郎様が元服してまもなくで挙兵したと!
長男の次郎様と次男の四郎様を巡って家督争いのようでして、美濃守様は次男の四郎様を推しているとのこと!」
「……なれば、我らは次男の四郎様をお助けするか。しかし、なぜ我らに?」
「はっ!どうやら次郎様を守護代の齋藤家が推しているようなのですが、その齋藤家の手の者を捕らえた際に、木曽にいる小川という人物と連絡を密にとっていたことが明らかとなりました!
こちらがその密書でございます!」
伝令が即座に近付き、一丸が受け取って弾正小弼様に渡った。
あいつ、めっちゃ優秀じゃん。もう少し遅かったら敵が増えてたってことになるなぁ。……怖。
「……なるほど。隣国で反乱が起きたことに乗じて家督を奪おうとしたわけだな。しかし、我らはすでに鎮圧している。早々に向かい、美濃守殿の援軍に参るぞ!これ以上、領地の恥を広めるわけには行かぬ!
一丸はその者を使って報せを飛ばせ!」
「「はっ!」」
一丸と伝令が足早に駆けていく。
「土岐家援軍の大将は幸吉、お主に任せよう。」
「はっ……は?」
なんつった?
「それと……与川の倉川も連れて……」
「お、お待ちくだされ!」
俺が止めようと声をあげると、口を尖らせてとても不満そうにした後、澄ました顔で諭してきた。
「うだうだ言うでない。叔父上達を連れての初陣だ。援軍であるならばそこまで力むこともないであろう。」
いやいやいや………他家の前で生き恥晒したくないんですよぉ!
……ハァー、無理そうだなぁ。
「……く……承知。」
俺が頷くと満足そうに笑う。
「すまぬな、某は内乱での後始末がまだあるでの。なるべく、顔見知りが来てくれた方が土岐家も安心するであろう。」
正論言われてぐうの音も出ないや。
「そ、そうですな……拝命致しました!」
「うむ。倉川の方は幸吉に一任とする。」
なんか、面倒事押し付けられた気がするな。
……………気合入れるかぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます