第二十三話

「いいことを思いつきました!」


 ようへいが朝からなにやらテンションが高い。


 たけあきは朝食も摂らずにアレリの引っ越しの手伝いに行ってしまっている。しかしドローンからの映像を見ると、いちゃいちゃしてばかりいて一向に作業は進んでいないようだ。あの様子だと戻ってくるのは夕方以降になるだろう。


 荷馬車も借りてるんだからさっさと済ませて帰ってこいよ。御者のポールとワットも呆れて苦笑いしていた。


「で、なにを思いついたんだ?」

おおうち先輩はボクのことをやれ厨二病患者だの二次元オタクだのとバカにしますが」


「バカにしてるわけじゃないぞ。天才しもとり洋平を尊敬すらしている」

「口ではなんとでも言えますからね。しかしそれならばとボクは考えました!」

「ほう、聞こうじゃないか」


で取り寄せるんですよ!」

「ん? 物質転送装置で? なにを?」


「彼女ですよ、彼女!」

「なるほど、彼女ねえ……って、はぁ!?」


「ボク見つけちゃったんです。兵士()の中に衛生兵という項目があって、そこに女医とかナースとかがあったんですよ!!」

「ちょっと待て、お前生きている人間以外を彼女にしようってのか?」


「はい! 先輩が前に取り寄せたアデルバートですが、すっごいイケメンだったじゃないですか」

「ま、まあ確かに」


「ということはですよ、女性ならかなりの美人を期待出来ると思いませんか?」

「しかし頭の上に輪っかが浮いてたぞ」


「そんなことは気にしません。生きている人間と違って劣化しないことが重要なんです。ほら、二次元キャラと同じでしょ?」

「いや待て。子供はどうするんだよ?」


「別にボクは子供が欲しいとは思っていません。優秀なボクの遺伝子を受け継いだからといって、その子供も優秀とは限りませんし」

「サイテーだな、お前」


「可愛い子といちゃいちゃ出来ればいいんですよ。あんな風に」


 洋平が指さしたのは、モニターに映っている猛暁とアレリのバカップルだった。いつまでいちゃこらしてるんだよ。そういうのは誰も見ていないところでやれってんだ。向こうも見られているとは思ってないだろうけど。


「言葉でのコミュニケーションも出来ますし、女医とナースがいればいざボクらが病気やケガをした時に助かりません?」

「まあそれは確かに一理あるが……てか二人も取り寄せるのか!?」


「大河内先輩だってロイレンさんとブリアナさんの二人がいるじゃないですか」

「なんも言えん」

「ということで、まずは女医さんをポチッとな」


 の壁に埋め込まれた明るく虹色を発しているモニターに洋平が指先で触れると、物質転送装置がブーンという地鳴りのような音を発する。コの字型の奥の壁にある上下二列、計二十個のLEDが左上から右に向かっておよそ一秒間隔で点灯を始め、中心付近に青い光が徐々に明るさを増していった。


 そしてその青が白に変わるほどまばゆく輝いた後、白衣を着た女医が姿を現したのである。


 少々吊り目だがキツい感じはなく、薄らと微笑みを浮かべた艶やかな唇からは優しそうな雰囲気さえ漂っている。髪はダークブラウンでポニーテールを結んでおり、身長は160センチほどだろうか。大きく膨らんだ双丘とキュッと締まった腰がめちゃくちゃエロい。


「さてさて、次はナースをお取り寄せします。さらにポチッとな」


 次に現れたのはミニスカナース服に白いニーソを履いた、どこからどう見ても二次元ナイズされたナースだった。髪色はピンクで身長は小柄なロイレンたちと同じように見えるから150センチくらいだろう。しかし胸は爆乳と言えるほど大きい。


 濃緑の瞳が大きく丸顔の童顔なので、エロさと親しみやすさが同居している印象を受けた。


 二人の頭上にも天使のような輪っかが浮いている。


「どうです大河内先輩! 二人ともボクの好みにドストライクですよ!」

「あ、ああ、よかったな」


「はい! そうだ、大河内先輩も取り寄せたかったら言って下さい」

「い、いや……」

「じゃ二人はボクの部屋に行こうね」


 正直ちょっと心が動いたが、ロイレンとブリアナからないのような視線を受けてなんとか思いとどまることが出来た。童顔ナースの方にはそれほど食指は動かなかったがあの女医は反則だ。後でこっそり洋平に……絶対にロイレンとブリアナにバレるから考えないことにしよう。


 ところがしばらくして洋平が半べそをかきながら戻ってきた。


「どうしたんだ、洋平?」

「大河内先輩、聞いて下さいよぉ」

「聞いてやるから言ってみな」


「ボク、さっそく二人といちゃいちゃしようと思ったんですよ。そしたら……」


 ――少し前の洋平の部屋の様子――

「ボクが君たちのご主人様になるからよろしくね」

「はい、ご主人様」

「分っかりましたぁ!」


「えっと女医の君はアリスでナースの君はロッテね」

「はい」

「はーい!」


「それじゃまず服を脱いでみて」

「服を、ですか?」

「なんでー?」


「それはもちろん、君たちといちゃいちゃするために決まってるじゃないか」

「いちゃいちゃ?」

「んー、服を脱げばいいの?」

「そうだよ。さ、早く早く!」


 洋平は鼻息荒く二人を急かす。


「変なご主人様-。なにが楽しいんだろうね」

「あの、ご主人様、一つよろしいでしょうか?」

「うん、なに?」


「もしかしてご主人様は私たちと性行為をされようとお考えですか?」

「面と向かって言われるとさすがに照れるけど隠してもしょうがないからね。そのつもりだよ」


「ご主人様-、私たち、えっちは出来ないよー」

「は?」


「ロッテの申し上げた通りです。性器は造形されておりませんし類似行為も出来ません」

「な、なんですと!?」


「私たちの目的は医療行為だからねー」

「この容姿ですから、性行為が出来てしまうと目的が変わってしまいますので」


「そんなぁ……」

 ――少し前の洋平の部屋の様子終わり――


「はーっはっはっはっ! いーっひっひっひっ!」

「大河内先輩、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」


「旦那様、笑い方が変です」

「だってロイレンも聞いただろ?」

「ぶふっ! し、失礼しました」

「…………」


 ブリアナは声も出せないらしい。ただプルプル震えているだけだった。


「三人とも酷いよ」

「でも裸にはなれるんだろう? だったらオカズにすればいいじゃないか……オカズ……ぐふっ!」


「それも無理だって言われました」

「じゃ、脳内オカズだな」


「もー! ボクだってちゃんといちゃいちゃしたいんですよ!」


「ま、まーあれだ。安易に物質転送装置に頼ろうとしたお前がいけないんだ。ちゃんといちゃいちゃしたけりゃちゃんと彼女探せ」

「やっぱりそうなりますよね……」


「で、あの女医とナース、アリスとロッテだっけ? どうするんだ?」


「医務室に常駐してもらうことにしました」

「なら病気やケガでも安心だな」


「うー、ロイレンさんとブリアナさん、誰か紹介して下さい」

「「いません」」


「なっ!? 即答ですか!?」


「洋平よく考えろ。子供はいらない、生きている人間は劣化するから非生物でも構わないなんてヤツに、女の子を紹介してやろうって気になると思うか?」

「旦那様の仰る通りです」


しもとり様に紹介出来るような知り合いがいないのも本当ですが」

「うー……」


「お前も社屋に引きこもってばかりいないで、たまには外にでも行ってみな。もしかしたら運命の出会いがあるかも知れないぞ」


「そうですよね、分かりました! ならまずはドローンでめぼしい子を探すことにします。そして家を突き止めて観察、問題がなければ実際に声をかけようと思います!」


「おい洋平、それ」

「ストーカーですね」

「ストーカーです」

「ストーカーだぞ」


「もー! また三人して!」


 俺たちの天才は恋愛に関しては凡人以下ということが改めて分かった瞬間だった。

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