第8話 ドラゴン討伐-2
「あ……あ……」
俺の後ろで地べたにへたりこみながら、声を失っているユーリちゃん
さっき魔獣の群れに襲われた時は立ち向かう勇気を見せていた彼女だったが、今目の前に立ちはだかるドラゴンに対しては絶望しか感じられない様子だ。
それにしても……
こんな街の近くにドラゴン、しかも知能タイプのヤツがいるなんて……。
最近の異世界っては物騒なんだな!
「我に恐れを成さぬか、蒙昧なる人の子よ」
「なんで食材にビビる必要があるんだよ」
「しょ……食材だとォォ!?」
難しい単語ばっかり並べ立てやがって。それで「自分、賢いだろ?」ってマウントでもとってるつもりか?話わかりにくいんだよ、ワレドラゴン。
「な、なんでこんなところに……エルドラゴンが……。私の人生、終わったわ……ドラゴン強すぎて、お亡くなり……」
失意のどん底で聞き覚えのある語感の呪言を垂れ流すユーリちゃん。でも彼女の驚き様から察するに、この場所にドラゴンがいること自体、特異なことみたいだ。
もしかしたら、今この異世界は少し異常なのかもしれない。
「おっと我としたことが。蠅の挑発如きで取り乱してしまうとはな」
「挑発じゃないよ。近い未来の事実だよ」
「愚物が……少し、遊んでやろうと思ったが……気が変わった」
高い位置から俺たちを見下し、嘲笑していたエルドラゴンの雰囲気が変わる。巨大な体躯から赤いオーラが揺らめき、周囲の空気が灼ける。
あの揺らぎは、熱による陽炎なのだろう。森の生い茂る樹木が徐々に焦げ、灰となって上空へと舞っていく。
「貴様……何故我が灼熱の“気”を浴びて平然としていられる?」
「灼熱?どこが?」
当然、俺は自身の熱耐性を上げるバフを軽くかけ、ユーリちゃんの周りには全耐性防御の結界を張って守っている。なのでエルドラゴンの気とやらは全く熱くない。
「ビ、ビエルさん……」
「大丈夫!すぐ片づけるから、もう少し待っててね。今日の晩御飯は御馳走だよ!」
「ビエルさん!!前、まえぇぇ!!」
あ、しまった。
ユーリちゃんがあんまりにも取り乱すものだから、思わず振り返ってしまった。
はいはい、わかってますよ。どうせエルドラゴンのヤツ、口に火炎エネルギーを収束させて、そのまま吐き出そうとしてるんでしょ?
あの手のドラゴン、俺が今まで何体葬ってきたと思ってるの?いくら見下そうが、喚こうが、怒ろうが、その動きの本質は変わらない。
「まとめて地獄へ落ちるがいい!
「炎を口に含みながらよくしゃべれるね」
器用なヤツだ。
でも口を大きく開けて、発射体制に入ったが取ったが最後。
俺は瞬時にエルドラゴンの顔面前に飛び上がり、空中で拳を後ろに引いた。当然、こいつを倒すために必要な、舌を切り裂く風の魔力を軽く拳に込めて。
お前の弱点が喉の奥にある舌の付け根だってことは、昔から知っている。
「ま、待て待て!まだ準備が……」
「じゃあな、エルドラゴン」
奴が豪炎を喉の奥から噴射するか否かのタイミングで、俺は引いた拳を突き出して風の魔法をエルドラゴンの口腔へ華麗に注ぎ込んだ。
ズバズバッという音もなく、俺の放った千の風刃がエルドラゴンの口内を駆け、頭蓋ごと顔面をすべて切り裂いた。
「ありゃ。もっとスマートに舌だけ落とす予定だったのに!」
頭部をバラバラにしすぎて血液とか色んな液体を全身に浴びてしまった。
や、やっちまった……。
「ま、どうせバラす予定だったし。結果オーライってことで」
ベトベトなのはすぐに乾くでしょ。この森、結構乾燥してるし。
そんな事よりとっとと肉の解体、始めなきゃだな。美味い焼肉を食うためには、手早く処理する集中力が大事だからな。
「ユーリちゃーん!ユーリちゃんも手伝ってくんないかなぁ?」
「えっ!?あの、えっと……」
すでに脅威は去ったのだから、その位の仕事は一緒にやってほしい。何もせず、タダでご馳走にありつけるほど、人生は甘くないよ?
「早く来て―」
「あの……すいません!私、腰抜けちゃって……」
「……やれやれ」
手のかかる冒険者志望さんだ。
「
「あ、ありがとうございます……」
本日二度目の回復魔法でユーリちゃんの抜けた腰を元に戻す俺。
「さっ!これで動けるようになったでしょ?んじゃ早速やろっか!」
ドラゴンの解体は1人だと結構大変なんだよ。もちろん、主要な作業は俺が魔術と力技でチャチャッとやるから、小分けとか細かい作業をやってくれるととても助かるんだ。
美味しいお肉をいただくには、現場での適切な処理が重要なんだよ。
「そ、そんなことよりビエルさん!アナタ一体何者なんですか?」
そんな事とは何事だ!
命をいただく準備に対して失礼じゃないか!
てか改めて何者とか言われても正直困るんだけどな。どう説明すればいいんだろう?よくわかんないから端的に生い立ちから……。
「えーっと、俺は生まれてすぐエンドフォレストに捨てられて、んで……」
魔女の下で、魔王の娘と一緒にしこたま鍛え上げられて、今に至るまでの話を端的に説明した。転生者とか特典で疲れ知らずとか、そういう余計な事は言わなかった。
「……信じられない話ですけど、信じるしかなさそうですね」
「まぁ事実なんで。信じてくれたならよかった!それじゃとっととドラゴンの下処理済ませちゃおうよ!早くしないとお肉マズくなっちゃうよ!」
「私、別にドラゴン食べたくないんですけど……」
「……えっ?」
きっと食べたことないからそんな事が言えるんだ!
エルドラゴンの焼肉、めっちゃ美味いよ?
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