第13話 初クエストへ行こう

 戦闘試験を終え、ギルドへ戻った俺とユーリちゃん。試験官とギルドメンバー達による厳正なる審議の結果、俺たちはこの街の冒険者ギルド【竜神会】へのが認められた。


 ちなみにあの後、俺とユーリちゃんに気絶・卒倒させられた試験官のダルマとネギは、俺の気付魔法で即刻意識を取り戻させ、一緒にギルドへ帰還させた。戦闘試験の合否を一義的に決めるのは試験官だったので、起こさないと結果出ないからね。


「おめでとう!2人とも仮加入だけど、ウチへの入会が認められたわ」

「えぇっ!私も仮加入なんですかぁ!?」


 受付のおねぇさんに試験結果を通知されるも、かなり納得のいっていない様子のユーリちゃん。俺は事前にそのことを聞いていたから了承しているが、ユーリちゃんは自分の戦闘試験結果がイマイチだったという現実を理解していないらしい。


「あたりめぇだろ、ヘルメイス家のねぇちゃん。いくら魔術師の才能に溢れてるからって、あんなお粗末な戦闘スキルじゃクエスト行っても速攻やられちまうぜ」

「ああ。あの程度の実力しかないのに俺らだけで本加入は決められない。リーダーが戻ったら総括的に判断してもらうぜ。それにしても……」


 試験官2人の判定理由はもっともだな。俺も同感だよ。ユーリちゃんはもっと戦闘訓練を積まないと冒険は危険だと思う。性格最悪の試験官だけど、さすがは冒険者ランクダブルA。見るところはしっかり見ていたようだ……


 ……ん?


 なんかダルマとネギの熱い視線を感じる……。


「ビエルさんはとんでもない強さっすね!」

「あの神速の動きに華麗な正拳突き……俺ら、完全に惚れちゃいましたよ!!」


 げっ!いや、俺そういう趣味ないから勘弁してもらいたい!

 いきなり“さん呼び”の敬語で、しかもキラキラした瞳で惚れた!とか言うの、やめてもらっていいですか?


「エルドラゴン倒したってのも、頷ける強さだったな!」

「すごかったよ!ビエル君!」

「いやー君がいれば、ウチのギルドももっと有名になれるかもしれんな!」

「ああ!ヘルメイス家の跡取りもいるし、2人とも早く正式加入してほしいぜ!」

「期待しているよ!若い冒険者さん!!」


 まだ仮加入だけど、周囲のギルドメンバー達も俺たちを歓迎してくれているようだ。ちらほら拍手も聞こえてくる。


 いやーなんか……めっちゃ嬉しい!


「皆さん!仮加入とはいえ快く迎え入れてくれてありがとうございます!フンッフンッ!!」

「ちょっとビエルさん!なにいきなり腕立て伏せとかしちゃってるんですか!恥ずかしいからやめてください!!」


 興奮してくるとすぐ筋トレしちゃうんだよなぁ。このクセ、そろそろ直さないと変人だと思われちゃうよな。改めよう、今日から。


「2人とも今日は疲れただろうし、もうすぐ日も暮れるから帰って休みなさい。あ、もし宿が決まってならこっちで手配してあげるけど、どうする?」

「あ、定宿じょうやどにはもう挨拶してきたんで大丈夫です」

定宿じょうやど?」

「はい。俺たち、エリザさんの工房でお世話になるので気にしないでいいですよ」

「ビエル君、エリザの関係者だったの?そりゃ道理で強いワケだ」

「エリザさんのこと、知ってるんですか?」

「そりゃ知ってるわよ。世界でも数少ない錬金術師がやってる店のオーナーなんだから。それに……」

「それに?」

「あ、いや。なんでもない、なんでもないわ!さぁ、今日はもう帰んなさい!」


 絶対なんかあるな、コレ。あとでエリザさんに聞いてみよう。てか日が暮れるまでもう少し余裕ありそうなんだけどな。せっかくだし、暗くなる前にクエスト1個行ってみたいんだけど。


「ちなみにさ、今依頼来てるクエストですぐ行けそうなのってないんですか?」

「……はぁ?ビエル君。アンタまさか、今から行こうとしてる?」

「俺、疲れてないんで」

「私はもう疲れましたよぉ」


 ああ。異世界の普通の人ってこの位で疲れちゃうんだな。俺は転生特典でその概念がないからまったく共感できないが。


「一応あるにはあるけど、今から行けそうなクエストって全部ガレスウッドの依頼ばかりよ?それにあの森、最近物騒だし、私はオススメしないわ」

「あ、ガレスウッドなら俺たち、この街に来る時通って来たから知ってますよ!すぐそこの森ですよね?」


 一瞬じゃん。今すぐ行きたい。


「すぐそこって……。あの森、結構広いのよ?目的地までの距離が一番近い依頼でも、普通に1日がかりの仕事になるし。危険よ」

「行くなら1人で行って下さいね。私は疲れたんで先に帰りますけど」

「えー。ユーリちゃん、釣れないなぁ。せっかく仮でも冒険者になれたんだから、初クエスト行きたいじゃん。すぐそこなんだしさ」

「そりゃビエルさんにとってはそうかもしれませんけど、私は普通の人間なんで、お付き合いは難しいと思います」

  

 俺は普通の人間じゃない?もぉ、ユーリちゃん。それ、失礼発言だよ?

 でも無理矢理連れて行くのもさすがに可哀そうか。1人だと迷いそうで不安だから一緒に来てほしかったんだけど。


 あ、そうだ。

 一応最後にダメ元でこの提案だけして、無理だったら1人で行こう!


「おんぶしてあげるからさ!一緒に来てほしいんだけど、ダメかな?」

「……えっ?」


 アレ、なんか意外な反応だな。あり得ないって言われると思ってたんだけど、まんざらでもなさそうだ。顔が赤らんでいる意味はわからないが。


 いや、さすがに勘違いだろう。

 疲労が溜まっている状態で、ただ道案内するためだけに、おんぶされてわざわざ危険な場所まで連れて行かれたいなどと思うはずはない。


「ゴメン!やっぱひとりで行ってくる……」

「行く!!」


 そうだよね。行くよね。

 ……えっ?行くの??


「ねぇちゃん、止めときな。そんな状態で行ってもビエルさんの足手まといになるだけだろう」

「そうだな。なんなら俺らがビエルさんと一緒に……」

「あーもう、うるさい!私はビエルさんにおんぶされたいのッ!!」


 ネギの制止とダルマの代替案を遮り、ユーリちゃんがとんでもない願望を叫んだ。

 ちょっと何言ってるかわからない。


「えっと。それってどういう意味……」

「ハッ!?ち、違うの!そういう意味じゃなくって……」

「なるほど。そういうことなら俺らはお邪魔虫だな、ネギ」

「ああダルマ。ビエルさん、ユーリちゃんのワガママ、聞いてやってくだせぇ」


 ユーリちゃんの頭から湯気のような白い煙が上がっているような気がする。いったいなにがどうなってるんだよ。


 まぁついて来てくれるならありがたい話か。じゃあ、時間ももったいないんで。


「よっと」

「きゃ!」


 ヒョイっとユーリちゃんを軽々しく持ち上げ、背負う俺。さぁ、冒険の準備は整った!では、張り切って初クエスト、行ってみようか!


 ……ん?

 それにしても、思ったよりズシッとくるな。


「ユーリちゃんって、見た目より意外と……」

「それ以上言ったら●しますよ。あとお尻は触らないでくださいね」

「すんません」


 やっぱ置いて行こうかな。


「それでは、いざ!初クエストへ!」

「ユーリちゃん、元気じゃん!よし、んじゃとっとと目的地を目指して……ん?そう言えば俺たち、どこへ向かえばいいんだっけ?」

「はっ!?」


 焦る心は冷静さを失わせる。

 俺たちはまだ、行き先を決めていない。

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