第2話

「な、何奴」

とやはり鏡の中から私の声が聞こえる。

普通は怖気付くのだろうが、

「こっちの台詞だ!」と言い返した。

「暗くてよう見えないが、貴様、私だな?」

と姿の見えない私に問われる。

「何を言ってるか」

と問いかける間もなく、「ここは何年だ」と聞いてきたので、考えた。考えていたと言うよりも忘れていた。

自分の年が重なるごとに年号も忘れていた。

「1558年か?」と、その間を掻い潜るように鏡が言った。

唖然とした。まさか、そんな返答が返ってくるとは。

待てと、スマートフォンを取り出し、1558年と検索した。するとどうだ。永禄元年、戦国時代だ。

「なんだそれは」とスマートフォンを疑問に思う鏡を交わすように「何が起きてるんだ?」と漏らす。

一旦整理をする。

今持っているこの鏡の中に1558年の私がいる。

それは意識なのか?存在なのか?

寝ぼけているのではないかと自分の頭を殴る。

「何を?!」と声を出す鏡。

「ここは2024年、令和6年」と言った。

れいわと覚束ない口振りで彼は言った。

私はスマートフォンの電卓を開き、2024から1558を引いた。

「あなたが生きていた時代から466年経った京都です」と私は言った。驚いた様子なのだろうか、何も言わずに京の都なのか、と呟いた。

「京の都は今でも」

何か言いたそうな口振りだが「いい街ですよ、歴史もあって、外国人も多くて」

「がい、こくじん?」

「あ、あなたたちで言うところのなんて言おう、船で他の国からやってくる人たち?」

ふむふむと理解していないであろう反応を伏し、

「名前は」と私は言った。

「糸井川佐之承」

長い名前だと困惑するが、名前が違うことに安心した。しかしだ。「貴様はなんと申す」と言われた。

「糸井守」

何かが違うがそこに糸井がいた。

これは現実なのか。本当なのか。

「椿はどこにおる?」と佐之承が言う。

え、と聞き返すと。慌てた様子で、

「椿、椿ー!」と言う。

「あの、糸井川さん。なんですか?椿、椿って」

少し沈黙を続けた後にこう続けた。

「わしが想うとった愛する女性じゃ」

へぇ、と漏らすとなんじゃそのと返してきた、

「それはもう美人で、美人で。煌びやかだ」

そう言う佐之承はとても生き生きとしていた。

「告白したの?」と聞くと告白とはと問われた。

「想い、告げられたの?」そう言うと佐之承は泣き始めた。

「わしは届かない存在じゃった。遊女屋で華を咲かせとった。わしは武士にもなれず、身分がなかった。

しかし、彼女は私に気にかけてくれた。

街で会うたびに私を。」

深いことは考えずに、それは呼び込みだよと言ったが、強くこう言い返してきた。

「違う。農民の出の私を如何なる時も気にかけて下さったのだ。あれほど綺麗なお方はいない。私はそこで約束をしたのじゃ」

約束?と問うと

「月見の日に必ず想いを告げに行くと」

月見の日というと十五夜。もう直ぐに迫っている。

しかし400年も前のことだ。

「私はまだ諦めていない。もしも椿が他の男のものになっていても構わん」

未練たらたらじゃんと声を漏らした。なんだ今の言葉はと言われた。

「とにかく、糸井川さんのことはよくわかりました。でもね、ただね、生きていないと思うんですよ」

いや、と佐之承は言う。

「どこかで生きているはず、きっとそうじゃ」

と強い言葉を漏らした。

「ここは京都のどこじゃ」と問われたので鴨川と返した。

鴨川、、と佐之承の呟く声が聞こえる。

それから衝撃の言葉を聞いた。

「わしはここで殺された。罪を被せられたのじゃ」

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雲外鏡セプテンバー 雛形 絢尊 @kensonhina

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