第24話
ー倉川弥次郎左基宗ー
「今この時も!木曽谷が敵に攻撃されておる!我らも参戦し、木曽谷を守るぞ!」
某の言葉に民が沸く。声が地鳴りを起こす。
「敵は、忌々しくも木曽家の家紋の旗を背負っている!そんな偽物、断じて許してはならない!」
「「「「「おぉぉ!!!」」」」」
「これは我らの戦いだ!行くぞォー!」
「「「「「おぉーーーー!!!!!」」」」」
勇ましく声を上げる自分の心の奥底で、何かが軋み、磨り減るようにへこんでいく。
本当にこれで、良かったのだろうか?
「敵兵!須原より進軍中!」
伝令の言葉に周囲に緊張が走る。
「敵の旗は!?」
「九曜、木曽家です!」
「やはり、敵は木曽家を偽っているようだ!我らも応戦するぞぉ!」
俺の号令に太鼓が鳴り、木曽家本隊を横から奇襲する。
「む、そういえば、いつも伝令をしてくれたあの者は如何した?」
農民達が離れたあとに尋ねる。
「は………小川様が斬り捨てておりました。」
「なんと!?それは真か!?」
「某が、彼の者を処分いたしました故。」
某はその場に胡座をかいて頭に手を当てながら座った。
「なぜだ………?なぜ有用な者を…………」
「汚れた者はいらぬとの思し召しだとか。」
「それは、出生ということか?」
「そうかもしれませぬ。」
…………なれば、某も汚れた者に入るのではないか?あの時の、某の手を引っ張ってくれた小川様は…
渦巻く。怒りと困惑が胸を埋める。
「すまぬ……某の代わりに指揮を執ってくれ。少々疲れたようだ。」
「……承知しました。」
某は度数の高い酒を煽った。この疲れや震えは、戦前の武者震いだと。自分に言い聞かせるように。
ー野尻万次郎家時ー
その報せは突然のことだった。
「何?三留野と柿其が一揆!?」
「はっ!まもなく野尻に侵入するとのこと!」
「くっ……!伯父上は!?」
「野路里様は御屋形様に連絡を取りつつ、我らの背後を守るとのこと!」
「なればよし!伯父上が後ろにいるならば、それ以上に心強いことはないぞ!
支度をせえ!出撃じゃー!」
「ははっ!」
「なかなか数がおるようだな。」
山の高地から一揆の集団を遠目で確認した。
「ですなぁ。若、怖いですかな?」
博役である広小路がズイッと顔を近付けてきた。
「何を言う、爺よ。我は初陣で首を二つも取ったのだぞ!怖いのなどあろうものか!」
山賊であっても首は首。此度も勝ってみせる!
「その意気でございます。しかし、今回は将としての勉強ですので、前には出ないでくだされ。その他細かきことはこの爺の動きを見て覚えてくだされ。」
「相変わらず、爺は厳しいのぅ。教えてくれても良いではないか。」
「それでは若の成長には繋がりませぬ。それは爺の望むことではないゆえ。」
「それと、しれっと若と呼ぶでない。」
「それはすみませぬ、若。」
「っ!………まぁ良い!実力で認めさせてやるわ!」
「良きお考えです。」
「陣を変えよ!鶴翼で向かえ!」
太鼓を打ち鳴らし、馬上で指揮を出す。
矢を放ち、向かってくる農民を迎え撃つ。もちろん、殺さぬように出来ればどれだけ良いか。そう思いながら、敵を囲うように攻めていく。
「良いですな。皆、良く動いてくれておる。」
「あぁ、それと、敵を包囲する時は一つ間を開けておくのだったな?」
「はい、農民は熱に当てられただけで、志が薄き者もおりまする。一人また一人と、追い詰められればその間から逃げることでしょう。素晴らしき判断です。」
「なに、父上の戦術書に書いてあったことを実践したのみよ。」
「そうでしたか………。」
「おかしいですな………」
「どうした?爺よ。」
「相手方が逃げませぬ。ここらで逃げても良き頃合いと思うのですが………」
その時、後方から鬨の声が上がった。
「な!?伏兵か!若!御逃げくだされ!」
「だ、だが……!」
「ここは爺にお任せを!お主ら、若についてこの場を離れよ!」
爺は周りにいた兵士に声をかけると、某を半ば強引に運んでいく。
「爺!死ぬでないぞ!」
「もちろんでございます。」
ー広小路雲有斉ー
若は無事逃げられただろうか………
そんな不安が頭に過る。
「フン!野尻の兵らよ!こやつらはただの農民ではない!雇われた武士である!一切の遠慮なく潰せぇ!」
最初に違和感を持ったのは武器。端から見たらただの農具であるが、よくよく見ると、トドメを刺す瞬間に農具が分離し、柄から鋭利な刃があるとハッキリと分かる。
そして、戦術においても強硬に逃げぬ姿勢や立ち回り。とても農民とは思えぬ。
ワシは馬を操り、敵兵の只中に降り立った。
「名が欲しくば我を見よ!我は野尻家家老、広小路雲有斉にして、猛将倉野の兄である!
我が武勇、越えられる者はかかってくるが良い!我が首は高い値がつくぞ!」
ワシの言葉に誘われた者が数十。少し経てば更に来るであろう。
「温いわぁ!我を舐めてかかれば死ぬと思え!」
約五尺の大槍を振り回し、先の数十の首をはね飛ばす。
愛馬の木月と共に敵の中心に入り、片っ端から槍を振るう。そうすることで、敵の伏兵を悉く潰し、元いた一揆の方にも向かった。
そうしていくと、一揆の集団の後ろの方にいた者達が次第に逃げ始め、残ったのは四十程であった。
「貴様ら、誰に雇われた。」
「へへ!ぺっ!」
頭領らしき男は笑った後に唾を飛ばした。
「やれぇい!」
袋の鼠となった四十の敵を、野尻の兵士達の槍で囲って全滅させた。
殺した中に農民がいないことを願うばかりだの。
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