にぼし
「【にぼし】が無いっ!」
「ん……なんですかー……いきなり……」
僕はとある研究所で急に叫び出したこの博士の助手をしている。今はあるウイルスの研究中をしていて、ちょっと仮眠していたのだが、博士の声で目覚めてしまった。
「なんですか急に。今休憩中だったんですけど。それに、僕達もう二徹ですよ? それなのによくそんな大声出せますね……で、なんなんですか。その【にぼし】って。博士、味噌汁でも作る気ですか?」
そんな事を言っていたらグゥと腹の虫が嘆く。そう、僕達はろくにご飯も食べていない。この2日間、ひたすら研究に没頭していたのだ。
「助手君。これはおやつなどではない。この【にぼし】が、この世界を終わらせてしまうかもしれないんじゃぞ!」
「は?」
いやいや。にぼしって、あの煮干しでしょ?カタクチイワシ等から作られる小魚を名の通り煮て干した水産加工品でしょ? とかそんなこと言っていたらお腹が空いてしょうがない。あるなら早く食べたいものだ。煮干しを。
「博士ー。あるならさっさと煮干し、出して下さいよ。そのままでいいんで」
「なんじゃと! 助手君! 【にぼし】がどれほど恐ろししいものか、分かっておるじゃろ! とにかく、助手君も紛失した【にぼし】を探せ!」
え? 恐ろしいの? いや、意味分かんないんですけど。それに、探せって……さっきから博士の言動の意味が分からない。まさか、ウイルスの研究に使う重要なサンプルだったり……いや、実験に調理済みのイワシなんて使う訳がない。ここは料理研究所では無い。
ただの、しがない理化学研究所だ。
「この部屋も探した……あの部屋にあるかな……いや、ここに置き忘れるなんてことはあるはずないが……」
いつも忘れっぽい博士がこんなに真剣な目をしているのは見た事が無い。研究に打ち込んでいる時はどこか、嫌々している様な、疲れている様な、そんな目をしているのに……
すると博士がまた叫んだ。
「あ! そうだ助手君。君に【にぼし】の話、そういえば一度もした事なかったな? いや、すっかり話した気になってしまっていたよ。すまなかった」
そんなことを言うと、博士の目がいつもの少し頼りない印象に戻った。
「あー、さっきから煮干し煮干しって、一体なんなんですか?」
博士は大きく咳払いをすると、まぶたをスッと閉じて、ゆっくりと開けた。博士の目が、再び真剣なものになった。
「助手君。これから話すことをよく聞け。」
僕は唾を飲んで、博士の目を真似る様に真剣な表情で話を聞いた。
「元々我々のいるこの研究所は、一つの『ある目的』の為に作られた。そのことはこの研究所の中では、私だけが知っている。そしてそのある目的というのが、スイッチ一つで世界を滅ぼしかねない究極の化学兵器、【新型極秘爆弾 New Bomb Secret】コードネーム【にぼし】の開発だったという訳だ。そして今私が探しているのは……【にぼし】とその起動スイッチだ」
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