第10話 冒険者ギルドへ
「エリザさん!はい、お土産!」
「おいこれ、ナマモノじゃねぇか。腐ってないだろうな?」
赤身肉の入った木箱を開き、土産のブツを見せる俺。中身を見たエリザさんの表情が怪訝そうになる。
「さっきガレスウッドの入り口付近で狩ってきたばかりだから新鮮だよ!ちゃんと冷蔵魔術を使って鮮度も保ってるし、絶対美味しいから!」
「狩ってきたっておまえ……これ、何の肉?」
「エルドラゴン」
「……はぁ?」
また「なに言ってんだコイツ」みたいな表情で驚かれた。俺、そんなヘンなことばっか言ってるかなぁ。
「魔物ランクトリプルAのエルドラゴンが街の入り口付近にいただと?そしておまえはそれを狩り、食用に加工して土産として持ってきたと?」
「うん!」
「可愛い顔して飛び切りの冗談を言うのだな、ビエル。リベリアのばばぁに調教されすぎたんじゃないのか?」
「冗談じゃないですよ!ホントですからッ!」
「メスガキは黙ってな」
いや、ユーリちゃんのフォローは正しいんだけどな。このエリザとかいうおねぇさん、あまり人のこと信用しないタイプ?
「まぁ綺麗に処理された肉だし、温度管理も完璧そうだから腐ってることはなさそうだな。なんの肉かは知らんが、まぁありがとうな、ビエル。あとで一緒に食おう」
「あ、えっと。うん」
「お前を迎え入れる準備はもう出来ている。ばばぁの頼みだ。聞かないワケにはいかないものでな。おまえはここを拠点に冒険者をやっていいぞ。ただし……」
「ただし?」
「生活費は自分で稼げよ。見ての通り、私は売れない場末の錬金術師だ。金に余裕はない」
店のボロ具合から察しろと言っているみたいだ。泊めてくれるだけでもありがたいのだから、そこに俺が文句を言う筋合いはない。
食費なんて別にいらないしね。適当に森で魔獣狩って食えばいいだけだから。
それより、ユーリちゃんのこともお願いしなきゃだな。なんかメスガキとか言われてるから、たぶん無理そうではあるんだけど。
「あの、エリザさん!」
「なんだ?」
「ユーリちゃんも、ここに住ませてあげてほしいんだけど、ダメかな?」
「あ?」
めっちゃ睨まれた。やっぱ無理かぁ……。
「ちょっとビエルさん!なんで私がこんな廃墟みたいなところで寝泊まりしないといけないんですか!」
「おいメスガキ。廃墟は言いすぎだ」
「私に同情してそう言ってくれるのはありがたいんですけど、舐めないでください!宿のお金くらい、冒険者になって稼げば問題ないですから!心配無用です!」
良かれと思ってエリザさんにお願いしてみたけど、余計なお世話だったようだ。
「そっか。ユーリちゃんの経済的負担を少しでも減らしてあげられればと思ったんだけど」
「お気持ちだけ頂いておきます。それじゃ、私は先に冒険者ギルドへ行って……」
踵を返し、店を後にしようとしたユーリちゃんの動きが止まる。振り返る瞬間、何かに気付きハッとした様子だ。
「エリザさん。あの窓際に置いてある懐中時計って、もしかして……」
「ん?あれは魔術学院[ヘルボーガン]の魔術科を卒業した時にもらった記念品だが」
えっ?エリザさんって、魔術学院の卒業生だったんだ!でもやっぱ魔術科なんだね。改めて、なんで錬金術師やってるのか理由が気になってきた。落ち着いたら、一度聞いてみることにしよう。
「エリザさん!」
「今度はなんだ、メスガキ。とっとと冒険者ギルドへ行って……」
「私、実は基礎魔術を教えてくれる先生をずっと探していたんです!エリザさんお願いします!私を弟子にしてもらえませんか?」
「はぁ?」
魔術学院[ヘルボーガン]魔術科に入学するためには、学力試験と実技試験の2つに合格しなければならない。ユーリちゃんは学力はありそうだけど、実技面に難を抱えていそうなのはここに来るまでの道中で大体わかった。
彼女が合格率5割と自己査定してたのはその部分だろう。確かに、魔術科出身の卒業生が師匠になってくれるならそれほど心強いことはないと思う。
まあ、それは無理っぽいけど……
エリザさんが彼女を弟子にするビジョンは、今の段階では到底浮かばない。
「お、お願いします!!」
「……いいだろう。お前の師匠になってやる」
「え、マジで??」
思わず本音を声に出してつぶやいてしまうほど驚いた俺。あんだけ毛嫌いしてたのに、本当にいいのかよ!!
「ただし、条件がある。条件1、ここに住みこむこと、条件2、家事は全て1人で全部行う事。条件3、店を手伝う事。条件4、家賃は相場の二割増し、条件5……」
いや、いったい何個条件あるんですかね?それほぼ奴隷じゃないですか。いくらなんでもそんなあり得ない条件でユーリちゃんが承諾するわけが……
「望むところです!よろしくお願いします!」
うそやん。
「女に二言はないな?」
「ありません!」
「いい返事だ。虚勢かもしれんが、根性のあるメスガキは嫌いじゃないぞ」
「ありがとうございます!」
ねぇユーリちゃん。エリザさんのあの顔見なよ。目じりが垂れ下がってニヤニヤしまくってるよー。ものすごいうまくやってやった感出まくってるよー。絶対騙されてますよー。
「よし!それじゃあお前たちはとっととギルドに行って、冒険者登録して来い!今日だけ特別に私が夜飯を振舞ってやる!ビエルが持ってきたこの肉で歓迎会だ!準備して待ってるぞ!」
「はい!お心遣い感謝します、師匠!ビエルさん、すぐにギルドへ行きましょう!」
「えーっと……うん。ま、いっか」
そもそも俺がどうこう言う話じゃないな。明らかに勢いで決めさせらちゃった感が強いけど、本人が決めたことなんだし俺が口を挟む道理もない。なんだかんだ仲良くやってくれるなら、それで文句ないよ。
「それじゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
特になにか意識して発した訳ではないだろうけど、俺の胸は何故かその言葉に言いようのない温かみを感じていたのだった。
◇◇ ◆ ◇◇
ビエルとユーリがギルドへ向かった。
誰もいなくなった雑多な工房内。無惨に破壊された店の扉と鍵に目をやる。
その残骸を拾い上げ、眺めながら私、エリザ・バートレーは考え事をしていた。
「力だけを込めたワケじゃなさそうだな。わずかに魔力の残滓が残っている」
錬金術の店をひっそり切り盛りしているが、これでも私は魔術師としては特級クラスの端くれだ。一応、ヘルボーガンの魔術科もトップに近い成績で卒業している。なのでユーリの師匠は容易いこと。むしろ召使が出来てこちらとしては好都合だった。
と、いうのは表向きの話で。実は単純にユーリに興味があった。あの娘にはおそらく、とんでもない魔術の才能がある。私よりはるかに優れた、素晴らしい才能が。ただその開花にはおそらく時間がかかる。なので私が鬼鍛えてやろうと思っている。
「それにしても……」
ヤバいのはビエルだ。いくらリゼリアのばばあに鍛え上げられたとはいえ、アイツの実力は常軌を逸している。すでに次元の違う領域に達していると推察しても大袈裟ではないだろう。
「あの扉と鍵には、リゼリアのばばぁでも解除に難儀する、魔術と錬金術をミックスした超練度の封印術を仕込んでいたのだがな。それをこうも易々と破壊されるとは……。ビエル、お前は一体何者なんだ?」
下着姿で涼しいはずなのに、何故か私の額には一筋の汗が流れていた。
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