第9話

「皆準備は良いな?」

 二十人が一斉に頷く。

「よし…………………放て!」

 俺を含めた全員が、二十一本の火矢を放つ。特に戦術的に何かあるわけではない。ただ、人は火に対して意外と恐怖心があるものだ。

 火は地面の草木に移り、飛騨軍を照らしている。

「皆は言った通り矢をかけよ。俺が走り回って敵の食料を潰してくる!危険と思えば早々に逃げよ!

 良いな!」

「「「「おう!」」」」


 さぁ、ここからは花の慶次も真っ青な大舞台を目指してやるか!








ー三木修理亮重頼ー


 な、なんじゃ!?この騒ぎは!?

 雑魚寝から飛び起き辺りを見渡す。

「な!?なにが起きた!?誰ぞおらぬか!」

「修理亮様!一大事でございます!」

「そんなこと分かっておるわ!して何があったと申すのだ!」

「は!少し前に火矢が数十飛んできまして、慌てていたところ………」

「敵襲ぅぅ!!敵襲だあぁぁぁぁ!!!」

「ぬぅ!?」

 まさか奇襲を仕掛けてくるとは!欲を出さずに、山猿の砦に籠っておくべきだったか!

「ま、まさか木曽の山猿が!?修理亮様、お早く!」

「えぇい、山猿ごときにやられるワシではないわ!具足を取れ!直々に討滅してくれよぅ!」

「ははっ!」



「修理亮様!」

「どうした!?」

「敵は単身で乗り込んできたようです!」

「何!?他の敵は!?」

「他は木陰に隠れて矢を射ているようです!」

「チッ!舐められたものよ!井東と田淵に矢を射る臆病者を散らせるよう伝えよ!単身で来た愚か者には五平をぶつけるのだ!」








ー五平ー


「おい!そこのチビ猿!」

 おら達の陣で暴れまわるチビに声をかける。大恩ある三木様からのご命令だ。なんとしてでも、止めてやりゃー!

「あん?誰だ?」

「おらは三郷村の五平だ!」

「五平…五平……てめぇかぁ!?」

 名乗った途端、チビ猿は飛び出しておらの首を狙ってきた。

「んだぎゃ!?そなでやれると思わんこっきゃ!」

 こんにゃろー、チビのくせになんちゅー力じゃ!

「チッ!」

 チビ猿は持っていた槍を地面に突き刺すと、地面に落ちていた刀を両手に持って構えた。

「そいや!」

 おらが槍を振ると、剣を槍に沿わせて受け流し、もう片方で………

「終わりだ。」

「ぁぅ………」

 端から見りゃ、みっともねー最期だろうと、最期に武士と斬り合えるなんて、おらが武士になれた気分だにゃ。











ー三木修理亮重頼ー


「五平が負けたか。」

「は!」

 伸び代のある良き槍の使い手だったが……惜しいことをしたな。

「他に被害は?」

「は!死傷者十、食料は火と敵の剛槍により残りは望み薄でごさいまする!」

「くっ……!口惜しいが撤退じゃ。太鼓を鳴らせぇ!撤退の合図じゃぁー!」

 ワシが声を張り上げ、陣太鼓が辺りに鳴り響く。

「修理亮様!一大事でございます!」

「なんじゃ!」

「東より、西野が前進して来ます!急がねば追い付かれるやも!」

「なんじゃと!?急げ!陣太鼓をもっと速く鳴らすのじゃぁぁ!!」


「修理亮様!一大事で……」

「次から次に、今度はなん……じゃ……」

 目に入ったのは駆け込んできた伝令の胸に赤々とした槍が突き刺さっている所だった。

「見付けたぞ?しぃーげぇーよぉーりィー!!!」

 狼藉者は目を爛々と輝かせ、全身血塗れでワシに突撃してきた。

「修理亮様ぁ!」

「邪魔だぁ!!」

「がっ………!」

 近衛の一人が一振で絶命した。他の者はその勢いに押し負け、踏み出すことに躊躇する。

「おのれぇ!名も名乗らぬ無粋な奴に世の道理を教えてやれぇい!」

 ワシの檄にも少し反応するのみ。かくなるうえは、ワシ自ら………!

「構えたな?なれば死ね!」

 それは速すぎる槍の一閃。中途半端に構えた槍ごとワシの首が斬られた。

 そうでなければおかしいであろう?自分の足と斬られた筈の槍の穂先が目の前にあるなど………

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