第16話
「ふわああぁぁぁ………………」
畳の上で目が覚めた。
少し凝った身体を解すように動かして周囲を見渡す。西野殿や馬場殿等、その他皆様方がイビキをかいて寝ている。
「うわぁ………」
声がした方を見てみると、千代若殿があんぐりと口を開けていた。
「おはようございまする、千代若殿。」
「あぁ、おはようございます、幸吉兄上。」
いつの間にか千代若殿にも兄と呼ばれるようになったが、悪い気はしない。俺も様付けは嫌だと言われたから殿付けとなった。
「どうしたのだ?」
「いえ……昨日のお話を聞かせてもらいたくて来たのですが………」
千代若殿はまだ元服していないということもあって、早々に寝所に連れていかれていた。昨日はこの場に来ていただいた方々全てに木曽国や前将軍の件を弾正小弼様が話した時、千代若殿も他の方々同様目を輝かせていた。
そうして、喜びを表現しようとした途端に連れてかれたのだ。心の中で消化不良なのだろう。
「なれば、某が女衆を呼んできます。千代若殿は皆様を起こしてくだされ。」
「分かった!任せて!」
障子を開け、廊下を歩いていても足元がふらつかない。俺は酒に強いのかもしれん。
そう思っていると、前から器用に早歩きをしている影が目に入った。
「あ、風波様。」
「ん?祐彦ではないか。どうした?」
「弾正小弼様並びに黒川様、古畑様、上松様がお呼びです。」
「ふむ?なんだろうか?」
「まぁ……酒が抜けぬようでしたので、私が木曽国が成立した時のための政策などを考えてみては如何?と進言した次第。」
「なるほど。なれば、祐彦。某の代わりに女衆を呼んで、広間の方々を起こしてくれ。
………くれぐれも、丁重にな。」
「承知。」
不安だ…………
「風波、参上いたしました。」
「入れ。」
黒川様の返事を聞き、障子を開けた。
「やはり寺社と協力して年貢を回収しよう。」
「しかし、今年も不作でしょう。そこで木を伐採する者と土地を開墾する者を作るのはどうでしょう?」
「しかし……そうすると木はどんどん減っていくが?」
「伐採は我らの手の者しか許可を出さないようにすればよろしいのでは?」
「そうだな!では年貢の量であるが……今のままだと大差ないし、いっそ、農民達の取得を増やすか。」
「うぅーむ、それでやっていけるのでしょうか?」
「最悪、木と馬で凌げはする。その間に対策を考えることになるだろう。だが、農民の取得を増やしつつ、自ら開墾した土地を与えると触れ回れば、それなりに人手が集まるのではないか?」
「なるほど!それは良き案ですな!」
「後は関税ですな。通行料も安くいたしますか?」
「そうだな。利用者はい………たとしても、東海道には及ぶまい。敢えて料金を最低限にして差別化するのもありであろう。」
「あの道の利用者なぞ、食いっぱぐれた老女を捨てる者ばかりだがな。」
「上松殿………」
「仕方ないではないか!………正直、他国の者が使うには木曽街道は厳しすぎる。」
「しかし、整備するにしても難しきことよ。」
「我らが警備をすれば良いのだろうか?しかし、そのようなことをして意味があるのか?」
「……まぁ、それは今度で良かろう。それより、関税は形式的に最低限で異論はないな?」
「本音を言えば撤廃したいですが、地方の領主は不満を募らせるであろうなぁ。」
「それに、完全に撤廃となれば不埒者が出るであろう。我らも延々の山を見張ることは出来ませぬ。」
「撤廃についてだが、真っ先に反抗する者が目に浮かぶわ。」
「ほう?一体誰の姿かな?」
「もしかしたら全員同じものかもしれませぬぞ?」
「……せーの!」
「「「奈良井!」」」
ハモったことで、三名がハイタッチをした。
三名の話し合いを黒川様が素早く書き連ねていく。
俺には話の半分も理解できなかったが。いや、理解は出来ていた。しかし、最後ので全て持っていかれた。
「お?幸吉、来たなら言うが良い。」
弾正小弼様がこちらに気づいて声をかけてきた。
「は!
して、お呼びのご用件とは?」
「うむ。前に防衛を中心と言ったが、大内家は我らに戦働きを期待しているようだ。そこで、自身の言葉を裏返すようで心苦しいが、もし、他国に出兵する時もすぐに打って出られるような部隊を作って欲しい。」
知識では常備軍と呼ばれるものだろうか。
まぁ、便利ではありそうだ。
「なるほど。では、あぶれた者達を選定し、性根毎鍛えれば宜しいですか?」
「あぁ、そうしてくれ。手足のように動かせるとなお良いぞ。」
「は。」
祐彦とか欲しいが、それは黒川様が許してくれないだろう。半助……はいいや。アイツはいらん。
「そうだ、呼び名が必要であるな。」
「そのまま戦衆でよろしいのでは?」
「幸吉殿、それでは風情が無さすぎです。」
上松殿に呆れられてしまった。
そうか………分かりやすさが一番だと思うのだが。
「………よし、願掛けも込めて、幸吉が率いる部隊を旭衆に命名する!」
「よ、よろしいので?」
俺でもこれが木曽義仲に由来するものだって分かるぞ。
「構わん。そのかわり、全ての戦に勝ってもらうからなぁ。」
「一所懸命、勤めさせていただきまする。」
「うむ。」
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