第十一話

 の転送元カテゴリにあった武器、弾薬、そして兵士(非生物)。俺はこれにかけてみることにした。なにをって狙撃の訓練だよ。


 ヒルス帝国の指揮官クラスを狙撃することは先の話し合いで決まった。用意するスナイパーライフルは日本の自衛隊で採用される予定だった射程約700メートルのM24だ。


 本当はもっと長射程で安全な距離からの狙撃をさせたかったが、それだと銃の重さが跳ね上がる上に命中精度も落ちると判断したのである。ただ、俺たちには狙撃の技術などない。


「それでこの兵士(非生物)の取り寄せですか」

「ソイツらにそのまま仕事させればいいんじゃね?」

たけあきの言うことはもっともだが、それでは俺たちが直接戦争に関わったことになる」


 本来なら俺たちはこの世界にとっての異物だ。いなければおそらくラビレイ王国はヒルス帝国に敗戦、滅亡していたことだろう。


 だが異物が混入したということはそれなりの理由があるはずと俺は考えた。神様の意思なのかなんなのかは分からないが、このまま座して死を待てというなら異世界に転移することなどなかっただろう。


「それにしても……」

「ご都合主義バンザイですね」

「だろう?」


 転送元カテゴリの兵士(非生物)はさらに細分化されており、陸軍兵、海軍兵、空軍兵があった。その陸軍兵の中にスナイパーがいたのである。


「狙撃任務の他に教官としての能力もある、ですか」

「こんなの見ちまうと、はるとしとしか言えねえわな」


 非生物とあるからどんなものが来るのかと少々不安だったが、実際に取り寄せてみるとどこからどう見ても人間の兵士だった。しかもかなりのイケメンである。説明書きによると言葉でのコミュニケーションが可能で水も飲まないし食事もしないそうだ。


 また、頭の上には天使のような輪っかがある。艶やかなキューティクルではなく浮いている輪っかだ。俺は彼をアデルバートと名づけた。


 それからおよそ一カ月半に渡り、アデルバートを教官としてロイレンとブリアナの狙撃訓練が行われた。元々身体能力が高かった彼女たちはその一カ月半で、700メートル先の使い捨てライターの頭の部分をほぼ百パーセントの確率で撃ち抜くまでになっていた。


 迷彩服にベレー帽、真っ黒なサングラスをかけたロイレンとブリアナはめちゃくちゃカッコいい。この二人が俺の嫁になりたがっていると思うと、だんだん行かせたくなくなってきてしまった。


 いかんいかん、もう決まったことだ。


「ついに完成しました!」

「おお! どれどれ!」


 ようへいが自慢げに見せたのは新型のドローンである。これが使えればロイレンとブリアナの安全性が飛躍的に向上するだろう。


「このドローンからの映像は二人のサングラスに映し出されます」

「邪魔にならないのか?」

「そんなヘマはしません!」


「ロイレン、ブリアナ、洋平はこう言ってるけど実際はどう?」

「「問題ありません」」


「もー、信じて下さいよぉ!」


「悪かったよ。あとあの機能も見たいな」

「任せて下さい!」


 新型ドローンの驚くべき機能。それは光学迷彩だった。近くにいてもかげろうのようにしか見えず、遠目からはほぼ発見が不可能なのだそうだ。しかも超静音設計らしい。


「おお! 確かに目の前にあるとなんとなく違和感はあるけど、これじゃ少し離れただけで見えなくなるだろうな。音も静かだ」


「大河内先輩、それだけじゃありませんよ。魔物や盗賊対策もバッチリです!」

「まさか兵装!?」

「いえ、テーザー銃です」


 テーザー銃とは電極を発射し、最大三十万ボルトの電圧で電気ショックを与えて相手を動けなくするものである。彼女たちならその隙があれば魔物を討伐したり盗賊を制圧することも可能だろう。ちなみに日本では輸入も販売も所持も違法となる代物だ。


 それと念のためロイレンとブリアナには護身用にサゥアーP365(拳銃)も携帯させることにした。最悪の事態を想定してだが、出来ればこの備えは使わずに済むことを願いたい。


「これでロイレンさんとブリアナさんの支援もバッチリですね!」


 ラビレイ王国の王都ファーガスから国境のボラント辺境伯領までは通常なら馬車で十日ほどかかる。しかしロイレンとブリアナは身体能力が高いので、半分の五日で到着することも可能だそうだ。


 もう忍者と呼んでもいいと思う。女の子だからくノ一か。なんだかエロい。


 加えて食糧は朝と夜の二回、物質転送装置で届けるので持参したり途中の町や村で調達したりする必要もない。五キロ弱の重さとはいえライフルにしても作戦開始直前に届ければ済む。つまりほぼ身一つで旅が出来るということだ。


「今回の作戦はラビレイ国王にも知らせていないから、当然ボラント辺境伯も知らない」

「「はい」」


「痕跡を残さないためにも極力町や村には寄らないでほしい。野営のためのテントなどは都度届ける」

「「はい」」


「魔物や盗賊は出来るだけやり過ごしてくれ」

「人が襲われていても、ですか?」


「その場合は被害者が自力で逃げられるようにドローンで支援する。二人は誰にも姿を見られない方がいい」

「分かりました。街道を進む際も人目を避けるように致します」


「頼む。毎日ポップコーンも届けるから」

「「ありがとうございます!!」」


 二人のポップコーン好きは全く衰えていない。それでも味変は必要だろうとキャラメル味のポップコーンを出したら、完全にそっちにはまってしまったほどだった。あれ、甘いし美味しいよね。


 そして旅立ちの日、ロイレンとブリアナはコットと呼ばれる濃緑のオーバーチュニックに細帯という出で立ちだった。どこからどう見ても普通の王都民と見分けがつかない。


 しかしそれも王都を出るまで。街道から人気が減ったら忍者のような動きやすい上衣と袴姿に変身だ。頭巾で顔も隠す。怪しさ大爆発でも、任務を優先するとこうなった。


「それでは旦那様」

「行って参ります」


「ああ、大業を成し遂げ、必ず帰ってこい」

「「ははっ!!」」


 二人は足音も立てず、霧が晴れるがごとくに旅立っていくのだった。

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