第18話
永正5年(1508年)3月
ー足利義澄ー
「な、なに!?義材が大内を連れて上洛してくるだと!?それは真なのであろうな!?」
配下の進言に周囲がざわめく。
「はっ!間違いなく、真実であると進言いたします!」
「んぐぐぐ………追放された分際で現将軍である我に歯向かうとは………!」
怒りで持っていた扇子が折れる。
「現在、細川家は内訌により頼れませぬ!如何いたしましょう?」
「大事な時に使えん奴らよ!それで?今出川はどこまで来ている!」
「今出川………?」
「義材のことじゃ馬鹿者!」
折れた扇子をそやつの頭に投げつける。
「こ、これは失礼を!
情報によれば播磨を通過しているとのこと!」
「すぐそこではないか!なぜもっと早く言わんのだ!
フゥー……して、この状況への打開案のあるものは構わず進言せよ。」
周囲を見渡しても視線を逸らすものが大半……か。
「よろしいでしょうか?」
「言うてみよ。」
すぐ近くにいた者が身体を前に出した。
「内訌しているとは言っても細川です。我らが命を出せば従うと思われ………」
「大馬鹿者!!!」
「ひぃ…」
「相手はあの大内ぞ!細川程度で勝てるわけがなかろう!」
ここまで戦力差が頭に無いとは…………!使えぬもの達ばかりだ!
「他には!」
「それでは某が。」
少し遠く、隙間から見える程度の距離の者が進言する。
「申せ。」
「不服ですが、京を脱するべきかと。」
「我に、敵に背を見せよと申すか?」
「辛抱していただくほかありませぬ。」
「………そなたの忠節をもってその言葉を不問とする。」
「それでは!」
「若狭の武田を頼ろう。彼奴は反大内を掲げておるからの。」
「お待ちくだされ!」
「なんじゃ!」
「武田家よりも、頼りになる者に心当たりがございます!」
「ほう?どこであるか、申してみよ。」
「近江にいらっしゃる六角家を頼るべきです!武田とは比にもならないほどの武力をお持ちです!それに家督は譲ったとしても前当主の影響力は残っていましょう!義澄様が偏諱を授けた大膳大夫殿の元へと行くべきです!」
ふむ、確かに武田ではちと心許ないか………
「そなたの言、実に的を射ていた。今は高頼を頼るぞよ。さぁ、支度をせよ!」
「「は!」」
「付き従う者はこれだけか………」
「は!気取られることなく逃げるのであればこれでよろしいかと。」
「そういえば、六角家を推したお主、名をなんと申したか。」
「これは失礼を。某は望月三郎と申します。」
「そうか、覚えておこう。
目指すは近江、行くぞぉー!」
「確か……義澄様!あちらが六角家臣の九里という家が有している水茎岡山城でございます。」
「うむ、書状は既に手配しておるな?」
「は!受け入れ可能であれば城の門に赤旗を掲げるよう指示を出しております!」
「ほう。そなた、見えるか確認せよ。」
「は!……………ありました!赤旗、風に揺らめいております!」
「ほほう!でかしたぞ!九里とやら。城に入り次第誉めてやらなければな。さ、ここまでくれば一先ず安心じゃろう。ゆるりと参ろうぞ。」
「おい!開けぬか!」
「誰だぁー!」
「我は将軍足利義澄である!門を開けよ!」
「承知したー!」
この我を待たせるとは………兵士の教育がなっていないようだな!
「入られよー!」
「チッ……出迎えもないではないか………」
馬を操り城に入ると同時に門が閉まった。
「な!?」
「あ、危ないではないか!余程我を舐めていると見たぞ!」
しかし反応がない。
「?」
「「うおぉぉぉぉぉー!!!!!」」
「な!?なん……」
突如として現れた数十の人影により、我の前にいた配下達がその命を散らした。
「は?……なにが…………
えぇい!高頼め………恩を仇で返すとは………!おい望月とやら!我の盾となれ!この場を逃げるぞ!」
そう言って振り返ると、既に望月某はいなかった。
「御命頂戴!」
「あやつ……!さては逃げ……ぁ…………」
「足利義澄、黒川村の祐彦が討ち取ったり!」
1508年3月18日足利義澄 死去
死因 京を脱した際に山中で盗賊に遭遇し斬殺
六角家と同盟を結ぶために訪れていた木曽家
兵士が六角家に任じられた盗賊討伐の際に発
見。既に事切れていたそうだ。
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